第11話 連携
盗賊を討ち取った森に天夜叉、キルシュ、ギルド職員ビラックは現場改め兼天夜叉の昇格試験のため訪れていた。ノープレートから銅級への試験内容は随行する職員の采配に完全に委ねられた形となっている。
「キルシュよ。見ろ!木人形がこちらを見ているぞ!あれはなんぞや」
「あぁ。アレはトレントだな。一応魔物だよ」
枝やツルが絡み合い人間の輪郭を形取っている魔物トレント。攻撃手段はツルを伸ばし締めたり腕をふるってくるが動きも攻勢も非常に緩やかであり対処は難しくない。ふーん。っと怪訝な相槌を打つとニヤリとする天夜叉
「キルシュ。クロスだ!」
「!応っ」
天夜叉が何やら号令を出すとキルシュはトレントへ突貫。それに天夜叉が後ろをピタリと追従。こちらへとただ伸ばされていたトレントの両腕をシールドバッシュで払い除けながら逆袈裟にショートソードを振り抜き右に抜けるキルシュ。僅差で脇構えからの斬り上げで左に抜ける天夜叉。トレントのコアである木の実を内包している胸には深く×の字に傷が刻まれた。2人が抜けきり動作がピタリと止まる瞬間に2人ともに半身を軸足回転で翻し、キルシュは膝裏へ、天夜叉は首へと斬撃を放った。胸に浴びせた初撃の時点でトレントは事切れていたのだが。
「「どうっ?」」
2人は残心を解き同時にビラックへ顔を向け問うた。
「どうって言われても…おたくら、ずいぶんと楽しそうだね。としか」
「いやぁー昨晩連携の話で少々盛り上がってな。やってみた。で…どうっ?」
ビラックはなんだか、めんどくさっ。と思ったがこれも一応とはいえ昇級試験の範囲内だよなぁーと思い出した。
実はこの2人。キルシュの故郷を立ってから一睡も取らず話が盛り上がるもんで少しハイになっていた。
「いや確かにパーティにおいて連携は大事…って、おたくらパーティ組んだの?」
「そういやそうゆう話してなかったな。どうだ夜之介。パーティ組まないか?」
「パーティ。仲間って事だな?無論よろしく頼んだ」
「おいおい。まぁ、結成おめでとさん」
「「ありがとう」」
そしてトレントの次にはゴブリンの群れを発見する。
「外のゴブリンは初めて見たがなんだか汚らしいな」
「昨日言ってた島のゴブリンが特殊なんだろ。こっちのがたぶんノーマルだぜ。大和にはその島以外ゴブリンはいないんだったか」
「ああ。餓鬼と言ってコイツらと似たような奴はいるけどな」
「この森は低級の魔物しか居ないから、おたくらには少し物足りないだろうけど一応試験兼ねてるからね。そこんとこよろしく」
「格下相手でも出来る事はたくさんある。キルシュ。アレを試すぞ」
「アレか。確かに丁度いいかもな」
そう言うと、またもやキルシュが突貫するが今度は攻撃に移らずゴブリンの群れからの攻撃を待ち、盾と片手剣を駆使してやり過ごす。八合ほど迎えた時
「天夜叉ぁ!スイッチぃ!!」
「応っ!」
静かに感じるほどどっしりと構えてたキルシュの急な大声にゴブリンどもがビクッとなる。後方の茂みで待機してた天夜叉が駆け出しキルシュの肩を叩く。その瞬間キルシュはバックステップでゴブリンとの距離を稼ぐ。
キルシュと入れ替わり今度は天夜叉がゴブリンの攻勢を刀で受け流したりあるいはひらりひらりと避けて凌ぐ。ゴブリンどもは相手が変わった事に一瞬気を取られるが一対多の状況は変わらなかったので果敢に攻め立てる。
「キルシュ!スイッチ!」
「応っ!」
今度はキルシュが茂みから飛び出し天夜叉の肩を叩く。この流れを繰り返す事三度。ゴブリンどもは疲れ果て地に伏した。
「俺はいったい何を見せられていたんだ?」
ビラックは木の上から2人の様子を観察していた。そして報告書になんて書けばいいんだと頭を悩ませていた。件の2人は伏してるゴブリンどもにトドメを刺すでもなく何やら実際にはこうだとか、この場合はこっちの方がとか反省会をしている。そして2人が木の上にいるビラックに顔を向け
「「どう
「アホらし。さっさと盗賊の現場向かおうか」
木から飛び降りるビラック。伏したゴブリンどもにいつの間にか生えているダガーを回収し歩き出す。その道すがらしつこく、どうだった?客観的な意見が欲しいとかなんとか、それを全て無視して進んだ。
現場の検めを終え盗賊のねぐらから財貨を回収し、今回の任務を終え街に戻った一行。ビラックはなんだか疲れていた。試験の報告。動きの鋭さから見てもアイアンでも問題ないだろう。武闘技や魔法の類は観られなかった。にしてもいささか緊張感のかけらもなかった此度。いつもと違う空気に困惑しそれが疲れとなった。
そして次の日、天夜叉はノープレートから鉄級へと昇格していた。
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