第33話 救国の女神は友情を取り戻す。

人というのはどこまで残酷になれて、どこまで他者を痛めつけられるのだろう?


バナンカデスは食うに困り、街に行き、炊き出しと風呂を貰う。

リビイキース達から話が回ってきていた街女達は、これでもかとバナンカデスを嘲笑し、いつも「なんできた?家にないのか?」と聞き、バナンカデスが涙ながらに「家には誰もいない」、「自分では何もできない」、「どうか食事をください」、「お風呂に入らせてください」と言わせていた。


時折、メーライトの使徒達が睨みを利かせて、バナンカデスを手厚くもてなしたが、逆にそれすら反感を買い、遠回しに話が回ってきていたアーセワが、クサンゴーダになんとかしろと言いに行き、今メーライトが感情を乱すと復興どころではなくなると釘を刺した。


そのメーライトは図書館に篭りきり、本を読み漁るが、めぼしい本はなく、使徒も喚べずじまいだったりする。


それでもシムホノンの意志を台無しにしないためにも、図書館のすべての本を読み、可能な限りの使徒を喚ぶとして、住むところも決まらないまま、城から出ないでいた。


復興の目処が立ち、アルデバイト城に戻りたい者達も戻ってきた記念として、クサンゴーダは平民達には街で豪華な炊き出しを行い、城では貴族達とメーライトでパーティを行いたいと言い出した。


それこそ、クサンゴーダが本気を出して反発する者たちを封殺してしまう目的があったので、アーセワ達は「パーティの場で、神様を妻に迎えたい等と、終戦前に神様の心を乱す事を言わないでください」と条件を出すことでパーティを認めた。


出欠自由にもしたのに、意地悪い連中はバナンカデスを参加させると言う。

ドレスは手入れ一つされずに埃まみれ、本人のケアも何もない。

それなのにバナンカデスは断る事も許されずに、無理矢理乱れた着衣で城に招かれる。


周りの嘲笑に身体を震わせて、真っ赤になりながら城に入るバナンカデス。


遠目にそれを見たクサンゴーダは「ワルコレステの娘か?それともヤタクタズの娘か?なんであれ、メーライト嬢の心を乱すとは愚かだ」と苛立ちを見せて、ゲアブアラにアイコンタクトを送るとゲアブアラも深く頷く。


頭を抱えるのはアーセワとアノーレも同じで、そもそもこの会に出るのが、メーライトとアーセワとアノーレだけにしたかったのに、クサンゴーダがメーライトが受勲される場に使徒達が揃わないのは良くないと言う事で、警備すら許さずにパーティへの出席を求めていた。


当然、久しぶりのバナンカデスに気付いたメーライトは、世間知らず全開でクサンゴーダに、「王子殿下!お時間をください!」と声を荒げると、アーセワ達を連れてバナンカデスの前に駆けて行き、「バナンカデスさん!」と声をかけて、「お化粧とか着替えとか、アーセワさん達がやってくれるから!」と言って有無を言わさずに、カイエンやタイダー、リビイキースを無視して、バナンカデスを別室に連れていく。


思い通りにならずに舌打ちするリビイキースを、アルティが睨みつけながら「お前、顔覚えたから。アルはメーライトに止められても、メーライトの心を乱す奴を許さないよ」と言ってから、タイダーとカイエンに「とりあえず応援はしてやるよ。アル達はメーライトと王子の仲は賛成してないんだよね〜」と言うと、「メーライトぉ〜!アルも手伝う〜」と言って走って行く。


本来ならパーティは始まる時間でも、クサンゴーダが「救国の女神、主役不在では始まらないので待ちましょう」と言って、メーライト達を待つ。


リビイキース達の機嫌を取りなす為に、不満を口にする貴族達を封殺するように、メーライトの窓口として近衛兵に引き立てられたハサンドムが老騎士達と2人で、「救国の女神様は困った人が見逃せないんですね」、「本当だな。あの場で立ち上がらねば女神様ではない」と話をして、周りが同調すると、逆にバナンカデスの使用人達を引き抜いて、恥をかかせていたリビイキース達が嘲笑を浴びる。



別室に連れて行かれたバナンカデスは、一番に「ワタクシに憐れみなんて!」と声を荒げたが、メーライトが「違うよバナンカデスさん!私達友達だもん!バナンカデスさんが早く帰りたいって、言ってくれたから頑張ったんだよ!このパーティで褒められるのは、私にやる気をくれたバナンカデスさんだよ!」と言って黙らせると、アジマーが「神様に感謝しなさいよ?大魔法使いにお湯をつくらせてるんだからね?」と言って魔法の力でお湯を作ると、バナンカデスの髪を洗い、身体も洗ってしまうとアノーレが「本当に大事に育てられたお嬢様だね。肌なんて少し洗ったらすぐにツヤツヤだよ」と言う。


