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 そう、きみは強い子だね、と、きれいな男娼が、低い声で歌うように言った。子、とついていても、そこに俺を子ども扱いするような色はなかった。なんなら、少し大人扱いするような色まであって、俺は意外に思って首を傾げた。自分が全然強くないってことくらい自覚していたし、それくらいのこと、このきれいなひとに見透かされていないはずもないと思った。

 「話しても、平気なのかもね、きみなら。」

 俺は弾かれたようにきれいな男娼の小さな顔を見上げ、ぶんぶんと何度も頷いた。今を逃したら、きっと、次はない。 

 「平気です。話してください。」

 「……そうだね。」

 彼はまた、父親が立つ街灯の下を見透かすような目をした。俺は彼の肩を揺さぶりかけて、慌ててやめた。また、そこに手形をつけてしまったら、自己嫌悪から立ち直れなくなりそうだった。誤魔化すみたいに、言葉を紡ぐ。

 「母親が死んでからのこと、全部話してください。全部。」

 「まず、それなんだけどね。」

 彼が父親から俺へと視線を移す。人の立ち入れない深い森の奥の泉みたいに、しんと澄んだ目をしていて、俺は少し緊張した。

 「ひばりさん、死んでないと思うよ。」

 「……はい?」

 なにを言われているのか、分からなかった。俺は彼の目を見つめ、その真意を探ろうとした。なにか、言葉遊びみたいなことをしているのだろうか。たとえば、父親の心の中で、母親は生き続けている、みたいな。すると彼は、俺の考えを読み取ったみたいで、軽く肩をすくめ、別に比喩の類ではないよ、と言った。

 「ほんとに、多分死んではない。いなくなっただけ。探してるんだと思うよ、敬吾さんは。客取るようになったのは、いつからだか知らないけど、ひばりさんの真似してるんだろうね。少しでも、理解したいんだと思うよ。随分、ひばりさんのことを大事にしていたみたいだから。」

 なにを言われているのか分からなかった。だって、俺は母親が死んだと思い込んで、もう10年がたつのだ。それが今更、死んでいないと言われたって。

 ちょっと待ってください、と言って、それっきりなにも言えなくなってしまった俺を見て、彼は同情するような色を大きな両目に浮かべた。

 「死んでくれた方が、話がスムーズに進むってこともあるよね。分かるよ。」

 その同情心に満ちた物言いを聞いて、俺は、多分この人も、複雑ないきさつで親を亡くしているのだろうと思い、なんだか少し、気持ちが落ち着いた。一人っきりで宇宙空間に投げ出された、くらい混乱していたのが、一人っきりで地球上空に投げ出された、になったくらいの変化ではあったけれど。

 

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