第86話 マリエンライブ中断する

「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 みのりんさんがリュートを引きながら【冷静の歌】を歌った。

 俺もゴリラたちも動けるようになった。

 鏡子さんが[縮地]を使ってステージに飛びこんできた。


 怪アイドルがレーザー砲を発射した。

 ゴリ次郎が、まに、あわないっ。



 パッシュー!


 みのりんさんが、なんだか亀の甲羅みたいな小さな盾でレーザー砲を受け止めた。

 うわ、凄い火花が出たっ。


「汚いわっ!! タカシくんの持っていたチート盾ねっ!」

「あ、あぶないわよ、人に向けて良い武器じゃないでしょっ!」

「あんたのせいで、あんたのせいでっ!! 私はっ!!」

「てんめーっ!!」


 鏡子さんが[縮地]で距離を詰めて回し蹴りを怪アイドルに叩き込もうとした。


 パシュ!


 姿がぶれるように鏡子さんは[縮地]で避けたが、外れレーザーがステージ機材を貫いた。

 あ、あぶないなあれ。


 『Dリンクス』の鉄砲足軽君が煙幕弾を発射したが、おり悪く海風で吹き飛ばされた。

 そうか、光線だから煙幕で遮れるのか。


 でかいワンコに乗ったチアキちゃんが鉄砲を怪アイドルに向けて乱射する。

 なんだか、ステージ上が混沌としてきたぞ。

 ゴリ次郎制圧しろっ!


『ウホウホ』


「【オカン乱入】!」


 ゴリ次郎が進む先に光の柱が現れ、皮鎧を着けた中年女性が現れた。

 あれが、噂のタカシ君のかーちゃんさんか。

 あー、かーちゃんさんが邪魔でゴリ次郎がカバーに入れない。 


「え、ここはなんや?」

「かーちゃん、ロシア人だ、みのりをカバー」

「解ったでっ!!」

「おかあさまっ」


 かーちゃんさんが丸盾を構えて、みのりんさんの前に立ちはだかった。

 ゴリ次郎もやっとカバーに入った。


「どけっ、おばはんっ!!」


 悪鬼の顔で怪アイドルが、かーちゃんさんに毒づく。


「終わりだっ!!」


 鏡子さんが[縮地]で間合いを詰めて回し蹴りを放った。

 怪アイドルは尻餅をついて避けた。

 そこにゴリ次郎が躍りかかった。

 

「諦めろ、りっちょん、お前の負けだ」


 タカシくんが凜々しく宣言した、が、怪アイドルは含み笑いで返した。


「くくくくっ」


 轟々と轟音を立ててロケットリュックを着けた外人が沢山飛びこんで来た。

 ロシア人か!


「ゴリ太郎、叩き落とせ」


『ウホウホ』


 マリエンタワーから飛んでくる鮫島さんの矢とか、鉄砲足軽くんの長銃とか、ゴリ太郎の手の平とかで、ロケット兵はバンバン落とされた。


 なんだか、鋭い英語の警告が放たれた。

 振り返るとみのりんさんにいつの間にロケット兵が取り付き、ごぼう抜きに宙に掠っていく。


 「【気配消し】だ、打ち落とせ、ヒデオ!!」


 赤坂さんが拳銃を出してロケット兵に向けてバンバン撃っていた。

 ゴリ太郎を動かして、捕まえようとっ……。


 するりと、水の中の木の葉みたいな動きでゴリ太郎の腕を奴はすり抜けた。

 なんだと!!


 マリエンタワーからも鮫島さんの矢が降り注いでいるが、不自然な動きでロケット兵は避ける。

 何かのスキルか。


「きゃーーーーっ!!」


 みのりんさんが高空に上っていく。

 くそ、あんなに上がられたら。


「させるかよっ!!」


 世界一のレベルの男、マイケルさんが恐るべきジャンプ力でロケット兵を追った。

 おお、これもスキルだね、バッタみたいだ。


 みのりんさんを抱えたロケット兵はぬるりとした動きでマイケルさんのナイフ攻撃を避けた。

 


「くそっ、【絶対回避】だ」


 赤坂さんが毒づいた。

 回避系スキルかあ。


 みるみるうちにみのりんさんが小さくなっていく。

 なんとかしてあの速力に追いつかなくては。


 ゴリ次郎が怪アイドルを制圧した。

 左手のレーザー砲が厄介なので、ひねり上げて動かないようにする。


「あははははは、あのビッチはロシア人に捕まって地獄を見るのよ、ざまぁだわっ!!」


 ステージに赤いスーツのゴツイ人が上がって来た。


「タカシ!!」


 ゴツイ人がタカシ君に声をかけた。


「我に乗るのだっ!! タカシィ~~!!」


 なんだろう、変態の人かなと思っていると、姿がぐねぐねと変形して、赤いドラゴンのレグルス陛下となった。

 なんだ、陛下が人化していたのか。


「レグルス陛下!!」

「乗れ! みのりんを追いかけるぞ、タカシィ~~!!」

「良いんですか、でも何で」

「決まっているっ!! マリアとみのりんはワシの推しだからなっ!」


 レグルス陛下はどんどん大きくなって二メートルぐらいになった。


 バンバン羽ばたいて、レグルス陛下はタカシ君を乗せて空に舞い上がった。

 がんばってくれ、みのりんさんを助け出してくれ。


「んじゃ、私も中継行ってきます♡ スクリーンに『サッチャンネル』を映してね♡」


 そういって、サッチャンさんも後を追って飛び上がる。

 スタッフが慌ててバックスクリーンに『サッチャンネル』を映した。


 すごい、もの凄い速度で港湾工業地帯の上をチェイスしている。


 怪アイドルはギャーギャー騒ぎながらレーザー砲を撃ちまくっているが、ゴリ次郎が上手くコンクリートとか、機材とか危なく無い所に動かして無効化した。


 赤坂さんが彼女の左手の義手の機械をいじって何かを抜いた。


「バッテリーは外させてもらうぞ」


「あんた、【ゴリラ】ってオモロイスキルやねえ、どんなん?」


 タカシくんのかーちゃんさんに話しかけられた。

 お、なんで解るの?


「オカンさんは【鑑定眼】持ちなんだよ、ヒデオ」

「そうなんですか、でも【ゴリラ】のスキルは良くわかりませんのですよ」

「そうかー、でも、これ頼りになるなあ」


 かーちゃんさんはゴリ太郎を見上げてそう言った。

 【鑑定眼】があるから見えるのかな。

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