第2話 果てのない世界へ旅立ち
べべんべんっ
「はてさて、かの者らが世界を巻き込んだのか。それとも世界がかの者らを巻き込んだのか。どちらかにせよ始まりは"あぁ不用心、不用心。踊る心と身一つで外に飛び出した1人の男" 天夜叉にござそうろう」
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深い霧に包まれ荒波に浮かぶ、とある島の山。その名も"天王山"その頂の岩盤は今日も昨日もその前も昔から、ずっとずぅーっと。
剣と剣が閃き火花を散らし、岩を叩きつけたような音がなり、雷光が走る、水も弾ける、炎だってゆらめく。島の住人達は飽きもせず、ずっとずぅーっと眺めてる。時には自分がそれを発していたりもした。
それも昔はコンッコンッと小さな音や山が小揺るぎもしない衝撃でしかなかった。だが今日は違う。過去一番に島中に激しく轟いた。だってこの騒々しさも今日限り。
やがて静寂が訪れたそこには三つの影。二、三、言葉を交わし、その内の一つが野へと下った。
霧が晴れ残された二つの影があらわになる。一つは"巨岩を思わせる体躯の鬼"が腕を組み胡座をかいていた。一つは"鱗と長い尾を持ち角は後方に流れるように生えた鬼"が尾で大地を踏み四肢ごと身体を持ち上げ宙で座禅を組んでいた。
「
「まったく…おまんらはこの上なくせわしない。別れの余韻すら響く余地なしときたもんだ。」
尾を持つ鬼が地に足を下ろし立ち去っていく。
「ワシを超えるのはええが、その前にくたばってくれるなよ龍ノ上」
尾を持つ鬼"
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この島唯一の桟橋に大型馬車よりもおおきな瓢箪を引き摺りながら歩く男が1人。見目は百八十ほどのタッパ。黒の長髪をザンバラに後ろで束ねている。眼は鋭いが口がニヤついている。日食日輪の模様を背負った紺の半着。灰色の袴に足袋を履いている。どれもほつれて擦れて褪せていた。
桟橋にてその男を迎えるは薄緑の鱗肌、水かきがある手に、甲羅を背負い、頭はつるりとお皿が一つ。そして見たこともない奇妙な脳が透けて見える魚なのかも怪しいような生き物を頭から丸齧りしているソイツは島と国を行き交うただ一人の海番頭である。
「おやおや天夜叉の旦那、ずいぶんと大きな
「ああ!そうだろう?こいつをせしめるに一月はかかった!しばらく大和を離れる事にしたからなぁ。あいつらへの置き土産さ、それに色んな教えをもらった恩がある。お前さんの腕ならこのデカブツひっつけても辿り着けるだろう?」
「さもありなんでさぁ。では出しますよい」
荒波の中、川を渡るような小舟に二人と大縄でくくりつけられた瓢箪。何も迷う事なく漕ぎ出した。この番頭、相当な腕のようである。
「旦那がしばらくいなくなるなら船の漕ぎがいがなくて寂しくなるねぇ」
「ほぼ俺の為だけに船を出させてるようなもんだからねぇ…すまないな。お詫びにあっちの大陸で番頭さんの嫁さん候補探してくるよ、どんな女が好みだい?」
「へへへ、そいつは待ちがいがありそうだ。そうですねぇ…気立てが良くて、魚焼くのが上手くて、何より皿に艶があるっていうもんならぁ…へへっ。まぁでも話が通じるだけで目から鱗、皿に通り雨でさぁ」
「この国にはいやしなかったけど、知ってるかい番頭さん。この世界には果てがないらしい。果てに辿りついても気づかないだけで果てはあるってね。だから見つかるまで探す事が出来るのさ。きっとどこかに皿がぷりんぷりんなヤツがお前さんからの使者を待っているぞ」
「ぷりんぷりんかぁ…夢ェ…見るのは楽しいなぁ。わかりやした!旦那!ぷりんぷりんおねげぇします!おっと夢中になってたらいつの間にやら国近くでさぁ。瓢箪はあっしにお任せを。それではお達者で。くれぐれもぷりんぷりん頼みましたよ!」
「ああ!大皿こさえた気持ちで待っときなぁ!」
番頭がバシャンと潜り瓢箪と共に沖へ離れてく。夜之介は大和大陸大江戸へ一人静かな水面を漕いでいく。
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