第5話 昔話

 祭りが過ぎ様々な人に別れを告げた天夜叉は港町にいた。大国主により千鶴を共とする事を告げられ、それに苦い顔を示した。元は冒険者ギルド使節団の船で別大陸へと渡る予定だったのだが、なんせ聞かん坊。先に一人で旅立つ腹積りなのである。



 夜が深まる頃、小舟と海を眺める天夜叉は偶に居合わせためくらの語り部の唱を聞いていた。旅立つならばと世界について。


 べべんっと一鳴らし


「むかーしむかし。今は超古代文明と呼ばれる時代。世界は争いも少なく栄華を極めていた。嘘か真か、只人が星から星へ渡る術さえ持ち合わせていたとさ」


天夜叉は想像もつかぬと目を輝かせ語り部は微笑む。


「その発展は飛ぶ鳥を落とす勢いだ。だが星が悲鳴を上げるほどでもあった…。さらに凶兆。終わりを告げるかのように忍びよる星の影あり。後に魔星ぐらんふぃりあと呼ばれる星と我らが住まう蒼星あーす。双つが一つに逢うたのさ」


 べべんっ


「巻き起こるはまさに天変地異。"吹き荒れる忘却の風"に"大地ごと神隠し"。一度滅ぶも蘇る。人も木も海も、新たなる住人と共に」


 べべんっ


「文明の跡形も無く、入り乱れる様々な種族。混じり改め産まれた者。似たもん同士がより固まって今が出来たとさ。まさに諸行無常。大和は小ささ故に神隠しには合わず、されど忘却の風は防げなんだ」


 語り部は静かに三味線を置く。語り終えたのだ。


「星と星が一つになんて、すごい事もあるもんだ」


 ほえーっと呑気に語る天夜叉。


「まぁこれもとある誰かの推察にてございますれば、この先、天夜叉殿も事の真相に触れる機会がありましょう。時に天夜叉殿、魔力が記憶を有している。そんな話はご存知か?」


「いや寡聞にして聞かないな」


「生き物は時に使命感を帯びますなぁ。それは神のお告げか、合縁奇縁によるものか。それとも魔力が呼び起こす物なのか。

おまんじゅうを食い過ぎだと怒られる八兵衛。そやつの言い分では外から内に入る魔力がまんじゅう好きだったのさと軽口叩く。案外、八兵衛の言は間違ってないかも知れませんなぁ」


「ははっ。だが戦いに身を置くものとしては吸収する魔力に当たり外れが有っては困りものだな」


「確かにそうでしょうなぁ。まぁ確固たる己があれば、他所が入る余地はありませんでしょう。それでは天夜叉殿、お別れを。あなたがあなたでいられますように」



 こうして天夜叉は小舟に乗り込み大和を旅立った。慌てふためく千鶴や大国主の事など梅雨知らず。千鶴と天夜叉の道が重なる事はまた後となるだろう。




 

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