第85話 サイボーグアイドルりっちょん現る!!


 『マリア&みのり』さんの楽曲が続く。


 マリアさんのヒット曲が歌われた。

 俺でも知っている世界的ヒット曲だな。

 だが英語なので歌詞は解らない。


 ステージの袖で舞台を見られるのはなかなか良いね。

 護衛だけの特権的な場所だ。

 立ちっぱなしなので腰が痛いけどね。


 英語の曲なので、みのりんさんも英語でコーラスを入れたりしている。

 英語が出来るんだなあ、偉いなあ。


 大盛り上がりでマリアさんのパートが終わった。


 ロシア人はまだ攻めてこないね。

 なんだか、潜んでいる気配はあるんだけど。

 次はみのりんさんのカバー曲だ。

 史上初の『吟遊詩人』バードだった木の下ゆかりさんの曲をカバーするらしい。


 木の下ゆかりさんは史上初の『吟遊詩人バード』として凄まじい人気を誇っていたんだけど、自衛隊が近代兵器を迷宮に持ち込んだときに出た『軍隊殺し』が出た事件に巻き込まれて死んだそうだ。

 どんな凄いアイドルでも、どんなに用心しても、サクッと死んでしまうのが迷宮らしいね。

 なんだか怖いねえ。


「それでは、次の曲は私が選んだカバー曲です、迷宮で散ってしまった、世界初の吟遊詩人バード、木の下ゆかりさんの大ヒット曲『あいつはあいつはDチューバー』ですっ」

「うおおお、ゆかにゃんの名曲!!」

吟遊詩人バード二号のみのりんが歌うなんてっ」


 三年前のヒット曲だから、よく訓練されたアイドルオタクさんには基礎教養だったようで、サイリウムを振って組織的にかけ声を出し始めた。

 うわあ、盛り上がりが凄いなあ。

 マリアさんも器用に日本語でコーラスを入れているね。


 独特のアイドルくさい感じはあるけど、良い歌だよなあ。

 三年前のクリスマスは街中でこの曲が掛かっていた。


 大盛り上がりで、カバー曲が終わった。

 さて。


「さてさて、『マリア&みのり』のマリエンライブも最後の一曲となりました。まだまだ曲が足りなくて、短くてごめんね~! 夏休みにはもっと長いライブを色んな所でしますので、おたのしみに~~!」


 マリアさんも何か告知をしたが、たぶんアメリカツアーがありますよとかだろう。

 なんだか全世界で凄い前評判だったらしいからね。


「それでは、私たちの新曲ですっ、『吟遊詩人バードは地の果てまでも旅をする』ですっ!」


 軽快な前奏が流れてくる。

 ステージのバックのモニターに幾何学模様が浮かび、スモークが焚かれた。


 この新曲で『マリア&みのり』のデビューライブは終わりだ。

 だからこの曲の途中で攻めて来るか、もしくはライブには攻めてこないかが決まる。

 攻めてこない方が楽でいいな。


「『私たちは吟遊詩人バードとして生まれ、吟遊詩人バードとして生きてきて、地の果てまでも旅をする』♪」


 みのりんさんは日本語で、マリアさんはそれに被せるように英語で歌った。

 言語は違うのだけど綺麗なハーモニーになって、もう、一発目で凄く引き込むね、やっぱりこの二人の歌姫は凄い。

 この素晴らしい曲を邪魔する者はゆるせないね。


「『あの人が英雄になるさまを近くで見て、それを歌にする♪ 私たちの歌は幾世紀も歌い継がれ、やがて伝説となるだろう♪』」


 うん、マリアさんも、みのりんさんもアイドルじゃないんだ、彼女達は『吟遊詩人バード』なんだね。

 似ているけど違う新しい存在なんだな。

 と、イントロだけを聴いてはっきりと解った。

 これは別次元だなあ。


「遠い遠い約束の地まで、私を連れて行って♪ 見たことも無い景色を私に見せて♪」

「悲しい事も辛いことも挫けて膝をつき敗北する所を私に見せて♪ そして首を振って立ち上がり、がむしゃらに立ち向かい、勝利するところを私に見せて♪」


 交互に前に出て、それぞれの言語で二人は歌う。

 マリアさんの英語の歌詞も理解したいなあ。

 英語の勉強をちゃんとやっておけば良かったよ。


 曲調が代わり、さびに入る、という瞬間だった。


 大型のスピーカーがパカリと割れて表情に険のあるアイドルが出て来た。

 そんな所に隠れていたのか!


「ゴリ次郎、捕まえろ」

『うほうほ』


 近くにいたゴリ次郎を動かす命令を発した。


「『止まれ~、止まれ~、動きを止めろ~~♪ 世界で動けるのは私だけ~~♪ 動かない世界であなたの鼓動を感じるわ~~♪』」


 怪アイドルの歌声ですべての時が止まった。

 呪歌の【お止まりなさいの歌】か!

 ゴリ次郎もピタリと動きを止めて動けない。

 ステージの楽曲もピタリととまり、舞台は静寂につつまれた。


「『あ~~~あ~~、どこまでも遠くに、どこまでも歌い継ごう、私たちは吟遊詩人バード、歌いながら旅をする~~♪』」


 マリアさんとみのりんさんは音の止まった舞台の上で、アカペラでさびの部分を歌った。

 そうか、『吟遊詩人』バードには呪歌が効かないのか。

 それは『サザンフルーツ』のミキちゃんも同じようで、彼女だけは動いている。

 ええと、ミキちゃん、なんとかしてー。

 ミキちゃんは困った顔で肩をすくめた。


 ああ、彼女は【冷静の歌】持っていなかったっけ。


 時の止まった舞台で、怪アイドルの銀色の左手が伸びる。

 左手の平にはレーザー砲の砲口が赤く光り、まっすぐみのりんさんの心臓をねらっていた。


「死ね」


 ゴリ次郎! カバーに入れっ!!

『うごうご』

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