第8話 初めての手柄
「9人か、逃げられても面倒だ。油断を誘いつつ数を減らすか。奇襲で2、3人弓とダガー持ちを仕留めるのが理想。てな感じでどうだ?」
「ふむ。では的当てに興じてる奴らの背後を取るか。そしてわざと囲まれる…か。いいんぢゃないか?」
「よし」
2人は一度離れ悟られないよう遠回りして位置を変えると飛び出した。1人の盗賊の腹からショートソードと刀が生え蹴られ血溜まりになる。次には弓を持った奴の頭が飛び、ダガーを持ってた奴は首から血飛沫をあげ倒れる
。そこで周りを見渡すと包囲が完成してた。
「テメェらやってくれたな!装備はトドメを刺した奴のもんだ!たかが2人だ、だが全員で攻めろ!いいな」
仲間の死も気にせず棍棒や片手剣、斧などそれぞれの獲物を持ちニヤニヤと笑いながら近づいてくる。所詮。奴らの絆など塵芥。
「左右それぞれに踏み込むぞ」
「わかった」
2人は駆け出すと天夜叉に3人が追従。2人はキルシュに追従した。頭目はどしりと構え行末を見ている。
天夜叉は駆けてくる3人のうち真ん中の1人、槍持ちの股の間に木の棒を投げ入れる。足をもたつかせる合間に左側棍棒を大上段に構えた奴の首に一突き。木の棒にもたつかせ首が下がっていた奴を下段からの切り上げ。銀閃が美しく弧を描く。
一方キルシュはどっしりと構え斧と片手剣を一斉に振り上げ下ろしてきた2人をバックステップで交わしステップイン。丸盾を嵌めた腕でジャブ。斧持ちの顔面を盾のヘリで打ち付け、もう1人の腹に片手剣の柄頭で強打。気を失わせる。強く怯んだ斧持ちに中段前蹴りで、これも気を失わせる。
一瞬で仲間を4人失った残る1人は尻餅をつき慌てて背を向けるが槍持ちが落とした槍を天夜叉に投げられ射抜かれる。胸から槍を生やし崩れ去った。
頭目はこの事態に目を見開き信じられないといった様子。ここの森は魔物の危険度も少なくこんな凄腕どもが来るような所ぢゃない。だから選んだのだ。ハメを外しすぎたと後悔する。
「ま、待て待て!降参だ!」
大きい斧を下に落とし両手を上げる頭目に抜き身の刀を持ったままの天夜叉が大股で歩み寄る。
「バカ!殺すな…ねぐらに金ならある!俺を殺せば場所がわからなくな…まてまてま」
「畜生は地獄の果てまで待ったなし…」
振り上げられた刀は袈裟斬りに振り下ろされた。天夜叉からはほんのりと気炎が立ち上っている。大柄な体も肉と骨ごと断たれずるりと別たれた。
「容赦ねぇな」
「容赦がないのはこいつらよ。あの女子を見よ。犯され遊戯のモノ扱い」
「ああ。そうだな。ただ死ねただけならこの子が受けた仕打ち比べるもない」
「キルシュよ、その生かした奴らはいかにする?」
「うーん。普段なら狼煙をあげれば物見櫓に控えてる奴らが検めにくるけどここにはないから街まで連れて衛兵に引き渡す。この子の捜索依頼とか奪われた財の調査とかもあるからな。ここまで血の匂いが濃いとここいらの魔物や獣ぢゃ近づかないだろうさ。臆病だからな。んでこいつらは聴取を受けた後にキツイ強制労働。被害額に総じてな」
「そうか」
「まっ。稼ぎはこれで充分だな。査定終わりにギルドと領主から報酬が出る。街道に出て上手く行けば商人の馬車に乗せてもらえるな」
辱められた遺体を埋葬しその身体を縛っていた縄で生き残りを縛りつけ2人は街道を目指した。
街道に出ると後ろから来た商人に声をかけられる。
「もし。そこの御二方!捕物がございましたかな?ライデルの街へ行くのならばお乗りなさい」
ライデルの街はフォクリーン領の首都、外壁が聳え立ち。検問も盗賊などの捕物があれば優先して進められる事もあり商人にはその狙いがある。
「頼もうか!俺はキルシュ
「夜之介だ。よろしく頼む」
「これはこれはご丁寧に。ベスクです。麦の取り扱いをしていまして卸してきたばかりの空馬車。こちらは護衛のトム、サラです。どうぞどうぞ」
「なんだキリシュ。里帰りついでに捕物とは大型ルーキーは流石だな」
「ほんとよ!私らにも少しは獲物を残しておきなさいよ!」
銅のプレートを首にかけた軽装の2人がキルシュに声をかける
「おや、お知り合いでしたか。なお安心ですな。ささどうぞ」
「2人とは登録しにきた時の同期でね」
2人を載せた馬車は起きた捕物語りを聞きながら進んでいく。その時にやけに怯えていた縄についた2人の様子が一番物語っていた。
やがてライデルの街へ辿り着く。天夜叉はまるで城の如き城壁を見上げほぇーーと嘆息する。やはり大陸が大きいと人の営みも大きくなるもんだと。検問の際、衛兵に捕物を渡す。商人達とはそこで別れ聴取を済ませ門を通り過ぎる。完全にお上りさんと化した天夜叉を引き連れキルシュは宿に向かう。荷物を預けその足で冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドライデル支部。
木造造りの大きな建物に天夜叉は大和で見た代官屋敷に引けを取らないなと驚き。両開きのドアを開き中へ入る。正面に総合受付、右には酒場。様々な装備を身につけたモノどもで活気に満ち溢れている。2人は正面にある受付に向かった。仕立てのいい制服に身を包みネルジュとプレートを下げた受付嬢が口を開く。
「キルシュさん。捕物があったと知らせがありましたよ。ご苦労様でした」
「ああ。それとこっちにいるのは夜之介。新規登録を頼む」
「わかりました。捕物はこの方もご一緒で?」
「ああそうさ。かなり腕が立つ」
「それはそれは喜ばしい事ですね。ようこそ冒険者ギルド/ライデル支部へ。あちらの部屋にて、このネルジュがご案内させていただきます。」
「ネルジュさん。登録にかかる費用は捕物の査定額から差し引いてもらうよう頼むよ」
「かしこまりました」
「夜之介、終わったらさっきの宿屋で落ち合おうぜ!」
「あ、ああ。わかった」
見るモノ全てが真新しくキョロキョロしていて道順などすっかり頭に入っていない夜之介が答える。
「大丈夫かよ。迷ったら"猿の腰掛け亭"ってとこを尋ねるんだぜ。じゃあな!」
「あいわかった」
「では夜之介殿。いきましょうか」
「あいわかった」
受付嬢に連れられ夜之介は登録の為、別室に入り、キルシュはギルドを後にする。その様子を見ていた壁に寄りかかるスキンヘッドのいかつい男が口を漏らす。
「ふん。気にいらねぇな」
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