第34話 救国の女神はザイコンと対峙する。
受勲式を最後にして、先に宴会を催す。
ダンスパートナーに関しては、メーライトは事前にアーセワ達が止めていたので問題ないが、貴族の令息達は使徒達とダンスがしたいと言い出した。
だが、きちんとした経験があるのは戦闘職の中ではアーセスとアルティだけで、2人は心底嫌そうな顔をしたが、「父に頼んでバナンカデス嬢の所にコックを手配しましょう」、「私は食材を」、「庭師も」、と言われてしまえば断れない。
「アーセワ、首輪減らしてよね」とアルティが言うと、アーセワはため息混じりに、メーライトとバナンカデスを見ていた。
「バナンカデスさんはダンスもできるの?見てみたいです!」とメーライトに頼まれると、流石にクサンゴーダはダメだったが、他の令息は快くダンスを踊る。
メーライトは気付かないが、既にバナンカデスを窓口にした、メーライト派は作られようとしていて、メーライトはクサンゴーダのものだとして、ならば心の友であるバナンカデスを手にして、メーライト派の良い位置に入ろうとしていた。
バナンカデスもただのお嬢様ではなく、キチンとダンスを習っていたので絵になる。
赤いドレスが薔薇のようでメーライトが見惚れていて、戻ってきたバナンカデスが「ふふ。ウチに住んだら練習をしましょう。パートナーは使徒様の誰にします?」とメーライトに聞くと、アーセワ達は目の色を変えて、「覚えます。神様、是非私と」、「私だよな!」、「私だよね!?」と殺到してしまい、メーライトは目を白黒させながらも喜びに笑顔になる。
そしてクサンゴーダ達とアーセワ、アーシルが協力したので、ギリギリの中でもアルデバイト城のパーティのご馳走はとても美味しいもので、花より団子のメーライトは、バナンカデスとご馳走を食べて、「美味しい」「楽しい」「皆といられて幸せ」と笑顔になる。
これにはリビイキース達もメーライトの認識を変えて、搦手でなんとかしていこうと思っていた時、突然「もう勝ったつもりか?」と声がした。
アーセワは油断していた。
メーライトとバナンカデスが絡んだ後は、大概ロクデモナイ事が起きる。
その事を失念したわけでは無いが油断していた。
突然聞こえた声の方を見ると、そこにいたのはあのザイコンだった。
「ザイコン!?」
「まったく、警戒しながら来てみれば、使徒達は呑気にパーティか?」
アーセワはこの状況を忌々しく思った。
せめてアナーシャ達を配置できていれば、ここで戦闘になると被害が計り知れず、余波でメーライトも無事では済まない事、そこら辺からにじり寄る事しか出来ずにいると「正しい判断だ。俺とお前達が戦えば、余波でここの人間は全て死ぬ」とザイコンが言い、どよめきが起きる。
「人々が逃げたら戦闘、使徒達が私を外に出して戦闘?させるわけがないな、逃げる人間から殺す。私を外に出そうとしたら、その戦闘の余波で人は死ぬし、私は被害を無視して暴れるから今度こそ城ごと街は壊滅する」
「く…、それで」と漏らすアーセワに、「ああ、戻ってくる場所、壊したくない場所があればお前達は戻ってくる。だから街も城も最低限しか壊さないようにしたんだ」とザイコンが答えた。
アーセワが一歩前に出ると「本日の目的は?」と聞く。
「動くな。他の使徒達もだ。女神と呼ばれた少女は、そちらの薄紫のドレス姿の少女だな?守ろうとするな」
ザイコンはアーセワがブラインドになる形で、アノーレ達がメーライトを確保しようとした事を見抜いて注意をする。
「用件は少しある。まずはカオカ達、半魔半人達を埋葬してくれた事への礼だ。キチンと墓石に花まであった。感謝する」
「それはアタシ達の神様に言ってくれ。神様がキチンと埋葬しようって言ってくれたんだ」
「そうか。救国の女神、感謝する。もし良ければ奴らの最後を知りたい。帰って家族に話してやりたい」
ザイコンの言葉に、アーセワが「手の内をさらす真似など」と言ったが、アルーナが「前とほぼ一緒だ。お前の攻撃をアタシ達が防いだ時とほぼ一緒。空から飛んで落ちてくる奴を3人同時にやってきたが、アタシ達が真っ向勝負で撃ち返した」と言うと、ザイコンは「人として死ねたのか?感謝する」と言う。
メーライトは不思議な空気感に、「あの」と声をかけて、「人として?ですか?」と聞くと、ザイコンは「ああ、この身体はナイヤルトコが人と魔物の一体化を目指して改造したものだ。初めは人だが、傷を負えば治る度に身も心も魔物になって行く。使徒達との戦いなら人でいられないと思ったが、アイツらは人として逝けたのだな」と説明をした。
「これで帰ってもらえますか?」
メーライトの問いにザイコンは首を横に振り、「いや、救国の女神。今度は我らナイヤルトコを助けてもらいたくて来た。ナイヤルトコに来てもらいたい」と答える。
起こるどよめきと、使徒達の殺気の中、クサンゴーダは「その理由を言うんだ。そして認めるとでも?」と言いながら前に出る。
「理由は言えない。だが、こう考えてはもらえないかな?女神にナイヤルトコを救って貰いたいのは本当だ。だから殺す道理はない。使徒ならば女神が呼べばそこに現れる。なら、女神がナイヤルトコを救う価値なしと思えば、その場で使徒を喚び、ナイヤルトコを滅ぼせばいい」
ザイコンの言葉に、貴族達からは「それはいい」と聞こえて来て、アーセワは小さく舌打ちをする。
だが、ここで戦闘になれば誰も助からない。
ならばメーライトを送り出して、ナイヤルトコで使徒達に国を滅ぼして来てもらえれば万々歳だと皆が思い始めていた所で、バナンカデスが「メーライトさんは私の友達!危険な場所に行かせるわけがないわ!」と言いながら、手に持っていたフォークでザイコンに立ち向かってしまった。
ザイコンは「やめておけ」と言ったが、バナンカデスは歯が立たなくてもフォークで立ち向かい、「帰りなさい!」、「メーライトさんを連れて行かせない」と言う。
いい加減、温情を向ける必要の無いザイコンが、バナンカデスを手で軽く叩くとバナンカデスはパーティ会場をコレでもかと転げ回り、血まみれで痙攣していた。
「ふむ。私が女神と共に行けば、この者達は動けるからあの女を救える。どうする女神?」
メーライトは少し悩み、「アノーレさん、そのまま繋がれるギリギリまでバナンカデスさんを治療して。アーセワさん、皆、後で呼ぶね。アルティは…消さないから皆の事を守って」と言うと、ゲアブアラとクサンゴーダを見て「国王陛下、王子殿下、私は必ず戻り、アルデバイトを家族と共に救います」と言うと、「こんな格好ですが、連れて行ってください」とザイコンに言った。
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