ドレスに至っては埃まみれだったので、アルティがクサンゴーダに別で持って来させるし、詐欺師の本懐で「メーライトを喜ばせたいんだよね?メーライトが薄紫のドレスなら、同じデザインで真っ赤な薔薇色のドレスとかあるよね?2人でお揃いにしてあげたらメーライトも喜ぶし、入場の時に偉そうに立ってないでメーライトとあのお嬢様と3人で歩いたらメーライトも喜ぶよ」と吹き込んだ事で、ドレスを見たメーライトが「わぁ!私のとお揃いです!王子殿下!ありがとうございます!」と本気で喜ぶ。


このドレスの意味がわからないアーシルが、「なんかお嬢様のが目立ってない?」と口にすると、アルティがアーシルの首に腕を回して、「だからいいんだって。あの王子にお嬢様を渡して、アル達で好みの男の子を見つけるんだよ」と言った。


「綺麗!やっぱりバナンカデスさんは凄い綺麗!」とメーライトが喜ぶと、バナンカデスはせっかくアーシルが化粧をしたのに、ワンワンと泣いてしまいこれまでの事とかを口にして謝る。


「謝らないで?これからは皆で暮らすと楽しいから、ね?お家が大きいなら私達も住んでいい?」

「す…住んでくださるのですか?」


「うん!もうすぐ図書館の本を読み終わるから、住むところも探さなきゃいけなかったし、王子殿下が相応しいところを探すって言ってくれてたから、バナンカデスさんのお屋敷ならバッチリだもん!」

「ぜ…是非いらしてください」


アーセワ達はこの結果には多少の不安と不満があったが、メーライトの感情が自分たちの力に直結する訳で、今も注がれる力に悪い気はしていなかった。


パーティの入場、順番はクサンゴーダの一存で、メーライトとバナンカデスとクサンゴーダが3人で入場する。


クサンゴーダを真ん中にする案もあったのだが、メーライトが「バナンカデスさんが真ん中がいいです!」と言い、メーライトの本気の笑顔が見られたクサンゴーダは、将を射んと欲すれば先ず馬を射よと思い、「そうですね」と言い、バナンカデスを真ん中にして3人で歩く。


ゲアブアラは驚いた目でクサンゴーダを見たが、クサンゴーダは清々しい顔で首を振る。


「珍しい組み合わせだ」と言ったゲアブアラに、メーライトが「今日、ここにいられたのは、バナンカデスさんがいてくれたからです」と言う。


周りがどよめき、「え!?メーライトさん!?」とバナンカデスが慌てても、「力を求めるように言ってくれたのもバナンカデスさんです。早くアルデバイトに帰れたのは、バナンカデスさんが私の友達だからだと思っています。こんな私の友達で、そして私を助けてくれる家族の皆、そして王子殿下のご協力あっての事なので、この3人がいいです」と言ってしまい「ね?バナンカデスさん!」と微笑みかけてくる。


ゲアブアラはこそっとため息をつくと、「カオデロスの事はあるが、救国の女神との仲は本当のようだ。女神の為にも仕事を覚え、国の為に邁進してくれ」とバナンカデスに言葉を送った。


バナンカデスは「はい!誠心誠意、粉骨砕身、尽くさせていただきます」と挨拶をした。


バナンカデスとメーライトだけで離れていき、ゲアブアラの横にクサンゴーダが残る。

順番に挨拶に来る家臣やその令息令嬢に言葉を送る中、クサンゴーダから明らかに順番を後に回された、ヤタクタズとその娘のリビイキースが現れた時、明らかに冷たい眼差しで「くだらない真似をするな」と小さく呟くクサンゴーダの声を、あえて隠すようにゲアブアラが「立場をわきまえ、これからも国の為に尽くしてくれ」と言った。


その後のワルコレステの娘達、タイダーとカイエンの番には「君たちもアレに参加をしたのかい?」と小さく聞く。身体を震わせて誤魔化そうとする2人の代わりに、取り繕うとするワルコレステの妻に、ゲアブアラがこの先の事を考えるのはいいが、国の為に考えられるものこそが貴族、貴いものだと思わないか?立場に応じた働き…否、働きに応じた立場である事を期待している」と言った。


メーライトの機嫌をとる事、取り入る事にクサンゴーダは余念がない。


開宴の挨拶の時に、「先ほど、救国の女神メーライトが言っていたが、彼女は国を共に想い、良くしようとしている友。故カオデロスの娘、バナンカデス嬢がいるからこそ奮起できたと言っていた。聞けば、バナンカデス嬢は両親の不幸により、今は使用人もなく、邸宅に1人でいると聞いた。王城から僅かだが人手を送ろう。メーライト嬢も共に住むと聞いた。君達が十分な暮らしを送れるようにするよ」と敢えて言う。


メーライトが「ありがとうございます王子殿下!良かったねバナンカデスさん!」と言葉を送ると、それだけでバナンカデスは泣いてしまい、アノーレとアーセワが化粧道具を手に持って「やれやれ」と言っていた。


もうバナンカデスはクサンゴーダがメーライトと結婚をしたいと言い出したら止める事はない。逆にメーライトの説得を始めかねない。


クサンゴーダのやり口がわかったアルティは、「面倒だなぁ…。メーライトに相応しいのはアンタじゃないんだってば」と言って呆れていた。

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