第4話 女の子の生着替えは見てません(チラチラ見るのはノーカンです)

 真新しい制服を着て、学校規定のローブを着て、大きな杖を持った。魔法学校は黒を基調とした制服である。ローブも長くて良し。長いローブは魔法使い感がでる。


 それと本も持つ。教科書じゃなくて、色んな魔法の呪文が書かれた伝説の魔道書である。魔法を駆使して戦わないといけないのだ。嘘、ただの料理本である。


 魔法使いは本を持てば、それっぽくなると俺は知っていた。転生者なのだ。日本の知識で他を圧倒する。ちなみに俺が成長するたびに本のページが増えて、新しい呪文が増えるという設定もある。設定だけであって、本のページは増えないし、そもそも料理本である。


 ローブの内ポケットには大切な学生証を入れていた。学生証は持ち運びたくなかったけど、持ち物必須項目の中に含まれていた。それと筆記用具が入った学校規定のサッチェルバッグを背負った。皮で作られた四角いバッグである。

 ピカピカの一年生である。


 アブーも似たような格好だった。真新しい制服である。ちなみに女の子はスカートだった。朝から円形の穴をスカートに開けて尻尾を出していた。獣人族ってお尻に穴を開けないといけないから大変そうである。


 ちなみに着替えは見ていない。アブーって意外と胸があることも知らないし、太ももがつやつやしている事も知らない。俺は決して着替えを見ていない。


 そういえばアブーがいるからアレの処理をどうしたらいいだろうか? アレの処理というのは男だったら誰でもやるアレの処理である。アブーの前でヤれないので、アレがパンパンに溜まっていくだろう。


 ただでさえ朝から生着替えを見せられて興奮しているのに。……決して着替えは見ていないっす。パンツにも尻尾を出す穴を開いていることも知らないっす。でも女の子はええ匂いするよな。


 ちなみに俺は彼女にベッドを譲らなかった。

 本来男ならベッドを譲るモノなのだろうけど、俺は違う。転生者である。だからベッドを譲らなかった。ココで転生者って関係あるのかな? 


 ゆっくりとベッドで眠りたかったのでベッドを譲らなかったんだけど、朝起きるとアブーが俺の隣で眠っていた。


 もう朝からパンパンさ。アブーに変なことをしそうになった。

 厳密に言うとアブーが寝ている事を確認してから抱きしめて、チューしようか悩んで諦めた。いや、ホッペにはチューした。

 仕方ないじゃん。女の子が俺のベッドに入り込んで隣で眠ってるんだもん。抱きしめるのとホッペにチューは何もしていないのと同義である。


 こんな事があったので朝から俺の暴れん坊が大爆発寸前だった。

 生着替えも見せられるし。


 白状すると生着替えは厳密に言うと見ました。「絶対に見たらダメだよ、後ろを見といて」とアブーに言われたから俺はちゃんと壁を見つめて、たまにチラチラとアブーの生着替えを見たのだ。でもチラチラなら見ていないのと同義である。ノーカンである。


 全てが真新しかった。

 外の空気も、初めて通る道も。

 1年生になったら友達100人できるかな状態でワクワクしながら学校に向かった。

 そんなピカピカ1年生のワクワクは、礼拝堂みたいな所で行われた校長先生の挨拶で全てが失われた。


 礼拝堂はキリストの建築物だから、この世界では礼拝堂という名称じゃないだろう。

 だけど礼拝堂みたいに壁や天井に天使や神様の絵がビッシリと書かれていた。体育館ぐらいある空間である。新1年生はココに案内された。


 礼拝堂みたいな所に入る前に受付で学生証を見せた。新1年生の確認だと思う。その時に親指でナイフを軽く切られて学生証に拇印を押させられた。

 拇印を押した後に力が無くなるような感覚になった。その事をアブーに言うと、「そんな事は無いよ」と言っていた。

 俺だけがこの違和感に気づいたんだと思う。


 礼拝堂の中には椅子も無かった。

 300人ぐらい集まった新1年生達が桜の花びらが地面に落ちたように散らばって立ち話をしている。


 勝った、と思った。

 新1年生は誰も杖らしきモノを持っていない。菜箸ぐらいの長さの小さい杖すらも持っているヤツはいなかった。

 俺は鈍器にもなる大きな杖を誇らしげに握っていた。

 誰も魔法使いが杖を持つモノだと思っていないのだ。

 転生者の格の違いを見せつけてしまった。

 

