第16話 森の中ダンジョンで出会った

 街から出ている大森林ダンジョンへの定期馬車に2人は揺られながらダンジョンについて会話を弾ませていた。大森林のダンジョンへの道は整備され魔除けの結界が張られている。ダンジョンがもたらす利益の大きさに計画が進められたのだ。


 2人が特に盛り上がったのは、"ダンジョンは魔物である"という説。その中でも龍がダンジョンへに成ったという話には天夜叉は興味を示した。龍の性質。宝石や財宝の類いを好む、眠りにつくのが好きで夢を見ている、知的好奇心が深く、ただ争う事よりもどこか戦いを好み、時には稽古や観戦に興じる事もある。これらの性質はより高位の龍に見られる


 集めた財で人を集め、喰った魔物をその膨大な魔力により生み出し戦わせ見物する。竜は龍と成り、果てには星になる。彼らは高次元な進化が可能な生物であるとされ、眠っているだけで強くなるその性質上、他の生物と比較にならないレベルで魔素を取り込む能力が高いのではと今も研究されている。


 会話をしてる内にあっという間にダンジョン入り口へと辿り着いた。森の物見櫓とは違い切り拓かれた場所に石造りの立派な拠点が姿を現す。


「この時間に来るなんてお前らくらいだぞ。ようこそ大森林ダンジョンへ」

「日が登っちまうと混むからな」


 受付のカウンターに背が小さいのか高い椅子にちょこんと座り顔を覗かせている。その顔はフードを被り、輪郭も覗けないほど暗くまるで虚空、そこにぼんやりと光るまん丸な恐らく目だろう。そしてその声は声帯からではなく何か挟んで喋っているような不思議な声色。彼らは見た目とギルド管理下にあるダンジョンの管理人である以外には何もわからない。ただケイブトラベラーが彼らの総称である。天夜叉があちこちの角度からフードの中を覗こうとしている。


「無駄だ。ランク鉄級までの制限解除。刻限は2日。手を出せ」


 2人が手を出すと、その甲にスタンプを押した。鈍色の鍵マークその周りをぐるりと一周する文字列。その文字列が徐々に消え3日を過ぎると管理人が現れ生死の確認、そして救助依頼を出すかどうかの判断が下される。階層が深くなるにつれランクによる制限のため魔法の扉で封じられている。その為の鍵である。潜れる階層は同行者のランクまでとし、自己責任の範囲となる。


「階層は3階で頼む」

「2番ゲートだ」


 2人はゲートの扉に近づくと水面に似た膜に変わった。そこを潜ると大森林3階層へと視界が切り替わる。


「おおー!なんというか…植えられた森って感じだな」

「まだ浅い階層だからな。低いランクの奴はまず根が張りまくってたりするような森は歩き慣れてないだろうしな。戦闘なんてもっての他、剣を振り回しては幹に吸われて抜けなくなるのがオチだ。なんか戦闘のために開けた場所も多いし、視界も全方位塞がってない。作為をやっぱり感じるよな」

「迷宮様に魅せる為の舞台というわけか」

「そうかもな。魔物とのエンカウントも天然と比べるとかなり多いからギルドからはパーティを推奨される」

「武技を試すにはもってこいだな」

「と、さっそくお出ましだぜ」


 森を散策していると遠くから木の間を縫うようにして森林狼に乗るゴブリンが4匹向かってくる。


「ゴブリンライダーだな」

「ふむ。鞍もハミも手綱もなしと。毛を掴んでるだけではな…」


 天夜叉は地面に転がる石を2個広いポンポンっと投げては掴み重さを計る。そして投げ打つとゴブリンに顔面に当たりグギャッと声を上げ落ちる。もう一匹も同じ様である。ゴブリンを落とした二頭はウロウロと足を止めるが二頭はこちらに向かってくる


「二組ずつだな」

「あいよ」


 2人との距離が縮まった時キルシュが前に出て盾を前面に構える。


「ギャギャア」

馬帝ブルトン


 ゴブリンライダーが声を上げると狼が跳躍し2匹同時に左右からキルシュに襲いかかるが、キルシュの足の筋肉がオーラを纏い膨れ上がり1匹は盾を強かに打ち付けられ、もう1匹は顔面を蹴られる。その隙をつき天夜叉が抜け先に落としたゴブリンどもに向けて走る。


