第87話 りっちょんは悪あがきをする
「『止まれ~、止まれ~、動きを止めろ~~♪ 世界で動けるのは私だけ~~♪ 動かない世界であなたの鼓動を感じるわ~~♪』」
怪アイドル、というか、りっちょんさんはまた【お止まりなさいの歌】を歌ってゴリ次郎の拘束から逃れようとぐねぐね体を動かした。
いかん、
ステージ上の巨大モニターではタカシくんとレグルス陛下がロケット兵を追って空中戦をしていた。
そのモニターの前でりっちょんさんが立ち上がりかけた。
いかんっ!
頼みの綱のミキちゃんは、歌の効果を解除できる【冷静の歌】をもっていない。
「『そーれそれそれ、頭をクリアにすっきりしゃっきりとりもどせ♪ 冷静冷静大冷静~、クールに行こうよ~♪』」
チョリさんが【冷静の歌】を持っていた。
彼女の歌声で全員が動けるようになった。
「くっ!」
ゴリ次郎が握り返して、りっちょんさんを拘束しなおした。
「石橋!! 手錠!!」
「あいな、赤坂ちゃん」
ガードマンの格好をした女の子が赤坂さんに手錠を手渡した。
赤坂さんは後ろ手にりっちょんさんを拘束する。
「はなせ、はなせ~~!! どうして、どうして私の方が正義なのに邪魔をするの、悪いのは、みのりとタカシくんなんだよっ!」
「そういうのは別室で聞く、キリキリ歩け」
観客がモニターに釘着けになっている中、赤坂さんはりっちょんさんを拘束して連行していった。
「ふう、時間を止める歌、怖いねえ、ありがとうチョリさん」
「【冷静の歌】なんて初めて歌ったわよ、覚えておくもんね」
「わたしも欲しいです」
そうだね、ミキちゃんも欲しいね。
やっぱり、魔術師の呪文の数、僧侶の奇跡の数、バードの歌の数は、あればあるほど良いね。
いろいろと組み合わせて使えるからさ。
「【お止まりなさいの歌】も欲しいです、チョリ先輩はもってますか」
「あるわよ、コモンは全部揃えたから、毒消しの歌とアンデット封じの歌も手に入れたわよ」
「【お止まりなさいの歌】の歌持ってるんですか、それは便利ですね」
チョリさんは目を細めて手を横に振った。
「ものすごいMPを喰うのよ。りっちょんは魔力量が多いんだわね。私は一回で何も歌えなくなるわ」
あー、便利な歌は
良い事ばかりじゃ無いんだなあ。
「じゃ、ヒデオはん、うちはこれで」
「あ、かーちゃんさん、ご協力ありがとうございます」
「また会おうなあ」
かーちゃんさんは粒子になって消えていった。
彼女はいま、異世界の僧兵に転生していて、タカシくんが呼ぶと、一回三分、一日三回、こっちの世界にやってくる事ができるらしい。
鉄砲足軽くんの泥舟くんと、鏡子さんがこちらにやってきた。
「石橋さん、タカシを追いかけたいんですけど」
「ロシア人ぶっとばすっ」
目的は俺じゃなくて『チャーミーハニー』の人だった。
「タカシはなんだかタンカーに殴り込んでるから」
泥舟くんがモニターを指さした。
画面ではタカシくんを乗せたレグルス陛下が怪タンカーに着地する所であった。
海の方を見る。
遠くに小さく見えるあの船かな。
石橋さんがすごい勢いでトランシーバーで通信していた。
「おっけー、最速でヘリを回してもらって、『Dリンクス』さんをあそこに送り届けます」
「ありがとう、石橋さん」
「やったぜ」
お客さんは席に着いて、固唾をのんでサッチャンからの動画を見つめている。
あのタンカーの中はロシア人の基地になっているみたいだね。
「ステージ裏のバックヤードを片付けろ、自衛隊のヘリが着陸すんぞ」
「わかった、関係各位に通達します」
ムラサキさんの号令で、警備部の若手が動く。
お、俺はどうするかな。
「ヒデオは動くな、ゴリラと一緒に舞台を守れ、タカシくんはみのりんを絶対に連れ戻してくる」
「そうですね」
ヘリ輸送計画は、第一便を『Dリンクス』、第二便を『ホワッツマイケル』で組み立てられた。
動画では、みのりんさんを人質にロシアがタカシくんを恫喝、タカシくんがモニター越しに現場にかーちゃんさんを呼び出した所だった。
あー、見えてさえいれば、画面越しでも良いのか。
『ホワッツマイケル』の席に座っていた女の子が立ち上がって、英語で何かをコールした。
おお、画面の向こうにでっかいマシンガンを持ったおっちゃんが現れた。
ああ、アメリカの【サーバント召喚】のスキル持ちの子だね。
キャシーちゃんとか言ったっけ。
バリバリバリと音を立てて、二つのプロペラを持つ大型ヘリがステージの後ろに着陸した。
でかいワンコに乗ったチアキちゃん、鏡子さん、泥舟くん、朱雀さんが足早に移動していった。
サッチャンネルの中継が的確なので、状況が良くわかるね。
彼女がカメラを持って中継してくれて助かる。
俺は舞台袖で、『サザンフルーツ』の三人と、チョリさんとで、なんとなく集まってあたりを警戒していた。
油断は禁物だ、りっちょんさんを助け出すためにロシア人の後続が来るかもだし。
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