第68話 通しのリハーサルが続くよ

 『サザンフルーツ』のリハーサルが終わって、三人がステージから降りて来た。


「凄く良かったよ」

「ありがとう、ヒデオ」

「ふう、つかれましたー」

「だんだん良い感じになってきたね」


 『サザンフルーツ』と入れ替わりに『チョリズ』が上がってきた。

 リズミカルな楽曲が流れ始めた。


「チョリ先輩も良いわね」

「『おはようの歌、ロングVer』ね」


 綺麗な歌声だった。

 朝の番組で見た事あるな。

 聞いているとすっきりしゃっきりする。


『おはようおはようおはようございます~~♪ すてきな朝、青い空、白い雲に今日の元気をはじけさせましょ~~♪』


「『吟遊詩人バード』の歌は魔力が乗るからいいわね」

「ミキちゃんの歌の方には、魔力乗せないの?」

「アレンジの人に頼んで、ちょっと改造して貰ったけど、ちょっとなのよね」

「そうなんだ」

「本格的な呪歌を取り入れた歌は次の曲ね。『思いで酒』をアレンジして貰うつもりよ」


 それは良いねえ。

 舞台で歌う時は【さちここばやし】で要塞化して歌うのかな。


「ヒデオはあまり『吟遊詩人バード』の歌を聞かないからピンときてないわね」

「ごめんね、おじさん歌謡曲うとくって」

「ヒデオさんらしいわ」


 ミキちゃんは口元を押さえてウフフと笑った。


 チョリさんの『おはようの歌、ロングVer』は、色々な呪歌を繋いで、色々な作用をしかけて、空に消えて行く。

 聞くジェットコースターみたいだね。

 ゴリラたちもノリノリに踊っていた。


「ライブはどれくらいの時間やるのかな」

「ミニコンサートだから、そんなには長くやらないよ。うちと『チョリズ』さんが一曲ずつ、『マリア&みのり』が三曲ね」

「メインが三曲かあ」

「みのりちゃん、リーディングプロモーションに入ってそんなに経ってないからね、三曲でも新曲は一曲よ、あとはマリアさんの曲を一曲、あとはゆかにゃんのカバー曲ね」

「ゆかにゃん?」


 ユカリちゃんかな?


「史上初の『吟遊詩人バード』の木の下ゆかりさん、三年前に惜しくも死んじゃったけどね」

「ほうほう、そんな人が」


 『吟遊詩人バード』の歴史も意外に古いんだね。


「三年前に偶然『吟遊詩人バード』になったんだけど、転職条件が解らなくて、みのりんが見つけるまで幻の職業って言われてたのよ」

「え、成り方わからなかったのか、転職条件って?」

「鳥の羽を身に付けるだって、笑っちゃうわよね、異世界だと『吟遊詩人バード』には羽帽子が付きものらしいわよ」


 ほお、それはそれは。

 異世界の風俗がこっちの転職条件にも関わってくるのか。

 異世界にも『魔獣使いモンスターテイマー』さんとかいるのかな?

 一度会ってみたいねえ。


「ヒデオなら、きっと将来、異世界に行けると思うよ」

「そうそう、地下150階、最深部の魔王さんを倒すと、異世界へのドアが開くと言ってましたよ」

「私たちはアイドルだから、適当な階層で止まるでしょうけど、ヒデオさんは魔王様のところまで行きそうですね」

「よしてよ、魔王さんとか怖いよ。途中、レグルスさんとも戦わなきゃならないんでしょ?」

「サッチャンが百階のフロアボスだってさ」

「むりむりむり」


 俺が手を横に振ると、ゴリラ達も真似をして横にふった。


 チョリさんのリハーサルが終わった。


『次は、通しで、開始からやりましょうよ、まだ、時間あるし』


 チョリさんが『サザンフルーツ』の三人にマイクで声を掛けた。


「そうですね、やりましょう。じゃ、ヒデオ、いってくるね」

「応援してくださいね」

「ゴリちゃんも一緒に」

「ああ、いっといで」


 『サザンフルーツ』の三人は走ってステージに向かっていった。

 うん、何かを真剣に練習している姿は尊いね。


 俺は会場を移動して、色んな場所から、『サザンフルーツ』の歌を聴いた。

 うん、さすがに、どこかで音が曇るとかは無いね。


 歌だけじゃなくて、開場の挨拶とか、『チョリズ』さんへの引き継ぎのナレーションとかも入るね。

 おじさんの感覚では、こういうのはステージで即興でやってると思ったんだけど、台本があるのね。


 ゴリ太郎の肩に立ち上がって、高い視線で見てみる。

 ヒカリちゃんが吹き出したが、視点が変わると見え方がちがうね。


「ヒデオ、空飛んでるみたいだからやめなよ」


 ミカリさんが呆れた声で俺に言った。


「はは、すいません」


 ゴリ太郎にゆっくり下ろしてもらった。


「ハシゴというか、脚立みたいにも使えるのか、いいな」

「電灯を取り替えるのに便利ですよ」


 通しのリハーサルが終わった。

 あとは午後から、『マリア&みのり』さんたちが来てからになるね。


「ヒデオ、ランチに行こうよ」

「美味しいお店みつけたんだって?」

「そうそう、食肉会館の食堂、地味なんだけど、お肉がおいしいんですよ、チョリさん」

「たのしみね、行きましょう」


 みんなでランチになるね。

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