第10話 こんなところにポツンと風⚪︎店
夜。
俺がベッドで寝ていると、当たり前のようにアブーが俺のベッドに入って来た。
「当たり前のように入って来るな」と俺が言う。
「でも床で寝るのしんどいもん」
とアブーが言う。
「獣人なんだから床で寝るのが好きだろう」
「それ差別だよ」
「わかった。俺が床で寝る……そう言うと思ったか? 絶対にベッドは死守してやる」
「それじゃあ一緒に寝たらいいじゃん」とアブー。
「お前さん、男と一緒に寝るってどういう事がわかってるのか?」
「どういう事でしょうか親分」
とアブーが尋ねた。
いや、そんなに直接的に聞かれたら困る。
「あれだ。アレがアレしてお腹が大きくなる」と俺が言う。
クスクスクス、とアブーが笑う。
「どうして男子と一緒に寝ただけで、お腹が大きくなるのさ」
「なるんだよ。スイカみたいなお腹に」
「そのメカニズムを教えてくださーい。スイカでもお腹に入れるんですかー?」
とアブーが腹立つ口調で言う。
まさか、コイツ本当にわかってないのか?
「お前が寝てる隙にスイカをお腹に入れるんだよ」と俺が言う。
「後で食べるから甘いヤツにしてね」とアブーが言う。
「お前にスイカなんて入れてやんねぇーよ。もっと可愛い子に俺はスイカを入れてやりてぇーんだよ」
「なにそれ? それじゃあ同じクラスの……名前なんて言うだっけ?」
「スノーホワイト」と俺が言う。
「そうそう。スノーホワイトなら、スイカをあげるの?」
いつの間にかスイカをあげる話になってるじゃん。
「彼女ならスイカをあげてもいい」と俺が言う。
スノーホワイトは世界一可愛い。
初体験が彼女なら最高である。
「いいもん。スノーホワイトからスイカを貰うもん」とアブーが言う。
アブーは俺を背にして、横向きになった。
彼女のお尻から出ている尻尾が、俺のお腹に置かれた。
俺は自然とアブーの尻尾を撫で撫でしていた。
尻尾の中に芯があるような感触だった。
ゴールデンレトリバーの尻尾を触っているような気分である。
「うっ、あっ、ダメ」
とアブーが淡い声を出していた。
「どうしたんだ?」
と俺は驚きながら尋ねた。
俺が横にいるのに変な事でもしてるのか、と思った。
「あっ、尻尾。そんなに、あっ、ダメ」
とアブーが言う。
あっ、俺尻尾触ってるわ。
もしかしてアブーは尻尾がクスグッたいのか?
なんか、さっきよりも尻尾の芯が硬くなっているような気がする。
「え? なにがダメだって?」
と俺は意地悪く尋ねた。
「ちっぽ」
とアブーが言う。
すでに尻尾、とすら言えてない。
ガハハハ、と俺は笑う。
「参りましたヘンゼル様、と言え」と俺が言う。
「な、なんで?」
「言わないと尻尾を触るのをやめないぞ」
と俺が言う。
「やだ、やだよ〜」
とアブーが震えながら言った。
「あっ、やだ、もう」
とアブーが布団をギュと握り締めて言う。
「もしかして、尻尾を触ってほしいの?」
と俺が尋ねた。
くぅーん、くぅーん、と子犬のような鳴き声をアブーが出す。
激しく上下運動するみたいに尻尾を触った。
犬の尻尾を触っている気分だった。
アブーが布団を、もっと強く握る。
彼女の顔を覗き見ると顔を真っ赤にして、両目をギッと瞑っていた。
尻尾って触ったら、こんなリアクションになるのか? 変なの。
俺は尻尾から手を離した。
「やめないで」
とアブーが言う。
「なんで?」と俺は尋ねた。
「もう、だって……」
「手しんどい」と俺が言う。
「……なんでもするから」
なんかわかんねぇーけど、イニシアチブ取れたんじゃねぇ?
