第14話 それぞれのスキル2
ギルド訓練所でお互い木の獲物を持ち向かい合うキルシュと大柄の男。
「でだ。キルシュ。何をどこまでできる?」
「傭兵王の代名詞…の今は真似事」
「やっぱりな。ぢゃあ俺の振り下ろしから始めるぞ。見せてみろ傭兵王の卵さん」
『『身体強化』』
両者共にオーラが立ち昇ると大柄の男が斧を振りかぶる。
「
キルシュは盾を掲げながら腕をクロスさせ、身体に弛緩が生まれないように全霊で引き締める。ガツンと斧を受け止め切った
「
脚の筋肉が総じて盛り上がり大柄の男を押し進める。両者、歯を食いしばり僅かに拮抗したがキルシュに軍配が上がる。
「
押し勝ってたキルシュは不意に脱力、均衡が崩れた瞬間バックステップ。盾は前に残し剣は後方、地と水平に構える、気迫を背負い、魂から叫び、回転斬り上げから翔んで大上段を落とす。
大柄の男は柄の両手を入れ替えるようにし斧の刃を下に入れ替え斬り上げを流し大上段からの一撃は斧を地と水平に掲げ受けた。斧の柄が軋み、そして折れ、頭に入った木の片手剣もまた、折れた。
「つぅ。いってぇな!だがキルシュ!卵どころぢゃねぇ雛と飛鳥の間くらいぢゃねぇか」
「うーん。絵物語でしか知らないからどこまで近づいてるのかわからないけどな」
「そうだがよ、ここまで使えれば中級でも充分通じるだろう。依頼こなせば銀級昇格は堅いな。金級からの太鼓判押したるぜ!」
「そうか?ありがとう。まぁ心強いよ」
キルシュはバンバンと大きな手で背中を叩かれて一歩ずつ足が出る
「うっし!ぢゃあ俺らはこれで引き上げる。この後帰郷祝いで飲むんだがお前ら一緒にどうだ?」
「すまん!もう少し練ってみたいんだ。残るよ」
「では俺も残ろう」
「精が出るこったぁ!完成系楽しみにしてるぜ!ぢゃあな」
3人組は背を向け出口へ歩き出した
「ガルボ、アルフォート、サシャ。今までたくさん目を掛けて貰っていたのにすまない。それとありがとう」
キルシュは足を揃え深く頭を下げた。この3人には冒険者に登録した頃から世話になっていてパーティの盾役にと誘われていた。断っても無碍にせず、今までと変わらず世話を見てくれた。浜辺町から出てツテのない自分にできた先輩達。恩は計り知れなかった。
「なんだパーティの事気にしてんのか?あのなぁキルシュ。俺ら冒険者はよ、道を同じくして歩まなくたって、俺らが歩く道をお前が歩くし、今後お前が歩いた道を俺らが歩く事になんだよ。パーティぢゃなくたって同胞とはそうゆうもんだ!それにお前の向上心に当てられて俺らも強さを得たんだ。今日で更に火ついた奴がここにいんだろ!ガハハ」
立ち止まり激励を飛ばす大柄のガルボに強く頷くアルフォート、そしてニコニコと笑うサシャ。彼らは手を挙げ去って行った。
「なかなか気の良い連中だったな」
「ああ。最高の先輩達だ」
「ところで傭兵王ってなんぞや」
「ん?あぁ。盾使いで有名といやぁ傭兵王と呼ばれた男なんだ。よく昔の絵物語に出てくるし、色んな盾使いが口にするんだ『至高の戦士だ』ってな。俺がこのスタイルなのもそのせいなんだ」
「いやぁー!実に素晴らしい組み手でしたなぁ!それに!ガルボ君の熱い言葉!冒険者とはさもあらんと言った姿に私感激しました!あっ!いや邪魔立てするつもりは毛頭もありません!この私の頭のように!」
「マスター・ハーゲン!見てたんすか?!」
声を張り上げ現れたのはでっぷりお腹に横にしかない髪の毛。ここのギルドマスター、ハーゲンだった。
「はい。上のラウンジで拝見させていただきました!ここ最近キルシュ君が訓練所で特訓してると聞いてね。それに腕の良いお侍さんが立ち寄ってると。バトルマニアとしてはこりゃ見逃せないなと!ハゲ故、他人に上から見下ろされるのは苦手なくせに上から失礼しちゃいました!」
「ぶはははははっ」
ギャグマシーンでもあるハーゲンの攻撃に天夜叉は腹を抱え崩れ落ちる。島育ちの弊害で笑いに耐性が無いのだ
「おやおやおや!いつもはスルーされる私ですが、こんなにも笑っていただけるとは!今日という日は素晴らしい日だ!」
仰々しく両手を広げ、天を仰いだ後ポンッッと腹太鼓を一つ。
「ぷふっ。なかなかにやるなぁギルドマスター殿」
「照れますなぁ。ただでさえ頭が照ってるのに!」
「だははは」
「いやもういいよっ!」
「やや!キルシュ君!盾使いの才だけでなくツッコミもいける口ですな!そんな君にはこれをあげましょう」
「本?なんです?これ」
ハゲボケも天夜叉の笑いも止まらない、呆れたキルシュが止めた所で一冊の本をローブの内側から取り出し渡すハーゲン。
「これはね。私の秘蔵コレクションの一つ、なんと世界的権威 古の魔術師アーロンの【え?魔力が擬人化したらこんなんなん?】
です。大賢人である彼がこのようなお茶目をするのはこの一冊のみと言われてる大変価値のある本で、その写本です」
「お、おお。それは価値が…いやわかんねぇよ。題名が意外すぎて偽物か疑っちまうよ!でもまぁ有り難く」
「ふふ。キレてますなぁ。そしてキルシュ君…君にとって大事な話が一つ」
ギャグ一辺倒だったハーゲンの眼が真剣なものに変わる。
「傭兵王ガウディが擁してた傭兵団。そしてその本拠地があった場所。その形跡が見つかりました。そこはサグア大陸の辺境に隠されているそうです。腕を磨き聖地巡礼のチャンスに備えてください」
「マジかよっ!!!」
思わず本を落としギルドマスターであるハーゲンの両肩をガッツリと鷲掴むキルシュ。
「い、痛いですキルシュ君。それにガッツリ落ちてます。私の秘蔵」
「あ、ああすいません。興奮しちまって」
「わかりますとも。傭兵王ガウディ。その痕跡が見つかった。私も興奮して覚めあらずこうして訓練所に足が向いたのですから」
こうしてキルシュの旅の目的が一つ増えたのだった。
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