第88話 タカシくんはロシア人を懲らしめる

 ヘリコプターは轟音と風を吹き付けて飛んでいった。

 がんばってくれよ『Dリンクス』。


 サッチャンが撮っているサッチャンネルがステージの大型モニターに映されていた。

 今は、タカシ君とロシア人の親玉が一騎打ちで戦っていた。

 みのりんさんはかーちゃんさんが助けたみたいで、タカシ君と合流、不思議な節回しで和楽のような歌をアカペラで謡った。

 タカシくんの片手剣『暁』に赤い光が宿り、亀の甲のような盾に緑の光が宿った。

 陰陽武器というらしく、日本の神さまを降臨させて戦うのだという。

 なんだか凄いね、ちなみにタカシくんの剣に宿っているのは『アマテラス大御神』だそうな。


 ロシアの親玉はミハエルという大男で、フルプレートに魔法の大剣、魔法の盾で武装していた。


 タカシくんとミハエルは壇上みたいな所で激しく戦う。

 いやあ、魔法武器同士での対人戦とか、怖いねえ。

 やりたくないねえ。

 ゴリラ達でも一瞬で斬られてしまいそうだよ。


「タカシ、がんばれ~~!!」

「タカシくーん! 負けるな~~!!」

「ミハエルを倒してくれーっ!」


 観客が席に座って画面の向こうのタカシくんに声援を送った。

 しかし、戦闘速度があり得ないほど素早い。


「うめえなあ、タカシ坊」

「タカシくんは毎日地下十階までの狩りを三年間つづけていましたからね」

「そりゃベテランだなあ」


 ムラサキさんにミキちゃんがタカシくんの事を教えていた。

 そうかあ、毎日毎日狩りをしてたから、あんなに上手いんだろうね。


「【オカン召喚】を手に入れるまでは、ソロで地味なF級配信冒険者で、リスナーもほとんどいなかったらしいですよ」


 誰も見ていないのに三年間毎日狩りかあ。

 凄い偉業だなあ。

 苦労人なんだね、タカシくん。


 ミハエルの使う魔盾のガード性能が強すぎてタカシくんは攻めあぐねているね。

 さらにミハエルの持つ剣は影の剣を使えるという物で、とても厄介だ。

 でもアマテラス様が宿った『暁』とは相性が良いみたいで、簡単に魔剣の効果を打ち消していた。



 タカシくんが爆発する手盾を使って低い位置で旋回して盾の内側に飛びこんだ。

 上手い!

 観客がどよめいた。


 ミハエルの左手の関節に斬り込んで奴の動きを止めた。

 勝負あったね。

 タカシくんは爆発する手盾でミハエルの顔面を殴って吹っ飛ばした。


『降伏しろ、俺の勝ちだ』


 おお、やったなあ!


「ちっ!! 降伏勧告とかしてんな、素人だなっ!」


 赤坂さんが画面を見て毒づいた。

 え、何言ってるの?


「「「「あああああっ!!」」」」」


 吹っ飛ばされたミハエルが懐からなにか注射器を出して首に注入した。


「やべえ、罪獣だ」

「罪獣って?」

「魔物の血液や肉を使って、人間以上の存在になる技術だ」

「そ、それは怖いねえ」


 うわっ、ミハエルの輪郭がぐねぐねとねじ曲がり、巨大化した。


「最悪だ」


 なんだか五メートルぐらいの巨体に代わった。

 皮膚の表面が凸凹している。

 体は臼のようで、片手は杵、片手は箒、足は鶏という異形の姿に変わった。


 会場がどよめいた。

 人間が簡単に魔物に変われる物なのか。


 巨大魔物になったからか、レグルス陛下とサーバントのおじさんも参戦した。

 が、敵が超強い。


 目からビームを出し、杵のような右手で叩き、箒のような左手で動きを鈍らせる。

 レグルス陛下の肩にビームが刺さって血が吹き出した。

 観客の女性が悲鳴を上げた。


「レグルス陛下っ!! 負けないでっ!!」

「畜生、旗色が悪いぜ!」


 さらに石化ガスを口から吐き出して暴れ回る。

 危ない、大丈夫かタカシくん。


 俺は沖合のタンカーを見た。

 俺も加勢に行くべきか。


「「「「わあああっ!!」」」」

「鏡子さんだっ!!」


『またせたなっ! きゃりありあありあああっ!!』

『鏡子ねえさんっ!』


 画面に鏡子さんが現れ、ひしり上げながら、でかいミハエルに向けて蹴り技を放った。


 ヘリコプターがタンカーに着いたようだ。


 鏡子さんが、泥舟くんが、チアキちゃんが、朱雀さんが現れて、タカシくんに加勢した。

 『Dリンクス』が揃った、これで勝てる!


 マリアさんも画面に出て、みのりんさんの[謡]を引き継いだ。

 泥舟くんが、チアキちゃんが魔銃をバンバン撃っていた。

 石化ガスでの石化は朱雀さんが解除した。

 そして、みのりんさんが呪歌を歌い始める。


『鏡子おねえちゃんっ! いっくよーっ!! 『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』』


 うわ、画面越しでも効果があるぞ。

 なんだか、クラクラして膝を付いてしまうよ。

 会場のお客さんも悲鳴を上げている。


 画面の中の鏡子さんは【ぐるぐるの歌】の中を何も掛かっていないように、するすると動く。

 [縮地]も使ってミズスマシのようだね。


『『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』』


【ぐるぐるの歌】から【スローバラード】に曲が替わる。

 でかいミハエルの動きが恐ろしくゆっくりになった。


 みのりんさんは曲を選ぶのが上手いな。

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