 キルシュの一撃により狼たちは絶命し霞となって消えた。落ちたゴブリン達は体勢を持ち直すと棍棒を雑にキルシュに向け振り回す

。それを盾で受けながら剣を後方水平に構える


「回転斬り」


 重心を後ろ足に移し軸にして体を回し剣を入れる空間を作りながら回転。剣はつんのめったゴブリンの腹を裂き勢いを失わず一周するともう一匹の首を刎ねた。


「うしっ!綺麗に入ったな!夜之介は…」


 技の具合を確かめ終え天夜叉が向かった先に視線を向けるとそこには惨殺の光景。身体を著しく損なったゴブリンが1匹残っていた。


「何してんだ?」

「絶命に至ると消えるが死ななければ切り飛ばした腕も消えずに残る。不思議に思ってな。悪いが少々試させてもらった。下した相手がいきなり消えて驚いたぞ」

「あーそれな。魔力だけで作られた魔物だからな」

「にしてもこれでは森羅万象の力と呼べるだろう。斬った感触も生き物のそれ。役目を終えれば露となり消える。不思議でならん」

「まぁ龍の更に進化系と思えばだろ」

「言われてみればそうか」


 そうして最後の1匹は首を刎ねられた。ドロップした魔石を集めキルシュのバックパックに詰めて歩きだす。


 ビックアント、トレント、お化けミミズ等を倒し進みながらダンジョンを学ぶ夜之介。途中には良さげな木の棒を見つけ取り替えようとしたがドロップ品以外のものは外に出ると魔物と同じで消えるぞと説明を受けガッカリしたりした。


「そんなガッカリすんなよ。にしてもなんで木の棒なんだ?」

「見知らぬものを突くには丁度いいのだ、それに森を探ればすぐ手に入るからな。いつでも替がきく」

「ははっ子どもみてぇだな」

「ゴアァ!」


 そう会話をしつつ天夜叉が落ち葉溜まりを棒で突くとマッドベアが咆哮を上げ落ち葉を掻き分け現れた。四足から立ち上がると見上げる程に大きい。鋭い爪がギラリと光り前足を振り下ろして来た。


「要塞!」


 キルシュが盾で受け止め踏ん張る。その後ろから天夜叉が木の棒を熊の顔面へ突き込むが噛み砕かれる。


「肩を借りるぞ」


 キルシュを足蹴に跳躍、熊が木片を吐き出し咆哮をあげて開かれた口に向け、割れて鋭利に成った木の棒を突き入れる。怯み後ずさるがズタズタにになった口内から涎と血が混ざったものを撒き散らしながら咆哮を上げた。


「タフだな」

「まぁ鉄級の魔物となると今までより殺意増し増しさ」

「よし。隙を俺が作るキルシュは致命を」

「あいよ」


闘鶏とうけい


突貫を仕掛ける天夜叉に熊の前足が振り下ろされる。それを躱し足の鉤爪を突き立てつつ蹴り上がる。次に胸、肩と蹴った後に頭上より上へと昇っていた。そして顔面を斬りつけ、蹴ると宙返りで後方に下がる。その下にはキルシュが馬帝にてタックルする姿。


