第5話 最強の俺がFクラスになった件

 掲示板に新1年生達が飴に群がる蟻のように集まっていた。

 掲示板にはクラス分けが張り出されていた。

 俺とアブーは揃ってFクラスだった。ちなみにAから順にFクラスまでしか教室は存在しない。

 

「Fクラスは校内とは別の離れにあるみたいだぞ」と俺は掲示板を見ながらアブーに喋りかけた。


 返事がなかった。


 隣にアブーがいると思っていたのに、いなかった。もしかしたらアイツ先に教室に行ったのか、と俺は思った。


 仕方なく1人でFクラスに向かう。

 校舎を出て校庭を歩いていると見覚えがある3人組がいた。

 身長の低いドワーフ3人組である。


「おーい」と俺は3人に喋りかけた。「もしかしてお前達もFクラスなのか?」


 3人のドワーフがコチラを見た。


「貴殿は昨日の?」

 とドッグが尋ねた。


「そうだ。昨日、助けてあげたラスボスで魔王で勇者で大賢者で、なんだったら天才でカリスマのヘンゼル様だ」と俺が言う。


「なんでそんな大人物がFクラスに?」とドッグが尋ねた。


「たまたまクラス分けでFクラスになったんだ」

 と俺が言う。


「このクラス分けは、Aから魔力の強い順に振り分けられるのだ。だからFクラスは落ちこぼれなのだ」と溜息を付いてドッグが言った。


 へー、と俺は思う。

 そもそも魔力を持っていないので、どうして俺がFクラスなんだよ、と憤りは無い。

 それよりコイツ等に弱いと思われるのが嫌だった。


「魔力測定の時に力を加減しすぎたか」と俺はボソリと呟いた。


 わざと加減してFクラスになったんですよ、という風を装った。


「貴殿は昨日の魔力測定にいたのか?」

 とドッグが尋ねた。


「昨日? なにそれ? 行ってないけど」

 と俺が言う。

 魔力測定をするという情報すらも知らなかった。セーフである。魔力が無いので魔力測定なんてしたくない。


「出身地によっては、魔力測定もされずにそのままFクラスになるんだ。そういう我々7人も昨日の魔力測定に行ったけど、魔力測定すらもしてもらえなかった」

 とドッグが言った。


 つーか7人?

 俺には彼等が3人にしか見えない。


「7人って?」と俺は尋ねた。


「我々の村出身のドワーフは今年7人入学したのだ」とドッグが言った。



「でも魔力測定なんてしてもらえなかった」

 とドッグが落ち込んで呟く。


「大した事じゃねぇーよ」

 と俺が言う。

 むしろ魔力測定してもらえなくてラッキーじゃん。


「お前等は何かをしてもらえなかった。正しい評価を受けられなかった。それだけで勉強をする気持ちがなくなるのか? 甘えてんじゃねぇー。これから認めてもらうために頑張ればいいだけだろう」

 と俺は言った。


 つまりFクラスって事は、みんな弱いって事だよな? 強い奴がいたら嫌だな、って思っていたからラッキーである。

 むしろ弱い奴しかいないクラスなら、学生証の奪い合いに巻き込まれずに楽しい学校生活が送れるんじゃねぇ? 


「……貴殿はヘンゼルといったな? ヘンゼルはFクラスは嫌じゃないのか?」

 とドッグが尋ねた。


「全然、嫌じゃねぇーよ」

 と俺が言う。

 雑魚そうなお前等と同じクラスなんて最高じゃん。

「むしろお前等と同じクラスになれて俺は嬉しい」

 と俺は言った。


 ドワーフの3人が子犬のように潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

 なんで、そんな目で見てくるんだよ?


