体育測定
雲一つない快晴!綺麗に生え揃った若草色の芝生!そして、辺りを覆う深い緑の樹木!
これだけ聞けば素晴らしくのどかな田舎でも想像するかも知れないが……
ギャアギャア グルルルル キャッキョーーン
「いや、無理だろコレ」
表情という物が有ったのなら真顔になって居たであろうトーンで、僕はそう呟いた。
取り敢えず外でも見てみようかと玄関の扉を開けた瞬間これだ。まるでヤクザが啖呵を切り合う様な唸り声の応酬。目の前の森ではこんな小競り合いなぞ当然の様な世界なのだろう。
そう理解はしたが……どうしたもんか。
自分の置かれた新たな現状に僕は頭を抱えた。
……ここに入っていくのか?確かに食われる様な部分は少なくはなったが、あくまで僕は生きていて、尚且つ動くのだ。肉食の虫なら動いているだけで襲ってくるのは有名な話だが……動物は違うと考えるのは甘すぎるか。
……仮に襲ってくると考えた場合の話だが、今の僕は御覧の通りのスケルトンだ。
肉を纏っていない分、脆く、弱い。その分、稼働に必要な酸素も血液も必要としないのかも知れないが……まぁ、足が砕かれただけでゲームオーバーなこの体だ。大したメリットにはならないだろう。せめて筋肉さえあれば……と思わなくも無かったが、有ったところでアレだな。
すっかり人間に飼いならされた猫でさえ時速50キロで走るらしいし、多少の筋肉が有ったところで……
とても逃げ切れないだろう。
そう続けようとした声を飲み込み、僕は足元に目を遣った。
そうだ。もの凄い今更な話だが、確かに今の僕には筋肉が無い。だが僕は今、現に動けている。仮に先ほどの予想通り、僕の体が例の不老魔術によるものだと考えたとき、その出力の大きさ……いわば、筋肉量に当たるものは何になるんだろうか。……いや、わかりにくいな。詰まるところが、
今の僕には何が出来て何ができないのだろう。
そう疑問に思うとともに、それは知っておかねばならないと考えた僕は、とりあえず辺りを走ってみることにした。
「よーい、ドン」
自分で掛けたそんな掛け声と同時に走り始める。
最初はジョギング程度の速度で。
不安に思っていた骨の強度だが、流石に走るだけで折れるということは無いようだ。
幸い、なぜか痛覚や触覚などは備わっているらしく、これなら耐久の限界に気づかずいきなり折れるなんてことは無いだろう。……いや、折れたら多分そこが僕の人生の終わりなんだが。
仮に折れたら治ることなど有るのだろうか。
ふと浮かんだそんな考えに冷や汗を感じながらも速度を上げる。
「おぉ……」
その結果に思わず声を上げた。
先程まではもしかしたらの話だったのだが、実際にやってみた今。やはりどんなに速度を上げてもなんら疲れることすら無かったのだ。全速を出しながら鼻歌は勿論、大口を開けて歌を歌うことすら出来た。
速度が前より早いってことは無いのだが(……多分?感覚的には同じ気がする)、骨になるのも意外に悪いことばかりでもないのかもしれない。
そんなことを考えながら、今度は跳んでみる。
ピョン ピョン
その結果は……まぁ、普通だ。
やはり疲れる様なことこそ無かったものの、跳べる距離は生前(?)と同じくらい。
先程の走る速さといい、某海賊王の音楽家と同じようにはいかないらしい。
そも、あっちもあっちで体のつくりすらよくわかってないからなぁ。
その一方で、僕のは……まぁ、弱体化だろう。なんせ骨の重さは体重の十分の一という話だ。前は70有ったから、ゼロを消して7。
そこまで変わったというのに大した変化も感じられないというのはおかしな話だ。せめて同程度なら話も変わって来るというのに……はぁ。
まぁ、良いや。んで、ぱっと思いつくのだと残りはこれだが……
そう切り替えつつ、僕は手を開け閉めする。
最後はこの体の攻撃力である。
いや、これまでの流れを見る限り力が強くなっているということに期待はしてないものの、今のこの体はいわば抜き身の刀だ。それも刀身が薄すぎて雑に扱ったらすぐに折れるタイプの。
いつも体にまとっていた肉というグローブを脱ぎ捨て、より直接的に反作用を受ける分、この鋭く尖った骨が相手に与えるダメージも上がる。
その威力もできるなら見ておきたいが……
「……うん、無理だな」
やはり木々しかない辺りの景色を見てそう判断した。
相手が肉ならまだしも、木や、無機物なんかじゃ一発でこっちの骨が折れてしまう。
まぁ、それにしたって……思い出すなぁ。いつか見た漫画の修行シーンで大木を素手で殴り倒す奴。
小さな頃にあこがれて真似したんだっけ。
まぁ、その際に変な殴り方をして小指の骨を折ったってのがこの話のオチなのだが。
今でこそ笑い話だが、当時は散々だった。当然手が痛いわ、親にも医者にも怒られるわ。果てには日々の生活ですら一筋縄ではいかなくなった。
ましてや、今のこの現状だ。
今同じことをすれば、怒られるどころか、なんやかんやあって命すら落とすかも知れない。
以前の様な軽挙妄動は控えるべきだ。
まぁ、そんな訳なのでしばらくはアレだな。
この森を抜ける手段を探そう。
いくらこの家の主が魔術師だったとしても、食料の調達だったりで街に行くようなことも有ったはずだ。
そう判断し、僕は再び小屋に足を向けた。
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