第7話 ある日森の中

 キルシュの故郷を立ち森を進む2人。急ぐ旅ではない、散策しながらゆっくり進む。天夜叉は丈夫な木の棒を手に入れ杖代わりとしていたり、キルシュは木の実をプチプチして食べながら、時には焚き火後を見つけ休み、会話を交わしながら進む。主な会話はもっぱら何故冒険者を目指したのか。その旅の目的だ。


 「俺が目指したのは、どこにでもいる村のガキと同じで村に来た冒険者に強く憧れた。だけどより決意が固まったのはさ、ウチ両親が居なかったろ?母さんは病で親父はじぃの鍛冶屋を継げるほどの才がなくってさ、俺が冒険者になると騒いでた頃に剣は打てないからせめてその素材をとダンジョンへと行ったっきり帰らぬ人となったんだ。バカだよなぁ。子どもの戯言に真っ向から付き合ったんだ。でも、だからせめてもの手向に上まで登ってみせるさ」


川のほとりで木の幹に腰をかけパチリと爆ける焚き火に薪を投げ入れらようにして焚べるキルシュの目には確かな炎が宿っていた。


 決意は一度きりのものではない。道すがら何度も確かめるものだ。


 夜之介はなんで冒険者に?の問いに


「俺が育った島は曲者や強者揃いでな。この大陸は魔法の術が広く発展してると聞いた。だからその術を得て再び挑む事。それと自分のルーツを探す事、夜叉の一族に聞き覚えは?」

「聞いた事ないな。どんな奴らなんだ?」

「俺が知ってるのは"修羅いるとこに現る"って事と旅をしている事とその一族から俺が産まれたって事くらいさ」

「修羅…なんかおっかねぇ響きだな」

「それと番頭さんの嫁探し」

「なんだそりゃ」

「その番頭さんは俺が育った島と他とを繋ぐ船渡し。いつも1人で寂しかろうと思って嫁の一つでもと思ってるが大和にはいそうもない」

「大陸一つに見つからないってどんな奴だよ」

「そもそも話の通じる河童は今の所番頭さんしか見たことない」

「河童って?」

「手に水かきを持ち甲羅を背負い頭はツルリとお皿が一つ」

「"他者を恐れるな。話が通ずるは友とすべく"って奴か。水かきってことは魚人の一種か?」

「そうだ。番頭さんは面白い奴だが、大和で知られる河童は鬼や龍よりも恐ろしい。ひっそりといつのまにか水辺に現れ、なんせ怪力無双で、捕まればこの世の終わり。尻に手を突っ込まれ抜かれるは尻子玉。抜かれたものは全ての気力を失うと言われてる」

「尻から手…」


キルシュは絶句する。


「尻子玉は丹田たんでんの事だろうと言われてる」

「丹田っていやぁ闘気や魔力の炉だろ?それを抜くのか。やべぇ奴だな」

「まぁもし友好的ぢゃなかったら一目散だな」


 そんな会話をしていると茂みがガサガサと大きく揺れる。キルシュは河童の話を聞いてたせいかビクッと跳ね上がる。出てきたのは3匹の森林狼フォレストウルフ。その内の1匹は一回り大きい。


「肉の匂いを嗅ぎつけたか」

「キルシュっ!挟み討ちだ!」

「なっ、ちょっ…おいっ!」


キルシュは盾を構え片手剣を抜き放ち臨戦体制を取るのに対し天夜叉は棒を片手に狼に突貫する。挟み討ちの声にキルシュは後ろを振り返るが何もいない。


 2匹の狼が左右から天夜叉の喉目掛け噛みついてくるが2匹とも棒を咥えさせられた。そこを潜り抜けた先、一回り大きい狼から爪が飛んでくるが抜刀をして防ぐと同時に背後へするりと回り込む。