 チラホラと俺のことを見る新1年生達もいる。

 俺のは大きいだろう。しかも硬いんだぜ。タマだってカチカチである。(杖のこと)

 もうすでにカリスマになりつつあることを俺は実感した。


 そんなカリスマの俺を鋭い目で睨む奴がいた。

 俺は敏感肌なので、紫外線とか殺気とかに当てられると肌がビリビリする。

 殺気を感じた方を見ると煉獄の魔女がいた。

 コイツも魔法学校の新入生だったのか。


 顔を覚えられてはいけない、と俺は思って変顔をする。顔のパーツを中心に寄せる。この変顔は昨日も煉獄の魔女に見せたので別の変顔にしなくちゃ。

 顎をしゃくって俺の顔がわからないようにしたところで、男性の魔法使いが礼拝堂の中に入って来た。


 それが校長先生だった。

 50代ぐらいの男性である。

 髪は黒く、目の鋭さが一般人のソレじゃなくて何人も人を殺した経験があるような、怖いとかいう次元のレベルじゃなくて、恐怖を抱くような目をしていた。


「はい、こんにちは」

 と明るい声で、その男は言った。

「私が校長のセントです」


 その明るい声に俺は寒気を感じた。

 俺のことを睨んでいた煉獄の魔女が校長を見た。

 まだチラホラと喋っている学生達がいる。


「はい、お喋りやめましょうね」

 とセント校長が言った。


 それでもお喋りをやめない生徒がいた。


「お喋りやめろって言ってんだろうが、バカヤロウ」

 とセント校長が怒鳴った。


 喋っていた男の子が宙に浮く。

 見えない手で首を絞められているように、首を掻きむしりながら苦しみ始めた。

 セント校長は、誰かの首を絞めているように何もない空間に腕を出していた。

 確実に魔法で生徒の首を絞めてますやん。


 首を絞められていた生徒のローブの内ポケットから学生証が飛び出して、セント校長のところへ飛んで行く。

 セント校長は飛んで来た学生証を受け取り、首締めの魔法を解除した。


「はい、みんな静かにできましたね」

 とセント校長が明るい声で言った。


 もう誰も喋る奴はいなかった。


「新1年生のみなさん、これから楽しい学校生活が始まるでしょう。これから必死に魔法の勉強をして強くて賢い魔法使いになりましょうね」

 とセント校長が笑顔で言った。

 

「勉強が嫌いな子もいるでしょう。魔法が苦手な子もいるでしょう。人を攻撃するのが苦手な子もいるでしょう。でも我が校に入ったからには全ての苦手は克服しましょう」

 とセント校長が言う。


「そういう子のために我が校では魔法使い同士の決闘は大賛成です。本当は殺し合いをさせたいのですけど、親御さんから預かった可愛い生徒達です。そんな事をさせるわけにはいけません。ココ笑いどころですよ。笑ってください。……お前等全然、笑わねぇじゃねぇーか」


 愛想笑いみたいな笑い声が礼拝堂に起きる。


「学生証を奪い合う決闘を学校では推奨しております」

 とセント校長が言った。


「この学生証には秘密があって、では命と同等の価値があります」

 とセント校長が言って、さっき奪った生徒の学生証を掲げた。


に入って来る前に受付で、学生証に自分の血で拇印を押したと思いますが、あれは契約の拇印です」

 とセント校長が言う。


 礼拝堂じゃなくて体育館だったんだ、と俺は思った。

 体育館に天使とか神様の絵を書くなよ。 


「この契約は校内だけのモノです。どういった契約かと言いますと」

 とセント校長は言って、学生証のページを開けた。受付で血の契約をしたページである。

 

「ココにそこのバカから奪った学生証があります。そして血の契約したページを上書きするみたいに、自分の血で拇印を押すと……」

 とセント校長は言って、親指を噛んで血を出した。

 そして自分の血で拇印を押した。


「これで契約が上書きされました。そこのバカは私の許可がない限り、魔力を使うことができなくなりました。私は彼に魔力を使う許可を出す事は無いので、そこのバカは魔法使いとして死にました」


 嘘だ嘘だ嘘だ、とバカと呼ばれた学生が叫んでいる。

 ちょっとお喋りしていただけのバカである。

「うわぁーーー」

 とバカと呼ばれた生徒が、セント校長に手をかざした。


 バカの周りの生徒達が、彼から距離を取った。


「出ない、出ない、出ない、出ない。魔法が使えない。うわぁーーー」

 とバカと呼ばれた生徒が泣き叫んでいる。


「そして自分の学生証を……」とセント校長が言った。

 まるで泣き叫んでいる学生が見えていないみたいに淡々としていた。

「自分の学生証と重ねると」と校長は言って、自分のポケットから学生証を取り出した。

「これは35年前に私がココの生徒だった時の学生証なんですけど……」と彼は言って、学生証と学生証を重ねた。

「奪った学生証と自分の学生証を重ねると統合できます」


 バカと呼ばれた生徒の学生証は、校長の学生証と統合して消えてしまった。


「魔法使いにとって魔力は生命線です。だから、この学生証は学校内ではアナタ達の命と言っても過言ではないのです。学生証を守るために強くなってください。学生証を奪うために強くなってください。あっ、ちなみに、私が学生だった頃の話ですが、私に魔法の使用許可を取るために女の子があんな事やこんな事をしてきたんですよ……笑うところだバカヤロウ」


 愛想笑いが体育館に響いた。

 俺だけが校長の話を聞きながら本心から笑っていた。

 だって俺、魔力無いもん。

 みんな戦々恐々としているが、俺には関係ない。


「統合した私の学生証はページが増えます。そこのバカのページです。そしてバカのページを切り取ると」と校長が言って、ビリビリとページを切り取った。

「分解する事ができます」

 切り取ったページが、元の学生証に戻った。

 その学生証は宙に浮き、泣き叫んでいる学生の元へ戻って行く。


「説明のために使っただけだ。泣いてんじゃねぇーよバカヤロウ」

 と校長先生が言った。


 バカと呼ばれた学生は、目の前にやって来た学生証を抱きしめた。


「血の契約の箇所に、また拇印を押すと自分の物に戻るから押しとけバカヤロウ」と校長先生が言った。


「今回は特別に学生証の説明のために、1人の学生から学生証を奪いましたが、決闘の時は先生を立会人にしてください。生徒同士で勝手に学生証を奪う行為が見つかりましたら、重たい罰が科せられます。決闘は両者の同意のもと、校内で行ってください」

 と校長先生が言った。


 そしてセント校長はポケットから手鏡を取り出した。

 そして自分を見る。

 みんな恐怖で校長の事を黙って見守っていた。

「鏡よ鏡、鏡さん、この世界で1番強い魔法使いはだ〜れ?」

 とセント校長は鏡に向かって尋ねた。


「鏡には私が映っている」と校長は言って笑う。

 その笑い方が狂気に満ちていた。


「……世界1強い魔法使いになって私を倒しに来てください。アナタ達の誰かと戦えることを楽しみに待っております。私を倒すことができたらご褒美もあります。以上」

 校長の挨拶が終わった。

 体育館は静まり返っていた。

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