33 嬉しくなって義両親きちゃったよ?
過去のしょうもない失敗をしこたま思い出し、心の中で恥ずかしさに悶絶してのたうち回る。
そんな昨夜のアイリスは、外出の疲れからなのか屋敷に戻ると直ぐに眠りについてしまい。
寝ぼけながらカーテンを開くと。
「うぅっ……眩しっ!」
晴れ渡る青空にカーテンを急いで閉めた。
アイリスは間違って朝にすっきりと目覚める、という引きこもりらしからぬとても健康的な目覚めをしてしまい焦る。
下手に日中起きて活動していると、執事のリカルドがなんだかんだ言って構ってきて面倒だし良い事が起きた試しがない。
と、うんざりしたようにアイリスは布団を頭から被り二度寝しようと頑張るが、驚くほどすっきりとしていて眠れやない。
そしてアイリスの起床に気付いた専属メイドジェシカがやってきて朝の洗顔だけをして再びゴロゴロしていると。
アイリスの監視でもしていたのかと、思うほどにタイミングよく部屋の扉が叩かれた。
そして呼び掛ける声は執事リカルドのもので。
アイリスはその声を聞いただけで、すっきりとした朝の爽やかな目覚めをしたばかりだというのに一気にどっと疲れたような気持ちになった。
正直、寝たふりでもしてやり過ごしたい気持ちだが、そういうわけにもいかず渋々と返事をする。
「……はい、どうぞ」
だが朝っぱらから何の用だと、ジェシカが執事リカルドに応対すれば、前フォンテーヌ公爵夫妻が突然公爵邸へ来訪したとの嬉しくない知らせで。
……やっぱり日中に起きると録な事がない。
その知らせによって専属メイドジェシカがそれはもう大慌てで、アイリスの身支度を美しく整える。
アイリスにとっては朝という認識でも実際はもうお昼前で、公爵夫人が夜着でゴロゴロしてのんびりしている時間じゃないからだ。
本日のアイリスはお気に入りのダスティブルーの清楚なワンピースに、髪は可愛らしく編み込まれレースのリボンで飾られた。
「アイリス様……その、大丈夫ですか……?」
心配そうに専属メイドのジェシカがアイリスに声をかけて、その顔色を覗き込むように確認する。
「全然大丈夫じゃないけど……行きたくないけど、行かなきゃ行かないで後々余計に面倒そうだから……それに、公爵様とお約束しちゃったから」
「お約束ですか?」
「……うん、お約束。だから頑張るよ……本当は頑張りたくないけど! ああっ部屋から出たくない!」
出たくないと言いつつも、アイリスは意を決して部屋から出て、前フォンテーヌ公爵夫妻のいる応接間に向かう。
そんなアイリスの弱々しく儚げな後ろ姿を、気遣わしそうに見つめてジェシカは静かに付き従う。
前フォンテーヌ公爵夫妻が待つ応接室に、清楚で可憐な可愛らしい笑顔を張り付けて。
アイリスは入室するなり。
「お義父様、お義母様大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません、身支度に手間取ってしまって」
身支度で遅くなった事をまず謝る。
「あら、そんな事気にしなくていいのよ? 突然来てしまった私達が悪いんですもの、それにしてもアイリスちゃんお久し振りね! それに今日もとっても可愛らしいわ、ラファエルにはこんな可愛らしい子もったいないわね! 会うのは結婚式以来かしら?!」
「そうそう、何の連絡もなしに来てしまった私達が謝らなくては! すまないなアイリスさん? 貴女が此方で暮らしだしたとリカルドに聞いてね? 嬉しくて会いに来たんだ!」
……執事リカルドお前のせいか!
またお前……余計な事をっ!
義両親が嬉しくて会いにきちゃったじゃん!
「……過分なお気遣いありがとうございます、お義父様、お義母様、本日はようこそおいでくださいました、歓迎致します」
「あら、そんな畏まらなくていいのよ? それにしてもまた可愛らしくなって……! ラファエルもきっとアイリスちゃんの愛らしさ気付いて、此方に呼び寄せちゃったのかしら! ふふふ! 嬉しいわ! 孫も近いうちに抱っこ出来るかしら……!」
め……メロメロ……?
恋とかなんとかは宣ってたけど。
そして孫……かあ。
「そうだよアイリスさん、本当の親だと思ってくれて私達は全然かまわない……というか、その、なんだ……なんなら……パパって呼んでもくれても……! あと、ファエルのやつが貴女に……迷惑をかけていないか? 何か言いたいことがあるなら私がラファエルに言ってやるからな! まかせなさい!」
「え゛……」
ぱっ……パパ?!
「あら、貴方だけ抜け駆けはズルいわ! 私だってね、ずっと娘が欲しかったんだから……! 私の事はママって……呼んでいいのよ?」
まっ……ママ?!
誰か助けて、なんかこの人達キャラが濃いよ?!
結婚式で会った時はこんなんじゃ……?
……いや、そういえばこんなんだった。
何か急いでいるラファエル公爵に私は、結婚式が終わるなりとっとと馬車に乗せられて公爵家に連れて来られたからあまり話せなかったけど。
最初からとても親しげに、なんかぐいぐい積極的に来る高位貴族とは思えない変わった人達だった。
「……お気遣いありがとうございます。お義父様、そしてお義母様、公爵様にはいつもお世話になっております、迷惑だなんてそんな……ふふ」
「あら……アイリスちゃんラファエルの事、公爵様なんて他人行儀に呼んでるの? 呼び捨てでいいのよ?」
「え? そんな、私なんかが……公爵様を呼び捨てだなんて、とても畏れ多い事です……」
契約結婚したとはいえ私は元男爵令嬢。
公爵の名を呼び捨てなんて出来るわけがない。
「え? 畏れ多いってアイリスちゃん貴女……」
――バンッ!
そんな大きな音を立てて扉が開く。
大きな音を立てて開いた扉から、ラファエル公爵が息を切らし血相を変えて。
「また、突然やってくるなんて……貴方達は本当に一体何を考えているんですか?! 相手の迷惑も少しは考えて行動して下さい! アイリス大丈夫か?!」
開口一番、実の両親に文句を言いじっとりと嫌そうに睨み付けながら。
アイリスを心配しつつ、ラファエル公爵は駆け込むように応接室にやってきた。
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