第77話 ダーティペアと少し潜る

「おっちゃん強いンだろっ、お願いっ、六階から下に付き合って」

「ええ~~、君たちの事しらないからなあ」

「アイドルの護衛してんだろっ、大丈夫あたしら二人は将来のアイドルだからっ」

『なんというずうずうしい不良だ』

『つうか新人二人を育て無いといつまでも十階行けないぞ』

「うるせえっ、だから六階から先を偵察に行くんだよっ」

「学校の先生待ってたらいつまで経ってもE級になれねえんだっ」


 ずいぶん勝手な事を言うなあ。

 

「なんで、六階から下に二人で行かないの」

「なんでって、初心者二人で五階越えたら死ぬじゃん」

「迷宮の常識だぜ」


 ……、おっちゃんは常識が無くてピンチだったんだな。

 ゴリラが居なかったら一巻の終わりだったのか。


「誰かに言われてそれを守ってるんだ」

「そうだぜ、臨海第三の番張ってる後醍醐先輩からの言いつけでさ」

「というか、五階から下の怖い動画山のように見て二人で震え上がったからもあるな。無法地帯だから人間が怖ええんだよ」

「E級の有名人、『透明ゴリラのヒデオ』と一緒なら先輩も怒らないしよ」

「たのむよう」


 先輩の言うことを聞いているって事は根は悪い子じゃないのかなあ。


「それじゃ、ちょっとだけだよ。十階まで行ってもボス戦に挑んじゃだめだからね」

「わーあってるわーあってる」

「まだ遠距離が育って無いから、二人で行ったら死ぬ」

「死んだら運が良くて三百万の借金、運が悪かったらこの世から消滅だよ」

「死ぬほど慎重に行って損はねえから」


 意外にちゃんと考えてるね。

 先輩が偉いのかな。


「じゃあ、一緒に行こうか」

「やったーっ、ヒデオ話がわかるっ」

「ゴリラ護衛ゲット、アイドルへの第一歩だっ」

「アイドルは……、無理だと思うよ」


 将来的にアイドルの護衛は出来るかも知れないけどね。


 配信冒険者パーティの『ラブリーエンゼル』は、リーダーの姫川ちゃんが斧槍ハルバードの『戦士』、高木ちゃんが『盗賊シーフ』だという。

 他に、『射手アーチャー』の子と、『魔術師ウイザード』の男の子、あと『僧侶プリースト』のおっちゃんが居て、いつもは五人で狩りをしているらしい。


 サクサクと狩りをしながら階を降りて行く。

 時々『モグ』がぶるぶるっと震えて、レベルが上がったのが解った。

 ちょこまか付いてくるのが可愛いね。


 ムカデとか、角兎とか小さい魔物は『モグ』でも狩れるみたいだね。

 というか、俺といないときは勝手に狩りをしているっぽい。

 ちょっとレベルが上がってずっしりと重くなった感がある。


 姫川ちゃんも、高木ちゃんも、結構動きが良いね。

 率先して戦いに行くし、『盗賊シーフ』らしい目配りも出来ているようだ。


「そうかい? えへへへ、でもまだ【気配察知】とか取れねえのだよなあ」

「【気配察知】と【気配消し】は欲しいよなあ」

「チアキの言うことじゃ、生存確率ってえ奴が凄く上がるって事だぜ」

「チアキちゃんって『Dリンクス』のちっちゃい子?」

「そうだぜ、あたいらはタカシの同級生だからな、『Dリンクス』とも仲が良いんだぜ」

「チアキはちっちぇえのにしっかりしてるしよう」

「あ、チアキはおっちゃんっぽい人が苦手らしいから変な気を起こすなよ」

「そうだそうだ、高田も苦手そうにしてるしな」

「高田、人畜無害なのになあ」


 色々まだ見ぬチアキちゃんの情報が増えていく。

 ちっちゃいからおじさんが嫌いなのかあ、しょんぼりしてしまうね。

 お父さんが疎ましいお年頃なのかもしれないね。


 色々話ながら、六階への下り階段の洞窟まで来た。


「あ、いけない、冒険グッズ持って来てないから、ライトがないや」

「いらねえいらねえ、あたいらが持ってるしよ」

「予備のペンライト貸してやんよ」

「あ、ありがとう高木ちゃん」

「きにすんな、パーティーだからよう」


 まったく調子の良いJKの子たちだね。


 暗い六階に足を踏み入れる。

 ここからは魔物の他に人間も敵となる。

 慎重に行こう。


 姫川ちゃんがブルッと武者震いをして歩き始めた。

 高木ちゃんが慎重に前を確かめながら歩く。

 主な罠は全部マップアプリに載っているのだけど、それでも見落としたりすると致命的なので、これくらいの方が良いね。


「洞窟部分は緊張するなあ」

「まったくだ、お、灯りだ、青っぽい、配信冒険者だ」


 前方から若者達六人パーティが現れた。

 トッポイ感じの人達だね。


 だんだんと二つのパーティーが近づくにつれて緊張感がグングン上がって行く。


「お、ビッチと中年、パパ活パーティかあ」

「ぎゃははっ、……、って、ヒ、ヒデオじゃねえか、まさかアイドルなのか、それ?」

「この二人はアイドルじゃないけど、君たち俺の事知ってるんだ」

「お、おう、石松さんが手を出すなって言ってた」

「そうか、石松くん元気にやってるんだ、よろしくいっておいてね」

「あ、ああ、解った」


 二つのパーティーはすれ違った。


「やったぜ、ヒデオ」

「さすがはヒデオだなあっ」

「いや、前に知り合った人の知り合いだったみたいだからね、別に俺にびびったわけじゃないでしょ」

「んもーっ」

「んもーっ!!! 何でタカシにしろ、ヒデオにしろ、後醍醐先輩にしろ、凄え奴は自分の事を解らねえんだろうなあっ!!」

「あはは、タカシ君とか先輩と同じに置いてくれて嬉しいよ」

「いかん、このオヤジ、良い奴過ぎて好きになりそうっ」

「やべえ、おっちゃんフェロモンだ、逃げろっ」


 もう、JKの子は冗談ばっかりだね。

 でも明るくて良いな。

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