「やっぱり貴殿は大物だな」とドッグが笑った。「我々もFクラスだからって落ち込んでおれん」


 さようですか、と俺は思った。




 そして我が学舎になるはずの離れの小屋に辿り着いた。

 豚小屋かな、と思うほどに外見はボロボロだった。

 いや、豚小屋に失礼である。豚小屋の方がまともなような気がする。

 公衆便所みたいな小屋だった。


「味がある」と俺は呟いた。

 ボロボロと言ってしまえば、こっちが悲しくて泣き出したくなるから、味があると言葉に変換した。


 とりあえず入ろう。

 アブーが先に小屋に入っているかもしれない。

 扉を引いた。

 そのまま扉が取れた。


「歌舞伎おる」と俺はニッコリと笑った。

 歌舞伎おる、というのは「ふざけているね」の知的な言い回しである。


 俺は持った扉を横に立てかけた。

 扉を立てかけたのは生まれて初めてだった。


 小屋の中は湿気があり、カビ臭い。

 机と椅子が乱雑に置かれている。

 アブーはいなかった。


 だけど1人の少女が椅子に座っていた。

 肌が処女雪のように白くてきめ細かく、整った顔立ちの超絶美人である。世界で1番美しいといっても過言ではない。だけど幼さみたいなのが残っていて、目元は少し怯えている。


「お嬢さん、お名前は?」

 と俺は自然に喋りかけていた。


「……」

 俺に喋りかけられて驚いているみたいである。

 こんなイケメンに喋りかけられたら、ドギマギするのも無理はない。


「俺はラスボスで魔王で勇者で大賢者で天才でカリスマでもある、ヘンゼル」と俺が言う。

「困った事があったら何でも俺に言って」

 君が困っていても助ける事はできないかもしれないけど、と思ったけど、そんな無粋な事は口に出しては言わない。


「……スノーホワイト」

 と彼女が小さい声で言った。


「スノーホワイト?」と俺が首を傾げた。


「……私の名前です」と彼女が言う。


 なんて可愛いらしい名前なんでしょう。スノーホワイト。略してスノホワ。


 俺が彼女の美声と、彼女の可愛いらしい名前に酔いしれていると、「誰か助けてくれ」と声が入り口から聞こえた。


 小屋の入り口から4人のドワーフが入って来た。4人とも背が小さく、黒い髭を生やしている。そして4人とも制服が焼け焦げてボロボロだった。


 4人のドワーフが教室に入って来て倒れた。


「どうしたんだ?」とドッグが慌てながら尋ねた。


「……赤髪の魔女に決闘を持ちかけられて……4人とも学生証を奪われた」

 と1人のドワーフが答えて気絶した。


「……赤髪……魔女……もしかして昨日電車のホームで出会った女性か?」とドッグが思考を口にした。


 煉獄の魔女。

 体育館で俺の事を睨んでいた魔女が脳裏に過ぎった。


 え〜ん、え〜ん、と泣きながらアブーが小屋に入って来た。

 アブーの服も焼け焦げてボロボロだった。


「ヘンゼル〜」

 アブーが俺を見つけて近づいて来る。


「どうして先に行くんだよ?」

 とアブーが言って、泣いている。


「誰にやられたんだ?」と俺は尋ねた。


「昨日の女の人にやられた」

 と彼女が泣きながら言った。

「お肉くれるって言うから決闘をしたんだ。お肉もくれないし、学生証もとられたよ〜」


「コレはFクラス狩りだ」

 とドッグが言い出す。

「弱い俺達を奴隷にするために、Fクラス狩りが始まったんだ」


「ヘンゼル〜」とアブーが泣きながら言う。

「学生証を取り戻してよぉ〜」


 いや、俺、魔力ゼロ男だせ。

 なんの力も持ってないんだぜ。

 煉獄の魔女から学生証を奪い返せるわけないじゃん。


「俺達からも頼む。4人の友の学生証も取り返してくれ」とドッグが俺に頭を下げた。


 なんで俺に頭を下げてるんだよ?

 どうやったらこの申し出を断れるのか、俺は頭をフル回転させる。


「取り戻してあげて」

 と超絶美人のスノーホワイトが言った。


 まだ初対面のコイツ等の事を心配するなんて、なんて優しい子。


「俺に任せてくれ」

 と俺はスノーホワイトを見つめて言った。

「コイツ等の学生証は最強の俺が必ず取り戻す」

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