「挟み討ちってそうゆう事かよ!」


標的が前後に別れ迷う隙をついてキルシュは盾を構えながら下段突き。喉に突き刺さり1匹を仕留める。もう一匹は盾が邪魔で攻勢に移れずにいた。大きい狼は天夜叉をジッと見つめていたが後ろからギャンって鳴き声を聞き後ずさり、そして逃げ出す。もう一匹もそれに釣られるように逃げ出すが2匹ともそれぞれに腹を裂かれ倒れた。


「いやキルシュよ。なかなかに動けるな!」

「まったく急すぎて驚いたぜ」


やれやれ、としているが顔はまんざらでも無さそうだ。


「こういった連携に密かに憧れてたのだ。ついうっかり舞い上がってしまった」

「いや別に合わせられない事もないけどよ、こういうのは事前に仲間と打ち合わせとか確認しとくもんぢゃねぇの?」

「仲間…。仲間か!ふふ」


腕も立つし度量もありそうだが、妙に子どもっぽいとこがある。今だに天夜叉の性格が掴めないキルシュだったが一緒にいて悪い気はしないのであった。


 日が完全に沈み再度焚き火横の幹に腰を落ち着けた2人。キルシュ横のバックパックの上には深緑の毛皮は丸まって収まっている。天夜叉は剥いだのであろう大きい爪と指を何やらナイフで削っていた。やがて出来たのは指輪から繋がる一本の爪。


「よしっ出来た」

「へぇそいつは足にはめんのか、変わった靴を履いてるなとは思ったがその為に親指と別れているのか」

「いや、俺以外につけてる奴はいないが、まぁそうでもあるか。大地をしっかりとはむ。足の指で掴むためさ。どれ具合を確かめよう」


天夜叉はそう言うと立ち上がりキルシュの前に立ち手を差し伸べる。キルシュは首を傾げつつもその手を取り立ち上がると次の瞬間には転がされていた。足払いされた?いや触れられた感触はない。目線の先には地面に食い込むほどの先程の爪。まさに地面を足の指で握ってると言うのが相応しいだろう。観察を終えたキルシュは立ち上がる。


「すげぇな今の。一瞬魔法でも受けたかと思ったぜ」

「これをやるとな?しかめ面の武士も赤子の顔に戻るのだ。理合いとしてはまぁ刹那の重心移動を余す事なく相手に伝える事が肝だな」


天夜叉はイタズラが最高したような笑みを浮かべながら言う。


「武道の一つか。侍達はこれがあるから怖い」

「親指はかなり重要に思うぞ。軸足での回転や、打ち込む際の踏ん張り。それに拍車をかけるための鉤爪って事さ。それに蹴り技で相手の喉を掻き切れれば御の字だな」

「ところでキルシュよ寝ずともよいのか?見張りならするぞ?」

「いや、今日くらいの戦闘なら三日は寝なくてもいける。なぁ、組み手してくんねぇかな?

「いいともいいとも!さて……ちょっと待て」


天夜叉が棒を拾い構えるも顔を顰め小川に向かう。キルシュは手頃な棒切れを作りながらどうした?と問えば


「いや狼の涎が凄くてな。匂いもキツイ」

「ははっ。そういや咥えさせてたな」

「よし。いいぞ。こい」


夜も深まるが焚き火の明かりを頼りに2人は稽古する。ひらりひらりと体は回転させながら避けると思えば岩石を打ちつけたと思えるほど頑なに受け止められたり、更に強く打ち込めばすかされたり。とキルシュはつぶさに観察しながら戦った。親指すげぇと実感しながら。戦士において足の運用はかなり大事なファクターだ。だがさらに親指そこまで意識を向けるのは難しいだろう。


 朝日を迎え水浴びを済ませた2人は森を更に進めていると人の気配を聞きつけ近寄るとそこには開けた場所に盗賊どもが昼から宴をしたいた。中央に位置する木に括り付けられた女は衣服を剥がされ既に事切れている。それに向かいナイフやら矢を放ち的当てをして盛り上がっていた。


「9人か…キルシュいけるか?」

「当たり前だ」


殺気立つ2人が茂みに身を潜めていた。





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