第78話 八階まで行って引き返す

 姫川ちゃんも、高木ちゃんも頑張るのだけど、どうも六階か、七階ぐらいまでの実力のようで、オークとかアタックドックに苦戦するようになって、ゴリラ達が介入する事が多くなってきた。


「今の適正階は六階かあ」

「まあ、レベルも七レベルぐらいだからなあ」


 配信冒険者のレベルの数と適正階数は大体合っているらしいね。


「素早い犬がなあ、難だよな、オークは何とかガチンコできるんだけどよう」

「んだなあ、『射手アーチャー』とか『魔術師ウイザード』が入ったらまた違うんだろうけど、適正は六階ぐらいだなあ」


 うん、わりと無理しないし、自分のレベルと強さを把握してるし、良い感じだね。


「しかし、透明ゴリラは凄いな」

「安心感が超スゲえ」

『護衛とかに良い能力だよなあ』

『アイドルの護衛が天職っぽいな』


 さっきから物陰に潜んで、こっちをうかがっている半グレの人がいるなあ。


「『盗賊シーフ』か?」

「『盗賊シーフ』だな、狙いはヒデオの首か」

「こんなしょぼくれたオッちゃんの首を取ってもねえ」

「いや、もう、『透明ゴリラのヒデオ』はネームドだしな」

「討ち果たして名を上げたい奴らはいっぱいいそうだぜ」

「やだなあ、こわいなあ」

「本当に見た目は普通のオヤジなんだが」

「ゴリラが透明なんで、強さがさっぱり解らねえ」


 俺は鞭も持ってきて無いので攻撃手段が無い。

 というか、まあ、前からだけどね。

 『モグ』が時々、オークの足を掬ったりしてるから、俺は奴よりも無能と言えよう。


 『モグ』は土の中を進んで、たまに敵の足下に悪さをして戦っているね。

 洞窟の岩盤でも関係無く潜れるようだ。

 魔法的な土潜りらしい。


 結構、狩っていたら、意外と時間が経って、もう四時頃だね。


「そろそろ上がろうか」

「おう、ありがとうなヒデオ」

「もう、十階に行けるかなって思ってたけど、まだまだだなあ。しばらくは五階でレベル上げだなあ」

「そういう現実も解って助かった」


 さて、上にあがろうかと思って階段の方へ歩いていったら、前方に配信冒険者パーティがいた。

 ニヤニヤしてんな。

 人数は十二人ほど。

 二パーティのレイドだね。


「なんだ、おめえら、道を塞いでんじゃねえよっ」

「おう、おうおうおう、しょぼくれジジイが『透明ゴリラのヒデオ』とか呼ばれて粋がってんじゃあねえよっ、なあっ!!」


 やれやれ、おじさん目当てかあ。

 俺は姫川ちゃんと高木ちゃんの前に出た。


「どきなさいよ」

「ははっ、中年のオヤジが……」

「たたきのめせ、ゴリ太郎、ゴリ次郎」

『『ウホウホ』』


 ガッチャーン、ドッチャーン、ビタンビタンという何だか野蛮な音が鳴り響き、十二人の配信冒険者は地に倒れ伏した。


「まだやる?」

「て、てめえっ、てめえっ」

「ゴリ太郎、ゴリ次郎っ!!」

「わ、解ったt、解った-!! た、ただの冗談なんだ、ごめんごめん」


 半グレのリーダーっぽい人が地面に武器を投げ捨てると、他のパーティメンバーもそれに習った。


「こんな奴ら殺しちゃえば? ヒデオ」

「いやあ、あんまり血を見るの厭でねえ。懲らしめたら良いよ」

「次はもっと徒党を組んでくるかもよ」

「最大で十八人でしょ、なら大丈夫」

「ゴリラつええなあ」


 降参した敵も近くを通る時は注意しないとね。

 偽装で降参したふりもあるから。


 斧を持った逞しい半グレが吠え声を上げて立ち上がり、近くを通っていた俺に斬り掛かってきた。


 がっくんと膝を折って地面に転び、ゴリ太郎とゴリ次郎に持ち上げられて、凄く振り回された。


「うぎゃあああっ、うっぎゃああ、た、助けてえ、助けてえっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」


「最初に転んだのは『モグ』のお手柄かあ」

「お前、可愛いだけじゃなくて、結構役に立つなあ」


 『モグ』は姫川ちゃんと高木ちゃんに抱き上げられて、褒められて喜んでいた。

 魔物も人間の敵もあまり足下を警戒はしないので、『モグ』の奇襲はなかなか良い感じだね。


 その後は半グレ配信冒険者の襲撃も無く、襲ってくるのは主に魔物で、五階を抜けて、空の見えるゾーンにたどり着いた。


「ふわああ、洞窟は緊張するなあ」

「やっぱ、五階までと違うな」

「自信が付くまでは五階までで修行した方が良いね」

「解った-」

「修行だ修行」


 前向きなJKさんで良いな。


 その後は順調に一階ロビーまで上がった。

 彼女らは魔石を交換に行くようだ。


「それじゃ、俺はこれでね」

「あ、分け前を」

「いいんだよ、たいした事はしてないしね、取っといて」

「ヒデオー」

「ヒデオー」

「「あんた良い奴だなあっ!」」

「二人で死なないで頑張ってね」

「おう、頑張るよ、そのうちリーディングプロモーションにも入るからよ」

「そんときは護衛してくれよ」

「そうだね、デビューできたら、付いてあげるよ」

「「やったーっ!!」」

『まあ、それはねえけどな』

『まったく、ダーティペアのくせに図々しい』

「うるせーっ!」

「んにゃろう、駄目リスナーめ、表にでろっ!」

「あはは、リスナーと喧嘩しちゃだめだよ」


 こうして、俺は今時の女子校生コンビと別れを告げた。

 さて、今日は一人で呑むかな。

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