27 宿敵
「ふぎっ……い……あれ?」
2日連続でお散歩したせいで、アイリスのひょろっとした引きこもりの軟弱で筋肉の無い身体はビキビキとした筋肉痛に襲われた。
その全身に駆け巡る筋肉痛という名の激痛で、アイリスは翌日から立ち上がることが出来なくなって。
痛みにもストレスにも人一倍弱いアイリスはたかが筋肉痛、されど筋肉痛で数日寝込む事になった。
そんな引きこもりの様子にラファエル公爵が大変驚いて医者を呼んだり、屋敷中が騒ぎになって。
筋肉痛で寝込み医者まで呼ばれるという恥ずかしさで泡を吹く事になったアイリスは、もう調子に乗って運動しないと間違った方向に固く誓う。
そして数日寝たきりだったからか夜も健やかに眠ってしまい、アイリスは久しぶりに朝から元気よく起きて活動していた。
筋肉痛が無いなんてなんとも清々しい朝である。
屋敷にはラファエル公爵も仕事でいないし、たまには日向ぼっこでもして光合成でもするかとアイリスが珍しく部屋からこそっと出ると。
アイリスの苦手な人ランキングの上位に入る執事リカルドと、不運にもばったりと遭遇してしまう。
公爵領に居るときはそこまで上位ではなかったが、王都にきてからはぐいぐいとランキング上位にめりこんできた実力者で。
「奥様、おはようございます! ……もしや、何処かにおでかけですか?」
「え……あっ……はい」
いや別におでかけ予定ではなかったんだ、日向ぼっこにいい場所を探しにお部屋を出ただけで。
だが流石はコミュ障で陰キャのひきこもり。
つい、しどろもどろに『はい』なんて言ってしまうのは、ご愛嬌で致し方が無い。
「ああ、でしたら……! 少々……奥様に、お願いしてもよろしいでしょうか!?」
「……へ?」
そしてアイリスはギシギシと軋む馬車に乗る。
面と向かって人にお願いされたら断れない。
つい執事リカルドに『はい』とお返事してしまいアイリスは、お届け物に王城に向かう。
せっかくラファエル公爵に引きこもり許可を貰っても、やはり執事リカルドが手強いのだ。
『社交活動じゃないからいいよね?』
と、その顔にありありと書いてあったよあの古だぬきの執事めと、アイリスは馬車に揺られながら恨み辛みを募らせた。
怨嗟を吐きつつやって来ました王城は、アイリスが来たくない場所ランキングの上位で緊張を強いられる場所だ。
その場所でやっぱり馬車は尻が痛くなるなと、こそっと隠れて尻を擦るアイリスは結構胆がすわってるのかも知れない。
王城での今回執事に頼まれた任務は、ラファエル公爵に忘れて行った書類を届ける事で、普通の貴族なら簡単なお仕事なのだが。
王城にアイリスはあまり来た事がなく、一度行った近衛隊長室までの道順がうろ覚えで。
キョロキョロと周囲を確認し思い出しながらながら、とてとてと歩いていく。
ふわりと揺れるパステルピンクのドレスは、普段着用しているワンピースに近くそれなりに歩きやすいが、やはり裾が長く歩きづらい。
#病み上がり__筋肉痛明け__#のアイリスの身体には王城を歩くことさえも疲れるらしく、少しふらついていたら。
「君……大丈夫……?」
余程アイリスが弱って見えたのだろう、後ろから来た大柄な男性に心配そうに声をかけられた。
「え? はい、大丈夫です」
瞬時にアイリスはにっこりと可愛らしい笑顔で、声をかけてきた男性に答える。
「そうには見えないけど……それに、君は迷子? さっきからキョロキョロしてたけど、行きたい場所わかんないの? 教えてあげようか?」
アイリスの顔を覗き込んでその男性は優しげに声をかけてくるが、声をかけられた本人は。
……え? なにコイツ、突然見知らぬ相手に声をかけて親切にするとか、なにそれ、コワッ!
というかこれ、ナンパ?!
ムリムリムリムリ!
こういう陽キャって死ぬほど嫌い、しかもイケメンとかもう関わりあいたくないです。
……ラファエル公爵には劣るがこの人もモテそう。
と、可愛らしい愛想笑いの下でアイリスは完全拒否し初対面の名も知らぬ相手を威嚇している。
「いえいえ……わかります、大丈夫です! ちょっとうろ覚えなだけで、一度来た事がありますので、ご親切にありがとうございます、その……えーっと」
迷子だけど道わかんないけど陽キャに教えてもらうなんて、陰キャの沽券に関わるから絶対に嫌だとアイリスは完全拒否の姿勢を継続する。
陽キャ男性はアイリスにとっては宿敵である。
これなら『お飾りの妻に』とか宣った昔のラファエル公爵の屑さの方がまだマシだとアイリスは思う。
「……でも、迷子だよね? 一緒に行くのが駄目なら方向だけでも教えてあげるから、で、どこいくの?」
「う、……近衛隊……の所に」
「近衛隊……? え、俺、近衛だよ! じゃあ一緒に行こう、今から俺も出勤だし!」
「ええっ……近衛隊の方でしたか……」
「ほら、行くよ! それで君どこの家のご令嬢なの? 夜会で見たことないけど……?」
「……夜会には出たことがございませんので」
「へえ……そうなんだ? じゃあ今日は俺ツイてるかも、君すごく可愛いから、ねえ婚約者いる? いないなら俺とかどう?」
「え゛……」
うわ、やっぱりナンパだったー!
と、アイリスは心の中で尻尾を逆立てて、シャーシャーと威嚇し唸りをあげていた。
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