第83話 リハーサルが終わり開場する

 チョリさんのリハも終わった。

 『マリア&みのり』さんはぶっつけ本番のようだ。

 まあどちらかというとスタッフの機械調整とかの為のリハーサルっぽいね。

 音響のバランスとか取らないといけないからね。


 音響スタッフやライティングスタッフ、いろんなプロの人の手を経てアイドルのライブは出来ているんだなあ。


 『Dリンクス』の人達は開場の最前列、かぶりつきの席に座っているね。


「あの赤いでっかい外人さんは誰なんでしょうね」

「マリアさんのスタッフじゃなくて、なんか迷宮関係者みたいだよ」


 山下さんが教えてくれた。

 なんと、迷宮の人なのか、悪魔さんかな。

 外に出れる悪魔さんはサッチャンだけかと思ったけどね。


「そろそろ開場だ、ヒデオさんは舞台袖で待機して、トラブルがあったら対処してくれ」

「わかりましたっ」


 といっても対処するのはゴリラ達だけどね。


 鏡子さんが客席から立ち上がって、何か目測をしていた。

 何かあったときに飛びこむ為の奴かな、と思ったら、消えた。

 消えて一メートルほど手前に出現した、というか手すりにのった。

 さらに消えて、ステージ上に立った。

 なんだあれなんだあれ。


「鏡子さんの新装備の具足のスキル[縮地]だね、いや綺麗に跳ぶね」


 山下さんがしみじみと言った。


「瞬間移動! そんな事も出来るんですか」

「陰陽師装備だと、結構凄いスキルが付くみたいだよ」

「それは良いですねえ」


 俺も京都に挨拶に行ったら、陰陽装備が当たるかな。

 ……、というか、使える装備があんまりないなあ。

 剣とか振れないしな。


 鏡子さんは来た時みたいに瞬間移動して客席に戻っていった。


 ブザーが鳴って、お客さんが入って来た。

 『サザンフルーツ』は舞台袖で待機している。


「ああもう、緊張するっ」

「今でも緊張するんだ」

「する」

「何回やっても慣れません、ドキドキしますね」

「失敗したらどうしようとか、歌詞を間違えたらどうしよういってハラハラしますよ」


 三人とも堂々としてるから、そういう不安とかは無縁かと思ったけど、そうでもないのね。


「大丈夫、俺とゴリラたちとモグが付いてるよ」

「そ、そうか、モグ君もかっ」

「モグくんカワイイから」

「ちょっとほっこりしました」


 意外にモグが人気だな。

 念話で伝わったのか、迷宮の一階の奥地でウヒョウという感じにモグが喜んだ。


 舞台のスクリーンに幾何学模様が現れ、キーボードがピコピコ鳴った。


 ざわざわとお客さんがさんざめく。

 開場からライブ開始まで結構時間がある。

 今日の俺は舞台袖で中腰で待機である。

 腰が持つかなあ。


「今日のお客さんは熱気があるわね」


 チョリさんもやってきて舞台袖から観客席を覗いた。


「当選確率がかなり低かったですからね、アイドルマニアとみのりんファンが凄い熱気ですよ」

「『サザンフルーツ』ファンもいるわよ、チアキちゃんとか」

「あれは嬉しくて泣きそうになりましたよ」

「打ち上げで交流しましょうね」

「はいっ」


 そうか、ライブが終わったら打ち上げがあるんだなあ。

 また背広着ないとだめかなあ。

 窮屈なんだよねえ。

 とはいえ、打ち上げパーティにガードマン制服も無いからなあ。


「打ち上げってどこですか?」

「みのりさんのご両親が一流ホテルを予約したって言ってたわ。どっちにしろ、マリアさんも居るから豪華よ」


 豪華ホテルでパーティかあ。

 苦手だなあ。


「そろそろ時間です、『サザンフルーツ』さんおねがいします。ブザーと共にスモークが噴射しますので、それを合図にライブを始めてください」

「は、はいっ」

「がんばりますっ」

「行ってくるよ、ヒデオ」

「うん、みんな頑張って」


 おっちゃんは舞台袖で応援しか出来ないけど、精一杯応援するからね。


「みんな頑張れ」


 チョリさんがみんなに声を掛ける。

 みなはうなずいた。


 ブッブー。


 どわんとスモークが焚かれ、それに乗るようにして、『サザンフルーツ』は舞台に出た。


『川崎マリエンライブにみなさんようこそっ! 今日は目一杯楽しんで行ってくださいねっ』


 ミキちゃんが高らかにライブの開始を宣言した。

 そして前奏が走る。


『そうよ私たちは遠くまで~♪ 南の果てまで突き抜ける♪ 南洋じゃ美人だとあなたは憎らしい事を言うけれど~♪ そうよ私たちはサザンフルーツ、どれから食べてもおいしいぞっ♪』


 ああ、今日のミキちゃんは調子が良いね。

 高音が良く伸びているね。

 やっぱり『サザンフルーツ』の三人は現場に強い感じだね。


 軽快な『南国フルーツパラダイス』に乗せて観客が盛りあがる。

 みな席から立ち上がってノリノリだね。


 俺は雰囲気に飲まれないようにゴリ次郎の視界と感覚を借りて辺りを警戒する。

 ゴリ太郎よりゴリ次郎の方が目も耳も良いんだよね。

 今の所怪しい動きをしているお客さんは居ないようだね。

 赤くてでかい人も立ち上がって楽しんでいるみたいだ。


 何かあるとしたら、ライブ開始直前か、そうでなかったら、『マリア&みのり』の曲が始まってからだろうね。


「気を抜くなよ、ヒデオ」


 知らない間に赤坂さんが後に居てボソッと一言言った。

 さすがは『盗賊シーフ』だから気配を消せるんだろうなあ。


 振り返ると、静かにローラーで走りさる所であった。

 音出さないで走れるのか、あのローラースケートスニーカー。



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