第2節第4話『あとのはなし』

—同時刻 平野の高台—

「……おい。あんたのとこの殲滅兵器ロボット、尻尾巻いて逃げたぞ」


 黒い縁のメガネをかけた長身の男は、双眼鏡を覗き込みながら、怒気をこめてそう呟いた。


「ミスター・T。だから言ったろう。あれは

試作品プロトタイプなんだ。やりたいことをテキトーに詰めただけのツギハギ。むしろよくやった方だと思わないかい?」


 オールバックでキメた黒眼鏡の男のぼやきに、金髪コーンローの男が言葉を返す。


「あんたが、“オレ様の研究に失敗はねえ。まかせろ。見合う報酬があれば手伝ってやる”っていうから、オレはあんたに依頼したんだけどな」


 オールバックの男は双眼鏡を外して、先ほどと同じ口ぶりで言葉を紡ぐ。


「そう言ってくれるなよ。実験に失敗はつきものだ。『失敗は成功の母』っていうのは、

極東こっちの言葉だろ?」


「こっちは金積んで依頼したんだけどな……まあ、いい。『本丸』の準備はできてるんだろうな?」


 オールバックの男が、コーンロウの男の隣に立って確認を取る。


「そっちはOKだ。『生贄神性◾️◾️◾️◾️◾️◾️』の準備はできてる。けどいいのかい?」


 金髪コーンロウの男は、かけているサングラスに指を押し当てて、オールバックの男に問う。


「なにがだ?」


「“アレ”を起こした結果は、必ず決まっている。バッドエンドじゃあなく、軌道修正不可あともどりなしのデッドエンド。それを受け入れられるかい?」


 ミスターTと呼ばれた男は、何度目かの同じの問いに辟易したのか、大きくため息をつく。

 彼の初期衝動は『復讐』だ。かつての友に報いるためなら、人類全滅デッドエンドも受け入れる。そのつもりで、“関わらないほうがいい”と噂されている『暗部』にまで関わった。

多くの糾弾が生まれるだろう。非難の声が止むことはないだろう。それでも彼は、修羅になることを選んだのだ。


「聴き飽きた。そんなことでオレが思いとどまるとでも?」


悪いなソーリー兄弟ブラザー。今更覚悟を問うまでもなかったか」


「ああ」


 短く返事をして、ミスターHは階段に足を乗せる。


「……最後に確認していいか、シガレット」


「どうした、ミスター・T」


「オレの行動は、正しいか?」


 ミスターTは小さく振り返って、シガレットと呼んだ金髪のコーンロウの男に問いかける。シガレットは、サングラスのブリッジに指を置いて答える。


「——さあな、それはお前が決めることだ」

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