第10話 千鶴。異大陸上陸

 ヨルフィリア大陸の大きな玄関口の一つである港のある街"ルカサカ"へと降り立った千鶴。冒険者ギルドへ向かうその道中に柄の悪い悪漢らしきものども3人と対峙していた。


「おいおい見ろよ。小綺麗な嬢ちゃんがバカデカい剣背負ってるぜ」

「へへ、デカいが細い。なんじゃそりゃあ」

「はん。どこぞの貴族様の箔付だろうよ。あんな長物抜けやしねぇのによ」


 大規模な港だけあって不良者や態度が大きい者も多く、喧嘩事にも慣れてる住民達は自然と開け野次馬と化してる。確かにあの長物を新参者。しかも女がどう扱うか興味は尽きない。


 千鶴は目を閉じ、立花家家訓"立花家であろう者、舐められてはならぬ"をしかと心で念じると目を静かに開き、口も開く。


「大した志も持たず、口だけはデカい下衆どもよ。貴様らの腰の獲物こそ御飾りであろう。その腑抜けた面に憐れんで此度の愚弄は許して差し上げます。どきなさい」


凛とした声が場を制するが言葉は酷く煽ってるように聞こえる。いや確実に煽り文句だ。観衆もおおっ!中々に言うなと感心してるが悪漢どもの顔は真っ赤にして獲物を抜き放った。


 悪漢どもが柄に手をかけた瞬間に千鶴は右手は鍔に括り付けられた縄に左手は背に回し鞘を掴んで大太刀を上に投げるようにして抜刀。投げ抜かれた刀は柄頭を下にして落ちてくると柄を両の手でしかと握り半身の脇構え。


 両者構えを取るのは同時。その瞬間。

千鶴の大太刀が横、真一文字に閃いた。3人ともに構えていた獲物が真っ二つ折れていた。


「貴様らに剣を持つ資格はありません。まずはその性根を鍛えてから出直しなさい。その情けない顔に免じて命だけは助けましょう」


ルカサカの街に一際大きな歓声が巻き起こった。その人混みを掻き分けウサギの耳を生やした獣人がひょこっと顔を出す。


「もぉー千鶴殿!換金所で姿を眩ませたと思えばこんな所で!一人では先行かぬようにあれ程申しましたのに!」


小柄な彼女がピョンピョンっと怒りながら言う。その胸には盾に剣と杖が交差し、金縁の紋章が掲げられていた。


「む。サミュー殿。すみませぬ。どうも天夜叉様に先んじられた事で気が急いていたようだ」

「事情はわかりますがこの街は何せ活気が良すぎるのです。まぁ心配してた事はもう既に起きてしまったようで・す・が!」

「いや面目ない」


謝る千鶴ではあるがピョンピョン跳ねるサミュー可愛いなと反省している気持ちが少し浮ついていた。


「まぁ過ぎた事は仕方ありません。ギルドへ行きますよ!」


 フンスーっと大きく鼻息を漏らすサミュー


「御意」


 鞘を襷掛けたすきがけから抜き静かに納刀し背負い直すと放心してる悪漢を他所に二人は歩き出した。


「いや凄かったなあの嬢ちゃん」

「ああ。いいもん見させてもらった。それにあの言葉、スカッときたもんだ」

「それだけじゃねぇ。金縁のギルドの紋章つけた兎の子、あれって総本部の証だろ?それの連れならかなり大物だろうな」


事態は収束したが観衆の騒ぎは未だ収まらなかった。



 冒険者ギルド/ルカサカ支部のギルドマスター室にてルカサカ侯爵兼ギルドマスターであるダンケルに向かい合うのはサミューと千鶴。ダンケルは大柄の偉丈夫で逞しい顎髭がもみじと繋がっており。白いシャツを着ているが大胸筋が膨れ上がっていてはだけている。体躯の見た目とは裏腹ににこやかで柔らかい笑顔を浮かべている。


「お帰りなさいサミュー殿。大和大陸では色良い返事は貰えましたかな?」

「むぅー前向きな言葉は頂けましたが、受け入れ体制を整えるまでに今しばらくは掛かるとの事でした。大口の交易も当分先になるでしょう」

「そうでしょうとも。今まで鎖国に近い状態だった大和。幾人かの和人が渡ってきた事は多いですが大陸間で公なやり取りは今回が初

。慎重に事を進めるべきでしょうな。してそちらの方が?」

「ええ立花千鶴殿です。ルカサカ支部にて登録をお願いします」

「此度お世話になります立花千鶴です。よろしくお願い致します」

「やや、これはご丁寧な!ようこそルカサカへ。ヨルフィリアへ。未知への冒険、存分に楽しんでくだされ!」


丁寧に頭を下げる千鶴に対しダンケンは笑みを更に深くして歓迎の意を示す。


「ルカサカ侯、千鶴殿の腕はこの私サミューが保証します。旅も故郷で慣れてるとの事。銅級からの登録で宜しいでしょう」

「承知した。初期講習も必要ないでしょう。先程の大立ち回り。聞き及んでおりますぞ?」

「いえ。この大陸では私は赤子も同じ。初期講習とやら受けたく存じます」

「いやいや初期講習と言えど旅の心得や身を守れるほどの戦闘の手解きくらいで千鶴殿にはいささ…」

「大事な御役目を預かる身。慢心などあってはなりません。それに先程サミュー殿からお叱りを受けたばかりでございますれば心機一転する意味も込め受けたく存じます」

「そ、そうですか。いや流石、侍の国にある武家の方。立派な志をお持ちのようですな。我々も見習わなければ」


千鶴達が来る前、威風堂々とした口上と立ち回りの報告を受けてたダンケン。気の大きい連中で溢れてるこの街はかの武人然とした者とは相性が悪い。新人講習も何事もなく終わると思えないがなんせ乗り気なようでいかにするか悩む。しかしこの先、大和とは事が上手く進めば大きく手を取り合う関係になるため今後の身の振り方を街規模で考えねばならない。まぁ賽は投げられたと思って結果から再度振り方を改めれば良いと決めた。


「ではギルド事態の説明はこの後させるとして後の講習よろしく頼みますぞ千鶴殿」

「委細承知。腕が鳴る所存で御座います」

「はは。いや皆も性が出る事でしょう」


次の講習で集まるのは村からのポッと出や船あがりなどの戦闘素人の集団。あまりブイブイ言わしてもらっても困るのだがとダンケンは乾いた笑いを浮かべた。




 後の講習で生意気な口を聞きトラウマになるほど口で叩き伏せられた者、冒険者への憧れが最初の出会いで更に肥大した者、身の丈に合わない武器を選ぼうとする者など多くの問題児ルーキーが生まれる事とあいなったとさ。

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