第18話 スキル[挑発]

 

 プジャーの冒険者登録を終え、宿へ向かう一行。


「これキルシュ。ワシに組紐を買うてくれ。このランクプレートなる物、チェーンに毛が挟まって敵わん。これ夜之介!尻尾を引っ張るでない!」

「おん。道具屋寄るか」

「いや、やはりここはスカーフに通すか。仕立て屋に変更じゃキルシュ」

「やれやれ注文の多いジジィだな」

「愚か者め。説明を聞くに冒険者とは名を売る稼業なんじゃろ?トレードマークを作らんでどうする!それに見たか?カウンターにいるあの女子どもの熱い視線を。ただでさえ愛くるしいワシがスカーフなぞ付けてみろ。まさに鬼に金棒じゃ」

「はいはい。それより杖とか買わなくていいのかよ、あんた魔法使いなんだろ?」

「この街にワシのサイズに合う杖があると思うてか。それになぁ杖は基本的にその土地に馴染む物を現地調達するのが基本。支配力が違うでな。まぁ万寿を生きる杖が望ましい。中には万能の杖なんてものもある」

「確かにミニマムサイズの杖なんかねぇか」

「森に行って削って作るか?俺も新たな棒を調達したいしな」


 どうやらプジャーの定位置はキルシュの頭で決まりのようで!スカーフを買えと尻尾で促す、その尻尾掴む天夜叉。そして森へ向かう事となった。スカーフを身につけやれ角度がどうとか長さがどうとか。



 ギルドで依頼をチョイスし大森林へ向かう中層でのレッドソックスの討伐とポイズンシェルの殻の採取。レッドソックスは足を血に染めた狐の魔物でポイズンシェルは毒々しい色をした巨大カタツムリである。中層へ向かう途中で木片やら小石やらを宙に浮かべグルグルと回すプジャー。


「おいジジィ!この鬱陶しいのどうにかなんねぇのかよ。視線にチラチラ入って落ちつかねぇんだわ」

「大たわけめ!これも外への感応力を極める修行。ひいては支配力に繋がり、それはお前らの益となるのだぞ!ガウディなら、その強大な精神力で気にも留めんだろうな。ふっ、まだまだ小童よな」

「ぐぬぬっ」

「プジィ。杖はとりあえずこんなもんでどうだ?ただそれっぽい形に削っただけだが」

「どれ。ふむ…掴み心地は悪くない。使い捨ての杖にしては上等じゃ」


 天夜叉が作った杖を尻尾で掴み巻き付けるキルシュの頭の周りを衛星軌道で回ってた木片や小石が速度を上げギュンギュン回る。


「ちょっおいっ、目が回る!」

「ほれほれこれもお主の修行じゃ!こんなのはどうだ!ほれほれ〜ウキャッキャキャ」

「クソっ楽しみやがって猿の本能に引っ張られてるぢゃねぇか!」


 回ってるクズが星を形取ったり、波打つように動いてキルシュを翻弄する。


「おい。遊んでねぇで、そろそろキャンプ地作んぞ。ジジィ、魔法でどうにかなんねぇの?」

「今はまだこの体よりも大きいものは動かせん。主らで進めよ」

「そうかい。夜之介は骨組みになりそう木を集めてくれ、俺はこの辺整地して焚き火作っとくわ、ジジィは…俺が刈る草くらいならどうだ?」

「心得た」

「よかろう」


 こうして焚き火を中心にして木を骨組みにし獣の皮を被せた即席のキャンプ地が出来た


「ワシは寝るぞ?決して危うきの無いようにするんじゃぞ。この身体では一発で持ってかれる。いいな?」

「んじゃ夜之介お先に…」

「ああ。おやすみ」


 2人が寝静まった頃天夜叉はカリカリと木の板を削っていた。やがて形取ったのは鬼の頬面。鷲鼻に口端が吊り上がり牙が剥かれていておどろおどろしい。出来た頬面の裏面を空に向け置き、それを三角に囲うように木の実を配置。三角の頂点に葉っぱがついた木の枝を刺す。そして座しながら掌印を結び一礼を捧ぐと木の枝がぷっくりと膨らみ、艶のある木肌に短い突起を手足にし、虚空の目と口を持つ持つ妖精らしきものが現れた。


「清らかなる息吹を頼む」

「パキキッ」


 天夜叉が何やら頼むと妖精が頬面に向け手を擦り合わせるようにして拝むと魔力を帯びた呪印らしきものが刻まれていく。終えると手を振り木の実を一つ持ち地に埋まるようにして消えていった。


