第84話 ライブは進むが異変は起きない
『サザンフルーツ』のライブは盛りあがった。
会場のみんながノリノリで凄い熱気だよね。
『サザンフルーツ』は良い感じに場を暖めた。
「『サザンフルーツ』のデビュー曲、『南国フルーツパラダイス』でしたーっ!! みんなありがとー、次は『チョリズ』さんです~、拍手~~!!」
ミキちゃんが手を振って舞台袖に帰って来た。
スモークが焚かれ、『チョリズ』の楽曲のイントロが流れ始めた。
チョリさんがうなずいて、みんなとハイタッチして、舞台に駆け込んだ。
わあ、『サザンフルーツ』のみんなが汗だくだね。
俺はタオルをみんなに渡した。
「すごく良かったよ」
「ありがとうっ、嬉しいよ」
「あー盛りあがった盛りあがった」
「今回は良い出来だったね」
チョリさんが舞台の中央に出て、マイクを取った。
「みんなー、私のライブにありがとー。と言えれば良いのだけれど、今日はかわいい後輩のみのりんと素晴らしい先輩のマリアさんのディオのデビューライブなのよね」
「チョリ~~」
なんだか不良っぽいDチューバーさんがチョリさんに声を掛けてきた。
チョリさんはちょっと苦笑して手を小さく振った。
姫川ちゃんとと高木さんが居るので、あれが噂の先輩かな。
「それでは聞いてくださいねっ、『おはようの歌、ロングVr』ですっ」
『おはようおはようおはようございます~~♪ すてきな朝、青い空、白い雲に今日の元気をはじけさせましょ~~♪』
うーん、綺麗な声だねえ。
呪歌なんで心が動きやすいし、良いね。
『おはようの歌』のメロディが掛かると気持ちがしゃっきりするし、『労働の歌』のメロディが掛かると気合いが上がる、『おねがいの歌』でチョリさんに注視して、『冷静の歌』のメロディで外れる。
そしてまた『おはようの歌』に戻る。
呪歌のメロディを繋いだ楽しい歌だなあ。
観客席にはチョリさんのファンらしい親衛隊がいて、一糸乱れぬサイリウムダンスを見せつけていた。
すごいなあ。
さらに客席をヒートアップさせて、『チョリズ』の曲は終わった。
『サザンフルーツ』も俺と一緒に舞台袖でチョリさんの歌を見ていた。
「やっぱり上手いねえ」
「呪歌を繋いでテクニカルに作った曲ね」
チョリさんが客席にお辞儀をした。
「では次は、真打ち、『マリア&みのり』の登場だよ。みんな楽しんでいってねっ!」
お、舞台袖にみのりんさんがやってきたぞ。
マリアさんは反対側の袖からのようだ。
「がんばってくださいね」
「は、はいっ」
チョリさんが帰って来た。
「緊張してるの、駄目よ、みのりはタカシ君だけ見て歌いなさいよ」
「は、はいっ」
みのりんさんはちょっと赤くなったけど、元気がでたようだ。
そうかあ、みのりんさんはタカシ君が好きなんだね。
わかるわかる。
『サザンフルーツ』の三人も解る解るとうなずいた。
ステージのスクリーンに幾何学模様が現れ、スモークが焚かれて、バーンと音が立った。
みのりんさんはパタタとステージに走り込んだ。
「みのり頑張れ~~!」
最前列のタカシ君が声をかけたら、みのりんさんの表情がパッと明るくなった。
「今日は川崎マリエンまで、私とマリアさんに会いに来てくれてありがとーっ!! 沢山盛り上がって沢山楽しんで行ってね!!」
続けてマリアさんが英語で何か言ったけど、おじさんは英語わからないんだよな。
「『元気の歌、ロングVer』だよ」
おお、呪歌のロングバージョンなのか。
「『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」
おお、みのりんさんの『元気の歌』は元気が出るなあ。
声も良く通るし、別次元だなあ。
で、マリアさんが、歌を繋いで、同じメロディで英語の歌詞で歌った。
わあ、なんというか、世界の歌姫は歌が凄いなあ。
同じ曲なのに、なんだか心に届く感触が違うね。
ほのぼの童謡な感じのみのりんさんの歌、ざらっとドライだけど前を向く力が強い感じのマリアさんの歌。
同じ歌なのに歌い手さんによって味わいが違うねえ。
すごいや。
「気を付けろ、そろそろ来そうだ」
ムラサキさんがいつの間にか後にいて、小声でぼそりと囁いた。
おっと、歌を聴くのに一生懸命になりすぎだ。
ゴリ次郎の目と耳を借りてあたりを監視する。
何も居ない。
だけど、何か居る。
そんな感じがする。
「何か居ますね」
「居る、多分、『マリア&みのり』の新曲に合わせて動きそうだ」
そうなんだね。
何かが潜んでこちらの隙を虎視眈々と狙っている気配がある。
「『あなたの元気を絞り出そう、悲しい事、嫌な事があっても、負けない自分でいよう♪ 大丈夫、世界は明るく輝いているし、私たちの前には勝利しかないのよ♪』」
みのりんさんとマリアさんの日本語と英語のデュエットだ。
あー、なんだか凄いね。
『元気の歌』の二番が始まった。
明るくて楽しい歌詞に乗せて、場の空気が重く不穏になっていく。
そろそろ動きそうかな。
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