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 俺が気圧されたのは、その燃える目自体にではなく、それをきれいだと思った自分の感覚にだった。きれい、なんていう単語を自分の父親に当てはめたことに、怖気だった。だから、その感覚から逃げるように言葉を吐きだしていた。

 「腹から生まれたら、自動的に息子だろ。望む望まないに限らず。」

 間違ったことは、言っていないはずだ。望む望まないに限らず、生まれてしまったからには俺は息子だ。全く望んでいないけれど。切れるものなら切ってしまいたい縁だけれど。

 父親は、なにも言わなかった。俺の発した言葉をどう受け止めたのか、表情一つ変えず、虚空を見ていた。俺は、その視線の先に、いるはずもない母親がいるような気がして、ぞっとして背後を振り返ったけれど、もちろんそこにはなにもいず、薄暗い伝統に照らされた白壁があるだけだった。

 父親が、笑った。口元だけで、ひどく気だるげに。

 「ひばりは、いないよ。」

 内心の全てを読み取られた気がして、俺は怒りと恐怖を半々におぼえた。

 「さがしてなんか、ない。」

 発した言葉の何割が本当で何割が嘘かは、自分でも分からなかった。ただ、全部が本当ではないことは確かだった。俺は、心のどこかでは母親をさがしている。顔も知らない母親だ。どこかですれ違ったとしても分かりはしない。再会したとしても、話すことなんかない。それでも、どうしても、さがさずにはいられなかった。本能みたいに。

 「ひばりも、そうだろうね。」

 父親は、誰に言うとでもなくそう嘯いた。この場には俺と父親しかいないのに、俺に話しかけているという態度ではないのだ。全く。強いて言うなら、虚空に、さっきから眺めている虚空に声を注いでいるみたいな態度だった。

 「ひばりは、子どもなんか欲しがってなかったよ。」

 俺はその言葉を聞いても、意外とは思わなかった。さっき、きれいな男娼から聞いた母親像から言えば、それが妥当だと思った。重度の男性依存だったという母親。その依存症にもがいている中でできた、偶然の産物が俺。そんなところが妥当だろうと思った。

 「でも、俺は欲しかった。ひばりの子ども。」

ぼんやりと、薄暗闇を漂うように父親が言った。俺は、その言葉も意外とは思わなかった。この、全てを投げ出した後の男が見せる、母親への強い執着。その一環として、子どもくらいは求めるだろうと思っただけだ。

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