「お主。今いったい何を呼び寄せた…」


『この者、封の間に入ってきて存在を感じた時から凄まじい器の持ち主だと思ったが、とんでもない…いま今呼び寄せた木の精。神仏の類いか…人間が神格を得た者とは比べるもない程の。それに臍下丹田あたりに何やら封をしておる。これは接し方を間違えれば危ないのぉ。少し探りを入れるか』


「起きたのかプジィ。今のは…友と言うか保護者というべきかコロボクって名だ」

「近しい者ならば良い、なにやら凄まじい気配を感じたでな。少し身の上話を聞かせてくれんか?ワシも少し語ろう」


 焚き火を囲み語る。島に赤子1人預けられた事、その時守護してくれたのが先の妖精の事

そこに暮らす鬼や様々な種族と過ごし鍛錬に明け暮れた事、そして冒険に出た事。


「鬼と人の子。そして夜叉の一族の出か。成程、得心がいった」

「所在を知らないか?」

「わからぬな。ワシが見た夜叉は笠を被りそこのと同じような頬面、そして仕込み杖。修羅に堕ちた男と闘うその姿を見たのじゃ。修羅…アレもまた人外の理よのぉ。当時ワシらが駆けつけた時には一つの町が皆殺しに遭っていた。魔法も物理も全て切り伏せられ成す術あらず、言の葉も通じない。生き残れたなら魔法だけでなく技量も高めねばと強く思った。そこにふらりと現れたのが、かの者だった。見惚れる程の剣の冴え。だが修羅同様に恐ろしくもあった…修羅を斬り伏せ立ち去るとこに何処ぞの誰でありますやと問うたのだ。返ってきたのは『我、夜叉の一族也いちぞくなり、修羅生まれるとこに我らあり』とな」

「おーー。そうか。この頬面の作りは島の鬼に教わった。なんでも夜叉の一族に習ったのを又、俺が教わった。この裏面の模様は毒を吸い込むのを防いでくれたり息吹を整えてくれる|呪い『まじない』が掛かっているんだ」


「ところでプジィ。鉄がくっついたり離れたりする石や魔法を知らないか?」

「マグネ鉱石の事か?魔法は…ふむ…磁力と呼ばれるもので物を浮かせるフロートボードの実験がどうとか聞いた事があるな」

「それはどこにある?!!」

「な、なんぢゃ!落ち着かんか!」

「あ、いやすまない。幼き頃ひっついたり離れたりする石を見つけたからは夢中になって遊んでてな。不思議でならんが魔法を学べば己だけでアレが出来ると思うといてもたってもいられないんだ」

「むぅー学術都市アルカディアでならあるいは」

「そこに行こう!」

「待て待て。別大陸にあるここからはかなりの距離となる」

「むぅー」

「なんだ、やけに盛り上がってんな」


 キルシュが起きてきてこのまま狩りに向かう事になった。少し進むとギャアギャアと人間の叫び声が聞こえてきた。


「感知されてるな。近いぞ」


 別名血濡れ狐と言われるレッドソックス。人間の叫び声を模して獲物を呼び寄せる習性がある。血濡れた爪はとてつもなく鋭く、俊敏性、跳躍力で森林狼を狩れる程である、また狡猾さ連携などでも上だ。


「時にキルシュ。お主敵視は取れるのか?」

「あの盾ガンガン叩いて挑発する奴か?…アレの仕組みが良くわかんねぇんだよな」

「叩いて音を掻き鳴らすだけでなく、声に魔力を乗せるのぢゃ。キルシュよ。このトサカも合間って阿呆鳥のようだな…ウキャッキャッキャッ」

「あ"?なんだと?」

「キルシュよ。お主普段は激昂しやすいタチか?」

「あれ?そういやなんでだ?」

「これが本物の挑発じゃ。声帯を意識し魔力を集める。今はできんでもいい。意識する事が肝となる。顔も視覚効果的に大事ぞ」


 3人共ニヒルな顔を浮かべそれぞれ練習してみる。


「待ちきれず来たか」


 チラチラとレッドソックスが顔を出し、3人の顔が引き締まる


「うし。おいっ…キツネ野郎!」


 キルシュが盾をガンガンならしながら挑発する。


「ぶふっ」

「はぁ…お主、貶すの下手か」

「「ギャーッハッハッハ」」

「「ヒィーヒッヒッヒ」」

「くそっ笑い声まで人のそれかよ」


 キルシュの拙い挑発に笑う一同と魔物であった。







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