「馬帝!!!」


 顔を両前足でふさいでいてガラ空きの熊の胴へ、盾の上に片手剣を添えるキルシュのタックルと突きが入り吹っ飛ぶと木に激突した


 やがて霞となり熊が消えると抉れていた木の表面がパラパラと崩れ落ちて階段が現れた


「階段?4階層のは他にあるはず…」

「こうゆうのは宝が眠ってると絵物語では相場が決まってる!行こうキルシュ!」

「低級階層で隠し部屋なんて聞いた事ないが、まぁいいか」


 階段を降りるとツタで覆われている一本道の回廊に繋がっていた。奥が窺えないほど長く続いているようだ。歩き続けると時折ツタの間から猿が襲ってくる。


「なぁキルシュ。こいつはなんで死体が消えないんだ?」

「もしかしたらダンジョン外に繋がってるのかもな」

「天然の猿の魔物って事か…」

「しかし外の森でも見た事ない種族だな」

「ふむ。ギルドに持ち込めば貢献度に繋がるか?」

「ああ。新種発見の功績になるかもな」


 そう言うと天夜叉は飛びかかって来た猿を軽く小突き尻尾を掴んでぶら下げて歩く延々と歩いていると両開きの扉が見えた。


「ダンジョン外っぽいがボス部屋かもわからねぇ。つーか手のスタンプは時間が止まってるな。どうする?行くか?」

「確かに。まぁ行けばわかる」


 2人が押すと埃を巻きたて扉が開かれた。部屋の中央、魔法陣の上に祭壇、更にその上、本が浮かび上がっていた。


魔導書グリモワール…っぽいな」

「グリモワール?お宝か?」

「ああ。内容によってはかなりの値が付くし、歴史的発見かもしんねぇ」



「ほう…なかなかの器ぢゃあっ!」


 グリモワールから声が響き辺りを真っ白に包むほどに輝き出した。天夜叉は咄嗟にぶら下げていた猿を掲げる。


「くっ、罠かっ!」


 やがて光が収まるとグリモワールが消えていた。そしてなにやら足元から声がする。


「くっくっくっ…ついぞ…ついぞ外に出られる!あの忌々しいクソジジィめ、今に見ておれ。この器ならば…この器…この白い体毛の手足…なにぃぃぃいーーーー!?」


 1匹の猿が顔を驚愕に染めてこちらを見上げてくる。


「「「………」」」


 天夜叉がその猿を見下ろしスラリと刀を抜き放つ。


「待て待て!待たぬか!ワシは長い間、悪い魔法使いに閉じ込められていたのだ!何故かは知らぬがお主らが現れ封が解かれた!待てども待てども孤独の身そして今はこんな猿になってしまった!可哀想とは思わんのか!?慈悲というものはないんか?!」


「どうする?キルシュ?確かに今はただの猿にしか見えん」

「んーそうだなぁーでも最初の言葉あきらかに

「主ら、見るに傭兵であろう!悪い事は言わん。ワシを連れてけ!こう見えて凄腕の魔法使いぞ。主らの助けとなってやらんでもない」

「傭兵?俺らは冒険者だ」

「冒険者とな?なんぞやそれは」

「知らないとなると長い間ってもしかして冒険者ギルド設立前の事なのか」

「むー。どれくらいの間などワシには知る由もない。それより早くその刃しまってくれんか?毛がムズムズして叶わん」

「どうするキルシュ?」

「なぁ猿。傭兵王ガウディを知ってるか?」

「猿ではない!ワシの名は……プジャーと呼べ!ガウディだと?ガウディ・マクスウェルの事か?なんぞ彼奴は王になったのか?」

「その口ぶり知ってんのかよ!??夜之介。こいつはもしかして大発見かもしんねぇ!歴史の生き証人だぜ!」

「では連れて行くのか?」

「何やらずいぶんと時が進んでおるようじゃな。ワシを生かす事で主らが得る物は大きいぞ?どうするね?」

「う〜ん。よしジジィ。取引だ」


 腕を組み悩むキルシュであったが傭兵王ガウディの事を知るチャンスと見るや取引を持ちかけた。生かす事と詳細を省くギルドへの報告と引き換えに古の情報、そしていずれ力を取り戻した時には戦力になると言う。取り決めが行われ、2人と1匹は来た道を引き返す。プジャーは最初天夜叉の頭に引っ付いたが結った髪が煩わしかったのかキルシュの頭へと飛び移った。


「なんだよ。自分で歩けるだろうジジィ」

「馬鹿を言うな!この小さな身体ではどんだけ大変か!この小さき年寄りを労わらんか!まったく今時の若者はなっておらんっ!」


 文句をつけるキルシュに、ペシペシと尻尾で頭を叩くプジャー。夜之介はずいぶん賑やかになった事だと笑みを浮かべている。


 階段を登り木の外に出ると入り口が消えてなくなり抉れた木だけが残り手の甲の時が進み始めた。ダンジョン内を進み受付へと戻った一行。管理人へと報告をする。


「ふむ。ダンジョン内には時折、迷宮が発生した時その領域内に取り込まれた天然の遺跡や魔物が現存するという事例もある。その類だろう。扱いはお前らに任せる。ダンジョンで得たものはソイツらのものだ」


 こうして一行は街へと戻りギルドへプジャーの登録の為立ち寄る。


「あらキルシュ君。可愛らしいお猿さんを連れて来たわね。従魔の登録でよろしいですか?」

「そ、プジャーの名で登録を頼むよ」


 受付嬢が用紙を取り出すとプジャーがカウンターに飛び乗りキーキー騒ぎながら用紙を手で払い、そして今度はキルシュに飛び乗りランクプレートを掴みガシャガシャ鳴らす。


「えーっともしかして従魔ではなくて冒険者登録を?かなり知性も高いように見受けられますね」

「あ、ああ。できるのか?」

「はい。言葉を話せなくても意思の疎通、文字や数字を理解し共存できるかのテストをクリアできれば登録可能です。キルシュさんか夜之介さん付き添いの元で、です」

「わかった。俺が付き添うよ」


 こうしてキルシュ付き添いの元、ボードを使い言語理解と共存への宣誓を示したプジャーは晴れて冒険者の登録を終えた。人前で喋らないのは獣として立ち振る舞う事でアドバンテージを得る事が出来るため敢えて取り決めていたのだ。


「とても賢くて可愛いですね!キルシュさん達が羨ましいです!」


 笑顔でプジャーの頭を撫でる受付嬢。そのプジャーはだらしない顔で溶けている。そしてジト目で見つめる天夜叉とキルシュ。


 



 新たな旅の仲間に見た目は猿だか中身は何やら古を生きた魔法使いプジャーが加わった






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