第2節第3話『原宿までの道のり-3-』

 前田未来。2番目の不可魔術師リアライザー。現代に覚醒した数少ない不可魔術師の一人である。権能としては、『時間』を主に取り扱うことができる。自身の『当たり判定』を“過去”や“未来”に移すことができたり、条件が揃えば事象の再現も可能となる。あるいは『事象』そのものを未来に先送りすることもできる。

 これだけでも十分強いが、彼には基幹魔術も備わっている。敵の動きを封じる

銀の拘束シルバーコールド』。基本的な攻撃手段となる『魔弾エーテルバレット』。まさに攻守を両立した魔術師であり、およそ不足はない。


 相対するは、不明点が多い覆面の男。

未来にとって、わかっていることは二つ。

稜太の打撃を耐えるほどの耐久性の高さを有すること。それと、自身の魔術を弾いたということ。


 未来は考える。


(……いや、あれは弾きガードよりも、

無力化キャンセルに近かった。その証拠に、僕の撃った『鎖』が消えている。……もし仮に、彼の魔術が『魔術の無力化』なら、それはすごく厄介だぞ……)


 未来は思考をやめて、攻撃体勢を整える。

背後に数十発の魔弾を浮遊させ、覆面の男を迎撃する手筈を万全にする。しかし、それをみてもなお、覆面の男は高笑いする。


「まさか、それだけか?」


「——は?」


 覆面の男は笑うのをやめて、未来のいる場所へ猛進する。覆面の男の想定外の動きに、未来の判断は遅れる。自動で発射させる魔弾。覆面の男は向かいくる脅威に少しも怯えることはない。自身に向けられた魔弾を『消去』して、未来との距離を詰める。


「魔術師なんて、手札を封じレばこんなもの!」


「なっ——!?」


(やっぱり……! こいつの能力は——!!)


 だが、もう遅い。覆面の男は魔弾を全て『消去』し、『鎖』も全て無効化し、未来を押し倒す。


「——ッ」


「残念でしたネ。第二の不可魔術師も、所詮はこのテいど。チェックメイ——」


 覆面の男は、致命の一撃を未来に与えようとした。だが、その一撃は床に突き刺さる。


「……!?」


 電車の急ブレーキ。それによって、覆面の男の狙いがずれたのだ。


「クソ……!」


「残念だった、ね!」


 未来が覆面の男を蹴り上げる。鈍い金属音と共に、覆面の男は後退する。


「まず……い……捕まるのは面倒くさいことになる。『マスター』の命令にはない、想定外だ……!!」


 覆面の男は未来に背を向けて、ふらふらと窓際へ移動し始める。だが、そこへ。


「コラ待て逃げんなあああああ!!!」


 覆面の男に電車の椅子が剛速で衝突する。この衝撃には、さすがの覆面の男も耐えられない。勢いよく吹き飛び、銀色の扉に激突する。

椅子の投手はもちろん稜太。『強化魔術』で腕力を強化して、椅子を引き抜いて、そのまま投げた。


「ゴリラめ……!!」

 

 膝をついた覆面の男は忌々しげに呟く。


「褒め言葉か犯罪しゃ……って、お前」


隣の列車からやってきた稜太が、覆面の男の様子を見て驚いた様子を見せる。


「……か?」


 覆面の男の目出し帽が少し破れている。そこから覗くのは、鋼の表皮。未来は合点がいったのか、自分の考察を語り出す。


「なるほど。稜太の打撃を喰らっても、椅子にもろにぶち当たっても立ち上がってきたのは、君がロボットだったからか。——だけど、もう詰みだね」


 覆面の男——いや、正体不明のロボットの表情が曇る。未来は腕をうげて、振り上げた手に魔力を集める。


「……殺すまではしないけど、一度は再起不能に追い込まないとね。ロボットは何回でも作動するのがめんどくさいところだし。それじゃあ——」  


 未来が魔力の短剣を振り下ろす。剣の鋒が正体不明の男の胸を捉えようとした瞬間、


「マダ…………だ!!」


「なんだ!!???」


 未来が大きく後方に跳躍する。


「大丈夫か!?」


 すぐさま稜太が、未来は駆け寄る。


「大丈夫……だけど。まずい。何か、してはいけないことをした気分だ。例えるなら、学校の窓を割ってしまったときのような……!」


 二人は恐怖を抱きながら、正体不明の機械へと視線を移す。その機械は、変容の途中だった。

ガタガタ、と不気味な金属を鳴らしながら、『腕』が身体を突き破って姿をみせていく。

その数は4本。


「鏡?」


 そのうちの一本の手の中には、紫色の鏡がある。


「“——身体の5割の損傷を確認しました。自己防衛システムの作動により、武装形態の解除の申請を行います”」


「“『煙る鏡』、許可。『太陽の竜』、不許可。

『雨の女』、不許可。『祭壇の王』、不許可。

武装形態限定申請——許可確認。『煙る鏡』の使用を認めます”』


 人間味のない機械音声が列車内に響く。


「……ッ、何かされる前に潰す!!」


 稜太が再び、謎の機械にむけて打撃を放つ。


「なっ!?」


 しかし、その打撃は機械の身体をすり抜けた。気がつけば、機械は黒い煙に包まれている。ほぼ、その姿を確認することができない。


「稜太、はなれ——」


 未来が叫ぼうとした瞬間。

機械の姿は、もうなくなっていた。煙と共に姿を消してしまったのだ。稜太は自分が透明になっていたのか、と自分の拳を確認する。未来はゆっくりと稜太に歩み寄る。


「いなくなったぞ……」


「なんだったんだろう、あのロボット……」


 かくして、原宿への道中での事件は終幕した。謎は残ったままだけれど、そんなことは置き去りにして、事態はゆっくりと進んでいく。

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