ココで家の決まりを決めよう、と俺は思った。
「これから掃除、ゴミ捨てしてくれる?」
「しゅる」とアブーが言う。
「ご飯は俺が作る。アブーが皿洗いな」
「しゅる」
とアブーが言う。
「部屋は共同スペースだから、綺麗に使ってくれ」
「わかったよ。いいから尻尾触って」
「仕方がねぇーな」
と俺は言いながら、硬くなった尻尾を触った。
「もっと、もっと根本のほう……そこ」
邪魔くせぇー。
しかも指示まで出してくるじゃん。
「先っぽ、いっちょに触って。……はぁ、はぁ、はぁ」
彼女の指示に従って、俺は片手で尻尾の根本を触り、もう片手で尻尾の先っぽを触った。
アブーが寝たらお尻を触ろう、と俺は思いながら尻尾を触っていた。
お尻ぐらい触っていいと思う。勝手に人の家に住み着いて、お尻ぐらい触る権利は俺にはあるだろう。
そんな事を考えていたのに、疲れのせいで、尻尾を触りながら寝落ちしてしまった。
寝落ちする前にアブーが震えていたような気がした。
あっ、そうだ。寝てる場合じゃないんだ。アブーのお尻を触らなきゃいけないんだ、と思って起き上がった時には朝だった。
隣にはアブーはいなかった。
せっかくお尻を触ろうと思っていたのに。
彼女は制服姿に着替えて、尻尾を振りながらホウキで床を掃いていた。
昨日の約束を守って掃除をしているらしい。尻尾を触っただけで掃除してくれるんだったら、また触ってあげよう。
「おはよう」と俺が起きている事に気づいて、アブーが言う。
彼女は、すごくスッキリした顔をしていた。
俺はモンモンしている。
アブーが家にいるせいで、アレを発射できない。
アレというのは、ロケットの事である。
男は下半身にロケットが付いている。
発射させないとガソリンが溢れ出して爆発する事がある。
特に朝はヤバい。
このロケットどうしよう? どこかで発射したい。
悶々しながら学校に辿り着く。
公衆便所みたいな教室に行くために校庭を歩いていると、小さな建物を見つけた。
昨日あったけ? 煉瓦造りの建物で、扉にはピンク色のカーテンが掛けられていた。
ピンクのカーテンには『ヌキ』と書かれている。
おいおい、嘘だろう。
こんなところに、ポツンと風◯店があるじゃねぇーか。
俺はそう思ってしまったのだ。
「ごめん。忘れ物したから先に教室に行っといてくれ」と俺がアブーに言った。
「えっ、今から家に戻るの?」
とアブー。
「いいから先に教室に行ってくれ」
と俺は目をバキバキにさせて言った。
「わかったよぉー」とアブーが言って、公衆便所みたいな教室に向かって行く。
俺はアブーの背中を見送り、フラフラと風◯店に向かって行く。
こんな所に風◯店がある訳がない、と頭ではわかっているのに、その小屋に入らないと気がすまなかった。
そんな魅力が『ヌキ』という文字にはあった。
そして俺はピンクのカーテンを掻き分けた。
扉を開けようとした。
だけど閉まっている。
扉には文字が書かれていた。
「えっーと、鍵を開けるには学生証を取り出して」
と俺は扉に書かれている文字を読みながら学生証を内ポケットから取り出す。
「魔法使いの栄光と繁栄のために決闘を合意して、学生証をかけて戦うことを誓います、って言えば扉が開くのか」
ガチャ、と扉が開く音がした。
あれ? これって? 決闘の宣誓じゃねぇーのか?
視線を感じて隣を見ると、煉獄の魔女との戦いで立会人をしていた担任の先生が立っていた。
わぁ、と驚いた拍子に扉を開けて風◯店の中に入ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます