第11話 ギルドの外観と内観
莉々神家とは年に数回正月などのイベントで会う程度だったが、なぜかいづねぇはふらっと電車に乗ってひとりで紫乃月家に来ることが多々あった。
電車で2時間ほどの距離なので来れない事もないが、ふらっと今日決めて行こうというのには微妙に遠いし時間もかかる。なのにあの人は事前連絡もよこさずに、平日だろうが休日だろうがいきなりやって来る。その度父さんが透哉さんに『今日も伊鶴が来たぞ』と電話をかけていた気がする。
いづねぇが泊まりで来た翌日は必ずといってもいいほど、ひとりで寝ていたはずなのに朝起きると、いづねぇが横で一緒に寝ていた。
そういや、いづねぇとはもう5年ぐらい会っていない気がする。最後に会ったのが確か……大学に通うため、電車に乗るいづねぇを見送った時だった。てっきり帰って来るものだと思ってたが、そのままひとり暮らしを始めたからな……あの人。
懐かしい思い出に浸っていた僕は、修羅刹によって鼓膜が消滅させられたと勘違いしてしまうほどの大音量により、一気にこちらの世界に引き戻された。
「タクト、ねぇタクト!!タ、ク、トってば!!!!」
「なななななんだ!?耳がぁぁぁ!!鼓膜がぁぁぁぁ!!」
僕は右耳を押さえ
僕の反応に驚く修羅刹とそのやり取りを見てケラケラと笑うサン。それを微笑ましく見つめるママという何とも混沌とした状況が生まれていた。
「いきなり耳元でしかも大声でしゃべるなよ……マジで耳が死んだかと思ったぞ。まだちょっとジンジンするし……」
テンションだだ下がりの僕に修羅刹は「ごめんって……でも、何度も無視するタクトも悪いんだからね!」となぜか逆ギレされた。
それを見てさらにツボに入ったのかサンは、カウンターをバンバン叩き笑いこけていた。ただこの後サンはカウンターを激しく叩いた事について、優しく子供にしかりつけるようにママからおしかりを受けるのであった。
実家のような安心感とはこの事を言うのだろうか。ちょっと会話をして終わる予定だったはずが、どっしり腰を据えてママを含めた4人で未だに談笑している。
このままでは酒場でママとおしゃべりしただけで、ダンジョンすら潜らずにログアウトしてしまう。まだギルドがある北東エリアにすら足を運んでいない。
だが、この状況で会話を無理矢理中断してお別れというのも何とも味気ない気がするし、でもこのままでは……。
どうするべきか迷っている
「あのね~、あなたたち知ってる?この街の中心にあるダンジョンって~、100階層まであるんだけど~。その100階層を一番最初に突破した人にはね~。伝説の武器?が神様から貰えるみたいよ~」
「へぇ~、神様から貰える武器か!タクト、修羅刹それ誰が手に入れられるか競争しないか?」
「いいわよ!だけど、それを手に入れるのはこのわたしだけどね!!」
「ソロで100階層……突破かぁ。まぁふたりがやるなら僕もやるよ」
「そうと決まれば、さっさとギルドを作ってダンジョンに潜りに行こうぜ。もうすでにソロダンジョンに潜っているプレイヤーもいるだろうしな」
僕達はママが用意してくれた各ソフトドリンクを一気に喉に流し込み、席を立つと色々親切にしてくれたママに感謝し、
酒場を出て行く僕達の背中を見ながらママは別れの挨拶をしてくれた。
「いってらっしゃ~い。ケガしないようにね~、あなたたちは死んでも蘇るけど、それでも痛いのは変わらないんだからね~」
「「「いってきま~す」」」
そして僕は扉を開け酒場を出ると、真っすぐギルドがある北東エリアを目指し歩みを進めた。
あの話題の切り替え方、あれはきっと僕の心境を察してくれたんだろうな、ありがとうママ。
それにしても気づけば僕もサンも修羅刹もあの人の事を普通に『ママ』って呼んでいる、何の違和感もなく。
一度慣れてしまうと、どんどん感覚が麻痺していくのか、それがさも当たり前のように感じてしまう。それが少しだけ怖いと感じてしまった。
あの包容力にあの観察力、対応力、酒場のママまさにハイスペックNPCだった。サンがNPCについて熱くを語っていたのがいまになってやっと理解できた。
それから南東エリアを抜け、噴水広場を中心に四方の門に通じている大通りも通り過ぎ、やっと北東エリアに足を踏み込んだ。
このエリアは南西エリアや南東エリアのようにワイワイと活気に溢れている感じではなく、どちらかというと多忙でせわしなく働き続け周りを見る余裕もないように感じた。
道行く人たちはビシッとスーツを着ていたり、ギルドに支給されている制服を着ていたりなど、ビジネスマンのようなNPCばかりだった。
僕達はそんなNPCとすれ違いながら目的地のギルドに向かう。
道中、北東エリアにあるレンガ造りの建物を窓からチラッと覗いてみた。建物の中には10名ほどNPCがいたが、そのNPC全員が誰ひとりしゃべる事もなく、黙々と坦々とデスクワークをこなしていた。
そんなNPCが街中のありとあらゆる場所で忙しそうにしているなかで、場の雰囲気に飲まれてしまったのか、要らぬ考えが頭を過った。
それはエインヘリャルとして呼ばれたプレイヤーなのだから、戦闘用の服装で出歩こうが何の問題はないはずなのに、この空間ではそれがマナー違反のように思えた事だ。
どうやらその意味のない考えはふたりにも伝染したようで、サンと修羅刹も自分達の装備をチェックしてはそわそわしていた。
それから暫く歩いていると前方に案内標識があるのが見えた。近づくにつれて少しずつ何が書かれているのか視認する事が出来た。
その案内標識には矢印が前と左右の三方向が描かれていて、その矢印の下にそれぞれ行き先が表示されていた。
このまま真っすぐ行くと目的地のギルドに、この先を左折するとプレイヤーの所持品や所持金を預けられる倉庫が、最後に右折した場合はポーションなどの回復アイテム以外での唯一の回復方法である宿屋に行けるようだ。
僕達はその案内標識を表示されているとおりに真っすぐ進んでいく。3分ほど歩いたところで正面にギルドが見えてきた。
ギルドは木造建築二階建ての古びた役場のようなデザインだった。ここに来るまでの道中にあった建物の方が新しく豪華だったかもしれない。
本当にここでこの建物であっているのかと不安になりながらも修羅刹は、恐る恐るギルドの両扉を押し開ける。しかし、そんな修羅刹の不安はすぐに払拭された。
修羅刹の目に飛び込んできた光景は、あの建物からは想像も出来ないほどにかけ離れたものだった。
床は全面大理石、柱は何百年という巨木が加工されたもの、階段や受付窓口といったものも同じ素材で作製されている。しかもその全てにキズひとつなく、また汚れひとつもない状態。建物内部を照らす明かりは豪華なシャンデリア、その光をまた大理石の床が反射する事によって、満遍なく隅々まで照らしていた。
その光景を修羅刹の後ろから目の当たりにした僕とサンは、口をあんぐりと開き……ただただ
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