第2話 再会

朝起きると俺は拓真の体になっていた。


驚きのあまり頭が暫くフリーズした。


ピンポーン


チャイムが鳴り俺は恐る恐るインターホンを覗く。


「拓真くん居る?あんな事があった後だし、ちゃんと食べれてるか心配で来たよ〜」


画面には雫玖の姿があった。


俺はもう会えないと思っていたからこそ、感極まり直ぐに出たいと思った。


だが、今の状況を雫玖はどう思うだろうか、考えると打ち明けるのが怖くなり咄嗟に頭に浮かんだ事を実行しようと考えた。


"拓真になりきろう"と


「雫玖さんありがとう。入って、玄関空いてるから」


そう言って俺はインターホンの受話器を下ろし、玄関へと迎う。


「拓真くん、不用心だよ?ちゃんと鍵閉めとかないよさと〜」


俺が亡くなり、3年越しに見た雫玖は黒く綺麗な髪を肩までバッサリと切っていた。


「髪、切ったんだな...」


俺は反射的に呟いてしまった。


「拓真くん変なの〜?髪切ったのって2年以上前だよ?それより、朝ごはん食べた?」


雫玖は不思議そうに俺を見るなりキッチンへと向かう。


「いや、食べてないよ。ちょうど今から食べようと思ってたところで...わざわざありがとう。」


雫玖の声や仕草を俺は目で追うようにして後ろ姿に俺の目から涙が伝った。


俺は雫玖の居るキッチンへと向かい、何か手伝えることが無いか問いかける。


「雫玖さん、何か俺に出来ることない?」


俺は触れたかった。雫玖を1人にして勝手に消えた俺を怒っているのではないかと、また強がっているのではないかと。ただ、安心させてあげたいと思った。


「雫玖さん、本当にありがとう。兄さんもきっと喜んでると思います。それに、兄さんの事です...雫玖さんには幸せになって欲しいって、前に進んで欲しいとそう思ってると思いますよ」


雫玖はサンドイッチのレタスをパンに乗せる手を止め、俺の方を振り返る。


「雄一さん?」


俺はドキリとした。


「お兄さんの言いそうな事だけど、私は拓真くんのお兄さんを忘れたいとは思わないし、無理に探したところでお兄さん以外に好きになる人なんていないから。私はお腹の中の子どもも居るし、私は幸せだよ」

俺は雫玖の口から"俺たちの子ども"の存在を明かされ、諦めようと...隠そうとしていた俺の状況を全て雫玖に打ち明ける決意をした。


「雫玖、俺...雫玖に伝えなければならない事があるんだ...」


俺は席に着き、雫玖にも座ってもらうよう促した。


「急にどうしたの拓真くん?それに、拓真くんなんか変じゃない?」


なにやら異変を感じたのか、俺を心配そうに見ながらこちらを見ていた。


「落ち着いて最後まで聞いて欲しい。実は、俺...拓真じゃないんだ...雄一、俺は拓真の体に雄一...俺の人格が入ってるみたいなんだ。」


「自分でも変なことを言っていると思うし、そう簡単に信じて貰えないと思うけど、これは現実であり拓真の人格は恐らく今は眠っているらしい。」


俺は話の一段落が終わり、ふと雫玖の方へ雫玖は口を両手で抑えながら涙を流していた。


「雄一さん、今そこに雄一さんが居るんだね?」

そう言って雫玖は俺の元に駆け寄ってきた。


「黙っててゴメン、雫玖...ただいま」


俺は本来死ぬはずだった人生に神がもう一度雫玖に合わせてくれた事に強く感謝した。


そして、いつまで此処に居られるかも分からない以上、俺は雫玖を抱きしめた。




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