第67話 朝起きて支社に行く

 ビンバッチョロピピロン!!

 ビンバッチョロピピロン!!


『おはようございます、ヒデオさん、今日もマリエンでリハーサルですよ』

「毎日ありがとうね、ミキちゃん」


 ふわあ、今日も良い天気だなあ。

 さて、冷蔵庫から菓子パンを出して、牛乳で流し込む。


「さて、行こうか、ゴリ太郎、ゴリ次郎」

『ウホウホ』

『ウホウホ』


 俺達はアパートを出て、国道を渡り、川崎の街に入り、市役所の裏のリーディングプロモーション支社があるビルに入る。


「おはよう、ヒデオさん」

「おはようございます、山下さん、今日もリハーサルですか」

「そうそう、今日は通しで、『サザンフルーツ』『チョリズ』『マリア&みのり』で通しのリハーサルだ」

「だんだんと開催が近づいてきましたね」


 ムラサキさんと、三郎太くんと朝の挨拶を交わす。


「おはようございます」

「おはようっす」

「おはようさん」


「おっはよー、ヒデオ、今日もがんばろー」

「あ、ヒカリちゃん、おはようございます」

「おはようございます、ヒデオさん」

「今日もよろしくおねがいしますね」

「ねえねえ、マナー講座どうだった? 三つ星レストランに行ったんでしょ?」

「すごく美味しかったよ」

「わあ、良いなあ、私も行きたいな」

「マリエンライブの打ち上げはどこかのホテルらしいわよ」

「わ、立食、良いね」

「楽しみですう」


 マリエンライブの打ち上げもあるのか。

 それは楽しみだね。


「おはようヒデオ、今日はよろしくね」

「よろしくおねがいします、チョリさん」

「あれ、マリアさんとみのりちゃんは?」

「みのりの学校があるから、終わったら来るらしいわよ」

「わ、楽しみ楽しみ、鏡子さんも来るかな」

「来るわよ、きっと」

「鏡子さんってだれ?」

「『Dリンクス』の前衛さんよ、凄腕なんだから」

「おお、『Dリンクス』かあ」


 どうも、最近の迷宮界隈は『Dリンクス』を中心に動いているみたいだね。

 よくメンバーの話を聞く。

 上り調子のパーティみたいだね。


 メンバーが集まったので、マイクロバスに乗り込んで川崎マリエンを目指す。

 今日は『チョリズ』が居るので、ちょっと狭いね。

 『チョリズ』はチョリさんのバンドの方のパーティで、音楽家中心でメンバー編成されている。

 簡単な戦闘はできるけど、基本的にはスタジオミュージシャンらしい。

 専属のミュージシャンとか、付くんだねえ。


 川崎マリエンに着いてマイクロバスを降りる。

 ああ、今日も良い天気でリハーサル日和だね。


「そいじゃ、ヒデオ、行ってくるよ」

「行ってきまーす」

「見ていてくださいね」

「ああ、行っておいで」


 『サザンフルーツ』の三人が楽屋のトレーラーに走っていった。

 チョリさんが女王のように立って辺りを睥睨へいげいしていた。


「なかなか良い感じに仕上がってきたわね、『サザンフルーツ』も」

「そうですね」

「ヒデオのお陰かしら、なんだかのびのびやっているように見えるわ」

「そんな事はありませんよ」


 俺はゴリラたちを通路の凹んだ所に立たせながら、そう言った。

 『サザンフルーツ』達が良い感じになってきたのは彼女達の努力の成果で、俺の影響なんてのは無いだろうよ。

 うん。


「ゴリちゃんはここにいるのね、おお、ふかふか」

「チョリさん、そこは、お尻ですよ」

「あはは、あ、尻尾があるのね、短い」


 ゴリ太郎、うほっという顔をするのはやめなさい。


「見えないのに居るのは面白いわね、やっぱり。ステージアクトとかに使えないかしら」

「ステージアクト?」

「透明だから、歌ってる時に持ってもらって飛んでるみたいにするとか」

「歌うの大変ですよ」

「ちょっとやってみましょう」


 なんだなあ、チョリさんはお転婆な感じだね。

 アカペラで歌っているチョリさんを優しく握って、ゴリ太郎が動かした。

 おお、なんだか飛んでるみたいでへんな絵面だなあ。

 舞台監督が目ざとく見つけてやってきた。


「おお、いいねえ、チョリさん、舞台に取り入れるかい?」

「うーん、ちょっと揺れが凄いわ、ちょっと時間を掛けて練習しないと、ちゃんと歌えないかも、次のコンサート用ね」

「そうかー、しかし、透明ゴリラは面白いね、大道具にもなりそうだ」

「大道具なら、『サザンフルーツ』のミキの【さちここばやし】は取り入れないの? 凄く目立つわよ」

「いやあ、凄く良いんだけどさあ、オープニングアクトだからねえ、あんまり目立ってもさ」


 そうか、ライブ全体の構成というものがあるのだから、前座があまり目立っても良く無いのだな。

 せっかくのレアスキルももったいないね。


「そんなにがっかりした顔をしないのよ、ヒデオ、『サザンフルーツ』のコンサートでは使えるしね」

「あ、そうですね」


 お、舞台に『サザンフルーツ』が出て来た。

 昨日と同じようにキラキラしたステージ衣装で歌い始める。


 テンポ良く『南国フルーツパラダイス』が流れて行く。

 やっぱり、良い歌だよなあ。


~南洋じゃ美人ってあなたは憎らしい事をいうけれども~♪

~そうよ私たちはサザンフルーツ、どれから食べてもおいしいぞっ♪

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