第21話 嘆きの冒険者王子

「なぁ鍛治親父、もう少しマケてくれてもいいだろうがっ!どうせこれっぽっちも売れてないんだからよ」

「黙れこのボンクラ冒険者がっ!ロックタートルくらい狩れるようになってから一丁前な口聞きやがれ!」


 威勢のいい冒険者と鍛冶屋の店主が騒ぐメインストリート。このような喧騒は茶飯事だ。その中を進む一行。


「これもいい機会じゃ、お主ら装備整えるべきじゃな。キルシュは銀級の割にはなんというかみずぼらしいというか…夜之介は先の湿地で変なカエルを追っかけ、その袴とかいうの泥だらけではないか」

「「確かに……」」

「んぢゃーこの街である程度、路銀と装備代稼いでくか」


 プジャーに指摘された2人は自身を見下ろし納得の声を上げる。


 冒険者ギルドが近づくと何やらガシャーン…ガシャーン…と板金を打ちつけるような音が等間隔で聞こえてくる。とりあえず扉を開き中に入って受付へと並んで待つ。猿に侍を引き連れてるキルシュ。いつもは冒険者達の視線が集まるが此度は集まらない。視線集まるその先は…


「どうかこの僕、只のレオンハルトに君達の力を貸してくれないか?!この依頼を遂行せよと。僕の使命なんだと!心が訴えかけてくるんだ!だが僕だけの力では成せそうにない。だから頼む!」


 そこには語り部が語るような絹のように滑らかな金髪の男が3人パーティに声を掛けていた。そしてにべもなく断られていた。


 すると唐突に冒険者王子が膝から崩れ落ちた。銀でできたグリーブが木の床に激突しガシャーンと音が鳴る。


「なんでなんだぁ〜!?!?僕ではやはりダメなのか?頼りないのだろうか?………しかし希望は捨ててはいけない。立つんだレオンハルト!この怠け者め!状況を覆えすには行動あるのみじゃないか!」


 グッと握り拳を作り立ち上がると、そそくさとギルドを出ていこうかとしていた2人組の肩を掴む。


「いきなりすまない!僕は只のレオンハルト。僕と一緒に正義の心を燃やさないか?こう見えて僕はミスリルランク。最前線で闘い勝利を掴むと約束す…」


 言い切る前ににべもなく断られていた。 


 ガシャアーーーンと音が鳴る。


 受付にて顔見せに立ち寄ってた一行は音の原因を理解した。そしてとりあえずキルシュはギルドの図書館で情報収集、プジャーと天夜叉は宿を探しに出ると話し合っていた。


「お前らに任せて大丈夫かよ?」

「なに。これも常識を手にする訓練じゃ」

「キルシュ。流石に子ども扱いされるような歳ではないぞ」

「いや最初迷子になったあげく騒動起こしてたじゃねぇか」

「そうだったか?」

「やぁ!君達はこの街は初めてかい?僕の名前は只のレオンハルト!良ければ僕が案内するよ!そしてどうか僕の依頼に付き合って欲しい!ギブアンドテイクって奴さ!どうだろうか?」


 どんな依頼かと覗き込む3人。その内容は沼地の処刑場跡地に花を添えて欲しい。但し枯らさずにというものだった。


 特段難しいとも思えない夜之介とプジャーは首を傾げキルシュに目線を向ける。キルシュは首を横に振った。


「悪いなレオンハルトさんよ。俺らは色々準備をしなきゃいけねぇんだ」

「そ、そんなぁー!?君達が最後の希望だったのに………」


 目の前で崩れ落ち視界から一瞬消えた冒険者王子。鼓舞を入れ立ち直りトボトボと出口へ向かう。両開きの扉を押すが一向に開かない。気まずそうに受付嬢が声を掛ける


「あ、あの。こちらからは引き戸です…」

「そ、そんなぁ〜!?!?僕はそんな事も判断がつかないくらいに落ちぶれているというのか?!こんなのミスリルランクにあるまじき失態ではないか!!!返上せねばなるまい………否!これを手にした時誓ったではないか!ただただ正しきを成せと!」


 今日何度目か定かではないが崩れ落ち、返上を決心しプレートを強く握るが踏みとどまった冒険者王子が去って行った。


「なんで断ったんだ?面白そうじゃないか」

「胸当て、グリーブに籠手、そして外套。あの装飾に只のレオンハルトといやぁ明らか貴族っぽかったしな。そうなると連む前に少し情報が欲しい。聞いてみるか。なぁすまんがあの人について話を聞かせてくれないか?」


キルシュが近くにいた冒険者達に声を掛ける。


「新顔か」

「ああライデルから来たばかりだ。なんで全員に断られてんだ?なんとなく察してるが」

「あいつはなぁ、なんというか決して悪い奴ぢゃなく、むしろいい奴なんだが間が悪い奴というか…武器を持ってなかったら?」

「ああ、それも気になってたんだ」

「門番に預けてんだよ」

「は?」

「『君達が守るこの街に物騒な物を持ち込むわけにはいかない!信頼の証だ!』とか言ってな?どんな平和な街で育てばあんなに他人を信じれる?んでそんなお貴族っぽいのがこんなとこに何故ってな」

「まぁホームにしてる奴らからしたら貴族はより警戒対象だろうしな」

「それにあのやかましさとくればなかなかな。それでも興味本意で着いてく奴も最初はいたんだ。だが奴は間だけぢゃなく運も悪いらしい。行くとこ先々でやれ繁殖期やら亜種の発生やら見舞われた」

「て事は着いていった奴らは皆…」

「いやそれが全員無事なのさ。アイツが食い止め逃し、あげく討伐。ミスリルに上がったのも奴1人の功績だ。腕は確かって事は間違いねぇ」

「ますます謎な人物だという事はわかったよ。ありがとう」

「おう。せいぜい巻き込まれないようにな」


「って事らしい」

「ますます面白そうぢゃないか」

「うーん。でも家柄がせめて割れねぇと迂闊に動くのは気が引けるなぁ。まっまずは装備見繕うのが先でいいだろ。宿、頼んだぜ」

「キルシュがそう言うのならそうなのか。あいわかった」

「ビビりすぎじゃ、貴族も所詮人の子ぞ」

「あいつが仮に飛龍船関係の貴族とかだったら面倒起こす訳にもいかねぇだろ。俺は盾持ちだけに慎重派なんだよ」


 そう会話をして一行は別れる宿を探しブラブラとする夜之介とプジャー。刀の柄頭に手を置くその上にプジャーは座っている。キルシュとは違いちょんまげが邪魔なのだ。


「一行にいい所がないのぉー」

「え?どこもよかったぢゃないか」

「わかっとらんのぉー」


 その時そばかすを顔に残す未だ裏若き乙女が宿屋の呼び込みをしていた!


「ここじゃ!ここしかない!決まりじゃ!あのあどけないそばかすの幼顔。それに似合わない富んだ胸!」

「決め手はそこなんだなプジィ。だが確かに悪くないな!」

「当たり前じゃ。ワシはな…かつて全身を胸に包まれるべく身体を小さくする魔法に心血を注ぎ込んだ事がある。が等々、実らなかった。まぁ奇しくもその夢はこの身体になった事で叶ったがな」

「ぶふっ。そんなことしてるから封印されたのではないか?」

「うるさいわい!」


 癒しを与えてくれる最良宿を見つけた2人、キルシュを連れてきて感想を聞くと「別に良いんじゃねぇ?」とそっけなかった。

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新世界に生きる冒険者ども れみまるロック @remi-maru

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