第6話 ぼうけんしゃぎるど


 とある浜町の浜辺に建てられた掘立小屋に褌一丁の天夜叉で寝かせられた天夜叉と革鎧の男がいた。茶髪のソフトモヒカン、左手にはラウンドシールドを携え腰のホルダーには片手剣。油断なく壁に寄りかかり天夜叉が目覚めるのを待っていた。




「う………」


「目覚めたかい?俺はキルシュ。海難に合った後で悪いが、まずアンタから話を聞かせてくれ。あの大破した小舟で和人の服装…いったい何があったんだ?」


「和人?俺は夜之介だ。別大陸に渡るために船に乗ったんだ。出たのは大和、ここは別大陸なのか?」


「いやいや、マジか。あんなちっちゃな船で大陸を渡ろうなんてイカれてんのか!?ここがアンタの目指してる大陸かはわからないが大和って所ぢゃない。ヨルフィリア大陸だよ」


「よしっ!いやいやどうなる事かと思った」


「っ…。んで何しに来たんだ?」


「冒険者になるために来たんだ」


「へぇー。侍の国には冒険者ギルドが無いって聞いた事があるが本当だったんだな。アンタ侍だろ?刀が側に落ちてたよ。悪いが今は預からせてもらってる。服は外に干してあるぞ」


「そうか。まぁ侍みたいなもんさ!行き倒れてた所を助けてくれたんだな。恩に着る」


「まったく帰ってきてみればこんな事になるなんてな。驚きだよ。とりあえず今日はもう遅い。明日、またくる。鍋のもん食っていいからな」


「重ね重ねありがとう」


 ベッドの上で胡座をかいたま深く頭を下げる天夜叉にキールは応っと答え、その場を去った後、様子を見てきてほしいと頼まれた住民たちへ事情を説明していた。曰く侍という奴は義理硬い事が多い事や話してみた所感等で問題は無いと判断したと。



 朝日が昇り天夜叉は干してあった旅装束を着る。1日で乾くとはこの装束優れものだなと贈呈者、大国主に感謝した。そして浜辺で遊んでる子ども達を見かけ声をかける



「そこの童達よ!冒険者ギルドへ案内してくれないか?」


その言葉に一人の幼女がニパァーと笑顔と咲かせ手を引き走り出し、それに他の二人の子がついてくる。


 着いたのは町の中、子どもの遊び場と化した空き地で、人はいないが人の目は届くそんな場所。多少のガラクタと気の箱がポツンと一つ。


 幼女は天夜叉の手を離し木の箱の向こうへ回ると声を高らかに言う。


「ようこそ!ぼうけんしゃぎるどへ!」


 天夜叉は一瞬キョトンとするが笑みを浮かべこれまた声を高らかに言う。


「冒険者に成りにきた!」


「それぢゃあ、これがあなたのあかしよ」


 そう言って折紙で作られた証を手渡す。


「えっと、まずせんぱいといっしょにやくそうとってきてください!」


「ボクたちについてきてー!」


 証を受け取り、せんぱいと一緒にそこら辺の雑草をぶちぶちとやっているとキルシュが現れた。


「小屋に居ないと思って探してみれば、こんなとこで何をしているんだ?」


やれやれと言った様子のキルシュ。少し見渡し得心がいったのか、一緒に雑草をぶちぶちし始めた。


「うしっ。こんなもんで切り上げようぜ。夜之介だったか?これをあの受付嬢さんに渡してくれ」


「これでいいか?」


天夜叉が小さな受付嬢に雑草を受け渡すと眼光鋭く、色んな角度から雑草を検める。そしてニパァーっと笑顔を咲かせる。


「はい!これがほうしゅうです!」


 そう言って小石三つを手渡した。それを天夜叉は懐に入れた。


 

 子ども達との時間を過ごし2人はキルシュの実家へと向かった。預けていた刀とこれからの事を話し合う為だ。冒険者ギルドはこの小さな浜町にはなく森林を抜けた向こうの街にあると言う、そこへキルシュは里帰りしてたが戻る為、共にすると言う話だ。


 キルシュの実家は鍛冶屋で元は祖父と2人で暮らしていた。玄関口には天夜叉が貰った折紙の証と同じような物が飾られていた。


「じぃ、この人があの刀の持ち主だ」


「そうか。海水に浸かっていたでな勝手ながら研がせてもらった」


「いやいやかえってありがたい」


「まぁ見ての通り寂れた鍛冶屋だ。大したもてなしはできんがくつろいでくれ」


「ああ、世話になる」


ペコリと天夜叉は頭を下げる。


「それと裏庭に巻藁がある。あれほどの刀だ、振るわれてるとこを見てみたい。刀の検め含め、頼めんか?」


「お安い御用さ」



裏庭に移動した3人。天夜叉は刀を受け取り腰に佩く。そして鯉口を切り正中線まで持って行き、鞘を引くと刀身が顕になる。その所作もあって中々のものと観ていた2人は見受けた。


 構えはなくだらりと右に刀を持ったまま巻藁に向かい身体を倒し勢い良く駆け出す。間合いに入る僅か手前で大きく斜めにステップインすると同時に振りかぶる。


 巻藁の首あたりがパツッと欠けた。



「総じてかなり速いな。だけど両断してくれてもよかったんだぜ?切れ味の検めだろ?」


「いや充分じゃ。夜之介殿に風呂に入って貰いなさい」



祖父はまだジッと巻藁を見つめ立っていたが案内から戻ってきたキルシュに片手剣を持たせ巻藁の前に立たせた。


「ゆっくりと振ってみろ」


 そして踏み込み振って届く距離の地に人一人分を差し引いて線を引く。そうすると強く踏み込み斜めにステップインした天夜叉の足跡と重なる。


「マジか…」


「これだけでは無い。お前の首。その喉骨に達しない傷があの巻藁に刻まれておる。相当な使い手だわい」


キルシュは絶句すると同時に嘆息した。あのどざえもんがまさかの大物だったとは。


「キルシュ。お前が上を目指すなら、この機会、見逃す手はないぞ」


「ああ、いつまで一緒にいれるかわからないけど盗める技は観て盗むさ」



 そしてその夜、皮袋を流され手持ちがない天夜叉の為、街道ではなく森内部に入り路銀を稼ぐための狩をしながら進む事など打ち合わせした。


 次の日出立の準備をしてる天夜叉にキルシュの祖父が脚甲と解体用ナイフを手渡す。天夜叉が伺うと答える。


「森に入るなら必要だろう。持って行きなさい」


「有難いが払える手持ちがない」


「なに、この町には必要のない売れ残りじゃ昨日見せてもらった業とこのキルシュに業を盗む機会をやってくれ。それでいい」


「業と呼べるほどでもないが、好きなだけ盗むといい」


「ははっ、豪華なこった。あんたら和人は洗練されたものがある。見せるだけでも金がとれるってもんさ」


「そうなのか?言葉に甘えよう。2人には世話になる。それではキルシュの爺よ、お達者で」


「よしっ!じゃあ出発だ。じぃ行ってくる!」


「ああ、精々大きくなってまた帰ってこい。夜之介殿もいつでも立ち寄ってくれ」



鍛冶屋の裏庭ポツンとある墓にキルシュの祖父は佇んでいた。


「マルシュよ。お前の息子は無事冒険者として身を立てとるぞ。お前では打てんような立派な装備もこさえてきた。心配はいらんが見守ってやれ」


その墓にはキルシュがしたであろう酒がお供えしてあった。


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