15
きれいな男娼は、俺の肩を、慰めるようにぽんと一つ叩いた。その仕草はなんというか、男のひとっぽくて、俺は改めて、このひとは男なんだな、と実感した。外国映画で、野球の試合にでも負けた子供を、父親が慰める時みたいな動作だったのだ。俺の父親は、一度たりともこんなふうに、俺に触れてくれたことはなかったけれど。
俺はその仕草にずいぶんと救われた気分になって、緊張で詰めていた息を吐きだした。彼は、そんな俺を見て、にこりと微笑んだ。その顔は、どこからどう見てもきれいな女のひとのもので、俺の脳はまた混乱した。彼は、俺の混乱を見透かしているようで、楽しそうに声を立てて笑うから、俺はむっとした。半分以上は、照れ隠しだった。
「……俺の母親は、なんでいなくなったんですか?」
照れ隠しと同時に発していた言葉。重い覚悟をしなければ口には出せないと思っていたのに、ついでみたいに零れ落ちていた。俺はそのことを、性別ごちゃまぜの男娼に感謝せずにはいられなかった。
「あのひとはね、重度の男性依存。敬吾さんのことが重かったんだと思うよ。」
ここで客引いてたのも、商売って言うより趣味って感じだったし、と、彼はちょっと言いずらそうにした。俺の母親の話だもんな、と、俺は他人事みたいに思った。
「重かったって……夫婦、だったんですよね、一応。」
「それはそうみたいね。籍も入ってたみたいだし、ずっと一緒にいたのも確かみたい。」
「ずっと、一緒に?」
「うん。ずっと。」
ずっと、だよ、と、彼は繰り返して夜空を見上げた。俺もつられて上を見ると、ぼんやり月が浮かんでいた。街灯が明るすぎて、星の光はここまで届かないようだった。月光すら、影が薄い。
「同じ施設で育ったんだって。敬吾さんが高校を卒業して施設を出るときに、ひばりさんは中学卒業だったから、一緒に出てきたみたい。」
俺は、父親が施設で育ったということすら知らなかった。ただ、親戚なんてものがひとりもいないから、なにがしかの事情があるのだろうなと思ったことはあったけれど。
俺は、なにも知らない。
思わず口に出して呟くと、彼は大きな目を細めて月を見上げながら、これまではまだ、知るときじゃなかったんでしょ、と言った。
「敬吾さん、きみがいつかここにきて、敬吾さんの過去を知りたがると思って、自分の過去をいろんな人に話してるんだと思うよ。自分の過去なんて、隠したがる人しかここにはいないんだから。」
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