第23話 救国の女神は冬の間に魔物の巣を討伐する。

追いやられた土地の冬は過酷だった。

とても外に出られるような環境ではなく、アーセスが火と土の精霊に頼む形でメーライトの寒さを軽減し、無理のない範囲で行軍しては土で塹壕を作り、そこを基地にして、アルーナ達が「寒い!くそっ!」と言いながら巣穴を目指して破壊してくる。


運悪く読んだ物語に冬の描写の物語はなく、冬に強い使徒もいない。

その為か、最後は必ずアジマーの火魔法で暖をとりながら、巣穴を焼き尽くしてくるので、基地で待つアーセワが「神様、終わりましたよ」と声をかけて、メーライトが火柱を見て安心していた。


「神様、そろそろ一度砦に帰るかい?」

「アノーレさん。私は平気です。皆こそ帰りたいかな?」


メーライトは気丈に振る舞うが、それには理由があり、大きい部分では、あのバナンカデスとの仲が気になっている。

バナンカデスはあの日以来メーライトとの接触を禁止されている。

メーライトが会いたいと思っていても、アーセワやワルコレステが止めに入ってしまう。


そして砦の空気もメーライトには苦手なものだった。


救国の女神としてメーライトを崇める人たち、そのメーライトにお嬢様丸出しで邪魔立てをするバナンカデスを、よく思わない人たち、まだ何も始まっていないのに、すでに戦後を見据えてメーライトに取り入ろうとする者たち、そこにいるくらいなら自身が呼び出した使徒達と過酷な環境にいた方が気が楽だった。


「アーセワさん、あそこからアルーナさん達ならどのくらいで帰ってくるかな?」

「そうですね。まあ間に深い谷なんかがあって、迂回を求められなければ半日ですかね」


「気になるなら繋がってみればいいのに」

「それをやって私が疲れちゃうと皆に悪いし、魔物と戦ってる時だと怖いから…」


メーライトはついてきた生産職の使徒達が住みやすくしてくれる部屋を見ながら「そろそろ次の土地に行ったほうがいいかな?」と聞く。



「そうですね。それも悪くありませんが、兵站の事を気にすると…これ以上は進軍のペースを落として、神様には私達との繋がりを強化してもらって、更に奥地へと向かえるようにして貰った方が良いかと思われます」


メーライトは3日くらいの距離なら離れられる事に気づかずにいるので、アーセワから試すように言われて、今は2日の距離なら離れられると思っている。

なので水と食料を求める時は、メーライトは砦から2日の位置にある基地に滞在して、アノーレとアナーシャが砦まで戻って、情報共有と食料の確保を済ませてくるようにしていた。


「水は最悪アナーシャさんとアジマーさんとアーセスさんの魔法とかでうまくいかないかな?」

「まあ、それも可能ですが、飲料に特化していないから美味しくないのですよ」



そこに帰ってくるアルーナは「帰ったぜー!」とご機嫌で、「神様ー!中入れないから、外に見にきてくれよ!」と声をかける。


「アルーナさん?」

「何ですかアルーナ?外は寒いのよ?」


メーライトとアーセワが外に出ると、そこにはそこそこ大きな熊が倒されていた。


「熊だよ熊!!これ食べて元気を出してくれ神様!アーセワ!解体任せた!」

「わぁ…、アルーナさんが倒したの?」

「任せなさい。神様、こんばんはご馳走ですよ」


アルーナは羨望の眼差しと嫉妬の眼差しに挟まれて、「見つけたのはアナーシャ、倒したのはアタシがジャンケンで勝ったから」と説明すると、メーライトは「皆ありがとう。大変なのにいつもありがとう」と言った。


このままの勝ちムードに任せてメーライトは無理をして進軍を決める。


確かに水は飲用ではないので不味いが、そこはアーセワが花の蜜を見つけてくれて、味をマシにしてくれたりする。


かなりのペースでオークとゴブリン、人喰い鬼の巣穴を破壊していく。


「報告にあったのは全て倒したね」

「ええ、あとは春の大攻勢で討ち漏らした個体が現れてからですね」


「アーセワさん?アノーレさん?」

「斥候に出たアナーシャとアーシルの帰り待ちだけど、多分今の戦力じゃアンデッドとは戦えないんだ」


「そうなの?」

「ええ、倒せるようなら倒してしまいますが、それでも恐らく春にはどうしようもなくなります」



言葉通り、戻ってきたアナーシャは首を横に振り、砦への帰還が求められる。

メーライトが戻ったのは出立から2か月と少しの事だった。


メーライトに目立った怪我もなく顔色も悪くない。


そして戻ってきた事についてワルコレステが確認をすると、アーセワが「話していた問題が形になりました。本の用意をお願いします」とだけ言い、アンデッド以外の魔物の群れは全て倒した事を伝えた。

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