第22話 救国の女神は春の為に思案する。

謁見はアルデバイトのこの先についての話し合いも含まれていた。

ヤヅマーミ砦の窓から見えた使徒達の戦いに、国王達は魔物達の侵攻にはなんとかなると思えたことに感謝をしたが、長期的な面で見ると、追いやられた土地から現れる魔物の対処と、このヤヅマーミ砦の周りで復興させるアルデバイトの事、その両方を同時に攻略する必要があると言われる。


アーセワが「街づくりなんかは、神様が喚んだ生産職の仲間達がいるから、キチンと日々の予定を消化できれば冬までに誤差は出てもなんとかなります」と口を挟む。


周りから聞こえる安堵の声に、アノーレが「でもまあ、神様の御心しだいさ。あのお嬢様みたいに、神様の心を乱す輩がいると…ね?」と言い、アルーナが「作っていた家の壁、穴が空いちまったんだろ?あれは、アタシ達でも神様でもない。神様の心を乱したのが原因だからな?」と続ける。


例えメーライトに問題があっても、誰が罪に問えよう?

今この国を支えているのは1人の少女に他ならなかった。


遠くからは「カオデロスの娘め」と憎々しく聞こえてくるが、メーライトの事を思い、アーセワが「おやめください。神様のお友達でございます。今はご家族の突然の不幸に取り乱しているだけです」と言って諌める。


この先の話し合いで、家臣達は頭を抱えることになる。


「女神様の御力でどうにかなるものでは?」

「なんとかならないのですか?」


そんな声が聞こえてくる。


それは広大な追いやられた土地に点在する魔物の巣。ヤヅマーミ砦に近い場所にあるオークの巣。そこから7日離れた箇所に点在するゴブリンの巣。

そしてその先の人喰い鬼の巣。

最難関なのは追いやられた土地の最奥にあるアンデッドの巣。


これらを討伐するには使徒の力は必須だが、使徒が向かうにはメーライトの帯同が必須で、メーライトが砦を離れれば生産職の使徒達は砦に居ることが叶わずに消えてしまうこと。


「魔物の討伐と街づくりの両立が不可能…」


唸るワルコレステにアーセワが頷く。

方法が完全にないわけではないが、メーライトの負担が大きく、アノーレ達は決して口にしない。


ワルコレステ達はメーライトの力を知らないので、できないと言われればそれまでだった。


だが、メーライトはそれ以上の事を口にしてしまう。


「冬までは、砦からアジマーさんの魔法とアナーシャさんの弓で向かってくる魔物を迎撃したり、オークの巣穴に向かって攻撃ができないかな?その間にアーセスさん達で街づくりをするの。それで冬になったら私達が魔物の巣を潰しに行けばどうかな?」


「バカ!冬だぞ!?神様はガリガリだから耐えらんないって!」


アルーナが必死に止めるが、カオデロス達は「方法が無ければそれを頼みたい」という顔をしている。

アーセワ達は内心しくじったと思っている。


今のメーライトなら、砦から3日の位置までは使徒達と繋がれる。将来的には7日から10日くらいなら何とかなる。3日の位置に簡易施設を作り、そこにメーライトを配置して、さらに3日の範囲にアルーナたちを向かわせて討伐するのなら不可能ではない。

だがそれはメーライトを安全な砦ではなく、危険で劣悪な土地に置き去りにする事になるから口にしなかったが、その事すら知らないメーライトは冬の行軍を選択してしまう。


拒絶の言葉を出させないためにも、ワルコレステは「春には食料を求めて魔物の群れが大挙してまいります。それまでに何とかお願いします」とメーライトに釘を刺す。


「なあ、今までってなんでうまく行ってたんだ?こっちに溢れてこなかったんだろ?」


アルーナが時間稼ぎの為に口を挟むと、ワルコレステが「アンデッド達は一定数が土に還ると必要数を求めて巣穴から出てくるのです。それが大体春で、春には人喰い鬼がオークを狙い、オークがゴブリンを狙い、ゴブリンが人喰い鬼の死骸を食べていた。そして死骸はアンデッドとなって最奥の巣穴に帰って行く、流れができていたのです」と説明した。


嫌な話だが食物連鎖が出来ている。

だが、だからこそオークを根絶やしにすれば、オークを食料にしていた人喰い鬼も、人喰い鬼を食糧にしていたゴブリンも、異常激減か異常発生をして、食物連鎖が崩壊して砦を目指してくる。


そうなると物量戦になってしまい、メーライトが倒れるまで酷使される羽目になる。


アーセワが即時にそろばんを弾き、「神様、神様のご提案通りにしましょう。冬までの間に神様と私たちの繋がりが強くなれば、多少離れても平気になります。なので街づくりのギリギリと討伐のギリギリを狙えるように訓練をしましょう」と言った。


話し合いの後で、アーセワはワルコレステに呼ばれていた。


「隠し事は無しでお願いします」

「何のことでしょう?」

「メーライト嬢すら知らない事を、あなたはご存知だ。今回のことに関しても、もっと良い方法があったかもしれない」


一瞬の緊張とにらみ合い。

まだイニシアチブはアーセワにある。

アーセワは余裕を見せすぎないように平静を装う。


「そう思いたければそれで、でもあなた達が生き残れるかは神様次第です」

「ええ、ですので援助は惜しみません」

「では早速一つ」


アーセワからの要求にワルコレステは慌てたそぶりを見せないように身構える。

無理難題は無理難題ではないと示し、ワルコレステはアーセワに、これ以上のイニシアチブを渡さないようにしていく必要があった。


「何でしょう?」

「多分、春になると一つの問題が出てきます。その時のためにも、病でも老齢でも構いません死期の迫った作家を見つけて、この状況を打破できる本を、魂をこめるような作品を書き上げて貰ってください」


言っている事は無茶苦茶だが、それこそがアルデバイト奪還の必要事項で、是が非でも行う必要があった。


「それは勿論、お約束しましょう。ですが問題とは?」

「…その時にならないと言えません。ですが、神様の想像力の問題です。あの司書が居てくれれば今でも何とかなりましたが、そうもいかないのです」


アーセワはメーライトがいる小屋の方をみて、少し困り顔で「神様にはダンジョンの知識が足りません」と呟いていた。



街は3か月で形になった。

メーライトの使徒達は、ほぼ休む事なくキチンと街を作り、人々の役割を決めて街としての機能を完成させて行く。


そして時報のように、毎日朝晩に兵士達が探索と索敵をしてきた魔物の巣穴周辺に、アジマーの魔法とアナーシャの魔法の矢を打ち込んで行く。


倒せたかではなく、打ち込む事に意味を見出して、ひたすら撃つことでオーク共の気勢を削いでいく。


それでも人の匂いに釣られて現れるオークの群れを、アルーナ達が奪い合うように倒していく。


このリズムのようなものが出来上がってしまうと、人々の中からは「もうこのままで良いのではないか?」という声も上がってきていたが、オークの数ばかりが減っていて春の大攻勢は確定されてしまっている。


ここでゴブリンや人喰い鬼の巣を狩る事は必須事項になっていた。

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