第15話 ロケット発射

 俺はパンツ一丁で焦っていた。

 この家自体が魔力で作られたモノだと思っていた。

 なのに黒き水晶が家を吸収してくれない。


 あれ? 

 吸収せん。

 さっきまでブルブル震えてるいたのに、今は充電が無くなったスマホのように、杖は1ミリも動かなかった。


「なんでだよ」

 と俺は叫ぶ。


「おい。なんで吸収してくれねぇーんだ」

 と俺は泣きながら言った。


 そうか。詠唱か。



「深淵なる虚空より、無尽の闇を呼び寄せん。力の源よりその根を掴み、憑依せし者よりその血を啜り尽くさん。魂の輝きを奪い取り、闇の宴を繰り広げよう。魔力吸収エクリプス・ドレイン!!!」


 何も起きん。

 詠唱なんて意味ねぇーんだよ。

 適当に言ってるだけなんだから。


 

 ヤバい、ヤバい。

 壁が迫って来ている。

 

「クソ。クソ。どうして魔力を吸収しないんだ?」

 と俺は泣く。


「このまま死ぬのか。イヤだ。イヤだ」

 と俺は泣く。


 今日の出来事を思い出した。

 スノーホワイトちゃんの裸。

 実際は建築の魔女だったけど、それはひとまず置いておいて、俺の記憶の中ではスノーホワイトなのだ。

 裸になって恥じらうスノーホワイトちゃんを思い浮かべた。


 卑猥だった。


 ほっぺだけどキスもしてくれた。

 頬のキスはノーカンだと思っていたけど、それでもキスはキスなのだ。


 スノーホワイトちゃん。

 あれは、建築の魔女だった。

 逆に初対面の女の子が、ほっぺにキスしてくれたと思っても、卑猥である。

 

 スノーホワイトちゃん。

 建築の魔女。


 交互に2人の顔を思い浮かべる。

 1人で2度美味しい。


 これならできる、と俺は思った。

 このままでは死ぬ。

 死ぬ前に、せめて一発ヌイておきたい、と俺は思った。

 それに俺の下半身のロケットは、ガソリンが溜まっているのだ。


 壁が迫って来ている。

 このままでは俺はペシャンコである。


 俺はパンツを脱いだ。


 死ぬ。

 いや、今は集中しろ。

 集中すれば死の恐怖は和らぐ。


 恥じらうスノーホワイトちゃん。

 いや、あれは建築の魔女。


 どちらも、ありである。


 ロケットが発射の順番を始める。

 

 ガタガタガタ、と音がした。

 杖が振動してる。


 おぉ、あっ、ヤバい。

 黒き水晶が、家を吸収し始めた。

 やっぱり、家は魔力で作られたモノだったらしい。


 パンツを脱ぎ、下半身のロケットは発射準備が完了しているのに、家が吸収されいく。


 建物が全て吸収されてしまった。

 青空が見えた。

 俺の下半身のロケットは光合成をするように、太陽に向かって立っていた。

 目の前には途中まで制服を着た建築の魔女がいる。


 彼女は俺のロケットを見つめた。

「なんで、裸なのよ……」とダイアは呟き目をひん剥いて、そのまま失神してしまった。


 校舎からの視線を感じた。誰かがコチラを見ている。

「裸だ」「裸だ」とコソコソと喋る声が聞こえる。「一体、何をしてたんだ?」「Fクラスのアイツに建築の魔女が決闘を持ちかけたらしいぜ」「でも裸だぜ」「建物の中で何をやってたんだ?」


 ソチラを見ないように、俺はゆっくりとパンツを履いた。


「ガハハハハハ」

 と俺はとりあえず、笑ってみる。

 どうしよう?


「お前は俺の敵じゃねぇ」

 と俺は適当に言葉を紡いだ。


 そして俺は自分の服を探した。

 建築の魔女のすぐ近くに、俺の制服がある。


 俺は慌てて自分の制服を取る。

 その時に地面に落ちていた学生証を手に取って、中を確認した。

 

 ダイア・ジニー


 と学生証には書かれていた。

 失神した時に落としてしまったのだろう。


 学生証を彼女に返そうとした。

 その時、


「勝者、ヘンゼル」と声が聞こえた。


 声がした方を見ると、ミスター立会人こと、我がFクラスの担任の先生がソコにいた。名前は覚えていない。


 えっ、なにか知らんうちに、俺は何かに勝っってる。

「正義は必ず勝つ」

 と俺は適当な決め台詞を言った。


「それじゃあ学生証に血の契約を」

 と担任の先生が言った。


 えっ? 俺、気づかないうちに決闘してたの? でも宣誓とかしてないよ?

 そう思った時に思い出した。

 おかしな家に入る時に、扉に書かれた文字を読んだのだ。それが宣誓の内容と同じだった。


「ガハハハハハ」と俺は笑った。

「俺は天才すぎる」

 決闘しているという意識が無くても、決闘に勝つなんて天才過ぎて逆に困るというか、世界が嫉妬する。

 

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