第75話 今日は特に何もない一日

 自宅アパートで目を覚ました。

 今日はリーディングプロモーションには行かないので、ちょっと遅めの起床であるな。


 明日のマリエンライブを控えて一日の休養日であるね。

 ちょっと暇になっちゃったね。

 どうしようかなあ。

 パチスロにでも行くかなあ。

 とはいえ、最近あまり賭け事とかする気にならないんだよね。

 なんか謎のお金が口座に入ってくるからなあ。

 生活に不安が無くなると、賭け事で一攫千金、とかあまりやらないようになったな。


 前は家賃だけ残して、食うや食わずでパチスロとかしてたんだけど、あれは勝った時に助かるんで楽しいのであったのだなあ。

 今は沢山口座にお金があるからね。

 どこか島にでも引っ込んでのんびり漁業とかして暮らしたいねえ。

 透明ゴリラを使ったゴリラ漁はどうだろうか。


 マリエンライブが終わったら、どこか別の街に行くかな。

 意外と迷宮は楽に稼げるけど、ゴリラの事を皆に知られるのが抵抗があるね。

 でも札幌迷宮に移ってもすぐばれちゃうからなあ。

 困った困った。


「どう思うよ、ゴリ太郎ゴリ次郎」

『うほうほ?』

『うほー』


 まあ、ゴリラに相談してもしょうがないか。

 よっこいしょ。

 立ち上がり、用をたして、着替えてアパートを後にする。


 ひさびさのオフだなあ。

 アパートの近所には川崎競馬場もあるんだけど、おじさん競馬はやらないからなあ。


 映画でも見ようかな。

 今は何がやってるのかな、チネチッタでも行ってみるか。


 川崎には映画館が結構沢山在る。

 昔は名画座とかあったけど、今はだいたい三カ所かな。


 TOHOシネマズと、109シネマズ、あとチネチッタだね。

 シネマコンプレックスが三つと結構豪華だね。


 警察署の通りをどんどん駅に向かって歩いて、銀流会通りの所で左に曲がるとチネチッタである。

 イタリアの街を模した場所で、不思議な感じの場所になってるね。

 小洒落た飲食店とか、飲み屋さんとかも多いよ。


 さて、今やってる映画は……。

 洋画は迷宮映画が多いね。

 邦画とかもやってるけど、あまり知ってる映画はやってないなあ。

 あまりピンとこないね。


 ガーガーと音がしたので、そっちを見ると赤坂さんがローラースケートで走ってくるところだった。

 なんで諜報系なのに、この人はこんなに目立つ格好なんだろうね。


「よお、ヒデオ、今日はオフか」

「明日のマリエンライブのための休養日だから、ぶらぶらしてますよ」


 赤坂さんはチューインガムをプウと膨らませた。


「そうか、映画みんのか」

「それが、どれもピンと来なくて、面白いのはどれでしょうね」

「わたしもあまり映画見ないからなあ。勉強に迷宮物でもみれば良いんじゃね?」

「迷宮物かあ」


 迷宮物はちょっと前から定番になったジャンルで、迷宮の冒険のノンフィクションと、あとフィクションだ。

 今やってるのは、『素晴らしいホワッツマイケル』というノンフィクション映画と、アメリカのアーカンソー州であった、カメラピクシー大虐殺事件を題材にとった『アーカンソー迷宮十五階』という映画だね。


 世界一の配信冒険者パーティの『ホワッツマイケル』の映画か、事件映画か。

 事件映画見るかな。


 赤坂さんは黙ってガムをくちゃくちゃ噛んでいた。


「あの……、良かったら一緒に見ませんか」

「え、おお、ヒデオのくせに私を映画に誘おうとは生意気な。いいぜ。あのアーカンソーピクシー大虐殺事件がなんで起こったか興味あるしな」


 赤坂さんは俺の腕をとってチネチッタの中にひっぱっていった。


 女性と映画なんか、何年ぶりだろうか。

 最後の映画は、あの頃だから、十年ぶりぐらいかな。

 赤坂さんはスパイの女の人だけど、ちょっとワクワクするね。


 映画は面白かった。

 このアーカンソー迷宮の十五階事件は詳しい動画がDチューブで公開されているのだけど、実際の動画では解らないカメラピクシーに攻撃した配信冒険者の心の闇を描いていて説得力があった。

 というか、カメラピクシーさんたちは怒るとあんなに怖いんだなあ。

 俺も無愛想ちゃんを怒らせないようにしよう。


 ちょうどお昼になったので、赤坂さんとマクドナルドに行ってランチとする。

 彼女はマックが似合うね。

 あと、なんだか、高校生の頃のデートを思いだして心がほっこりした。


「いまはカメラピクシーに攻撃してもああいう惨劇にはならねえんだよな」

「え、そうなんですか」

「迷宮側の仕様が変わって、物理でも魔術でも攻撃を反射して攻撃者に返す仕組みになってるんだ」

「ああ、そっちの方が良いですね」

「まあ、『Dリンクス』のタカシがらみだけどな」

「そうなんですか」

「まったく、タカシの動画ぐらい見ろ、ずっとこの商売を続けて行くんだろ?」

「あはは、動画を見るのが苦手で、映画なら集中できるんですけど、なんででしょうね」

「Dパッドを買え、年寄りには画面が小さいから目に悪いからだろうよ」

「ああ、そうかもしれませんね」

「鮫島なんかは、休日ずっとでかいディスプレイで動画みてるぞ」


 鮫島さんはインドア派の人なんだねえ。


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