第2節第1話『原宿までの道のり-1-』

 稜太たちは駅に移動していた。目的はもちろん、原宿に向かうため。二人は電車に乗るためにホームは向かっているところだ。


「……けど、君の父親があそこまでラーメンオタクだとは思わなかった。おかげで、僕たちが原宿でいけるわけだけど」


 未来が話を切り出す。


「そうなんだよなあ…。ほんとオレの父さん、ラーメンのこととなると目がないから。チケットもオレと未来の分も用意してたんだぜ?」


「ほんと、よかったよかった。ありがとう、稜太——ん?」


 ニコニコで感謝を伝えていた未来が、スン、と真顔になる。頭の中に浮上してきた疑問を口にする。


「待って。ってことは、僕と稜太の関係がバレてるってこと? まだ挨拶も、なんも言ってないのに?」


「おう。オレが嬉しそうにしてたから、何か言いことがあったんだろうなとは思ってたらしくて。ほら、1週間前、デートしただろ?」


「した……けど、それが——まさか」


「そのまさか。見られてたらしい」


 最悪、と言わんばかりに手で顔を覆い隠す未来。


「嫌なのか?」


「当たり前だよ! 知らない間に他人にカミングアウトとか悪夢そのものだよ! 腐男子おとこずきってバレると、魔術師としての沽券にも関わる……! これはちょっと、考えないとね……」


「え!? まさか、別れるとか……!?」


 稜太の顔が青ざめる。最悪の結末を想像して、絶賛心情低迷中だ。


「そんなわけ。デートする場所は考えないといけないなって話だよ」


「はぁ、なんだぁ……」


 安堵で胸を撫で下ろす稜太。二人の話が終わったところで、ちょうど列車を汽笛を鳴らしてやってきた。


 稜太が、列車に乗り込む時に二人の女子高生とすれ違う。気になる話が聞こえてきたので、少しだけ『聴覚』を鋭敏にする。


「ねえ知ってる? 連続殺人犯が逃走中なんだって……!」

「マジで? それやばくない?」

「京都の刑務所から脱走したらしいよ、怖いんだけど……寝れないかも(笑)」

「ちょまじ、笑い事じゃないんですけど〜」


——よくある噂話だと思って、稜太は聴覚の鋭敏化を解除する。凶悪犯罪者が脱走してとして

その一連の騒動に自分がそれに関わることなんて滅多にないのだから。


▽▲

 列車は順調に走行している。二人が乗車したのは、新大阪からなので、約2時間列車に揺られることになる。列車の車窓から見える景色は面白い。さまざまな風景が、音楽のように、あるいはビデオのように滑らかに流れていく。窓から見える景色というのは、老若男女誰でも楽しめるコンテンツである。


「——」


 ……が、稜太にとっては退屈極まりないものだった。スポーツ観戦を好む彼にとって、なんの歓声もない風景が流れていくだけの『車窓』は面白みを感じられるものではなかった。


「なあ未来。なんか面白い話してくれ」


 なので、こんな無茶振りをかましてみる。すると、未来は黙々と読んでいた本を閉じる。


「……無茶振りにも程がある。僕はただの一度も、そのフリに対してうまく切り返せたことはないぞ」


「なんでもいいからさ、頼む!」

 

 両手を合わせて頼み込む稜太。それをみて、未来は口元に拳を当てて、考える。


「あるけど、怖い話になるよ?」


「どんとこい!」


 ポン、と稜太は自分の胸を叩く。


「じゃあ、話すよ」


 未来は渋々語り出す。ワクワクを抑えられない稜太の様子を受けた結果だ。


「——5年前の話。事件が起きたのは、大阪のある歓楽街だったんだ。犯人はバーに侵入し、勢いで13人を刺殺。その早業は誰にも捉えることはできず、ただ『死』を受け入れることしかできなかったらしい。動機は——『同性愛者の根絶』。“人類の繁栄には邪魔な存在。だから殺した”……と、取り調べで弁明したそうだ」


「やっばぁ……。いや、オレたち当事者だから、余計に怖いな……!」


「まだ話は終わってないよ」


「犯人——ここでは仮にAとしておこう。Aは、並外れた身体能力を持っていた。現場には現役の魔術師がいたんだけど、彼らの魔術よりも先に、犯人のナイフが炸裂した。……この恐ろしさがわかる?」


「どういうことだよ?」


「——全ての人間を、『自分が攻撃される前』に殺したんだ。どう? エグいでしょ?」


「肝が冷えたわ……想像以上にエグかった」


「ごめんごめん。この話はここまでに「きゃああああああああああ!!!???」


 未来の言葉を遮るように、車内に女性の絶叫が響く。稜太も未来も一瞬で意識をそちらに移す。


「後ろの車両からだ! 行こう稜太!」


 判断は一瞬。未来は席を離れ、列車を繋ぐ扉へと走る。


「ったりまえだ!!」


 稜太もそれを追う。そして、扉を勢いよく開けたその先には——

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