第61話 高いビルの中華屋から出たら赤坂さんが迎えてくれた

 元気が無くなったリーランさんを置いて高級中華料理屋さんから出た。

 うん、もう黒いワイヤーの橋はどこからも掛かって無いね。

 諦めたかな。


 エレベーターに乗って地上に降りると、赤坂さんがふくれっつらで風船ガムをプウと膨らましていた。


「わりい、ロシアの別の用事で目を離して見逃してた」

「いや、別に良いんですよ、自分のトラブルですしね」

「あんたと『オーバーザレインボー』はあたしの担当になったからさ、ごめんな」


 おお、俺と霧積くんが所属している『オーバーザレインボー』が赤坂さんの担当になったのか、それはなかなか頼りになりそうだね。


「これから帰りか」

「中国の組織の人に、たらふくパイカルを飲ませて貰ったので帰って寝ますよ、明日はマリエンでの通しのリハーサルの護衛です」

「そうか」


 赤坂さんはローラースケートスニーガーをガーガー言わせながら歩く俺の横を付いて来ている。

 色々な人と知り合えるなあ。

 冷凍食品倉庫で働いている時は、そんなに人とは知り合えなかったなあ。

 主任とバイト仲間ぐらいだった。

 うん、今の方が楽しいね。


 歩いて国道を越えてアパートの前まで来た。


「それでは赤坂さん、おやすみなさい」

「ああ、またなヒデオ」


 赤坂さんはくるっとターンしてガーガーとローラーで帰っていった。

 変な人だなあ。

 なんかムラサキさんとキャラ被っている気もするね。

 『盗賊シーフ』さんかもね。


 さて、自室に戻り、万年床に潜り込んで寝た。

 パイカルの酔いが良い感じに回っていたね。


 すやあ……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ビンバッチョロピピロン!!

 ビンバッチョロピピロン!!


 うおおおっ、って、ミキちゃんからのモーニングコールかっ。

 なんだかこの変な音を聞くと心が焦るね。


『おはようございます、ヒデオさん、今日もがんばりましょうね』

「はい、お電話ありがとうね、今から出るよ」

『はい、おまちしています』


 ミキちゃんはしっかりしていて良い子だね。


 いろいろと用足しをして、菓子パンと缶紅茶で朝ご飯として、川崎の街にゴリラを連れて出た。


 リーディングプロモーションの支社に行くと、護衛の山下さんと、ミカリさんと、ムラサキさんが迎えてくれた。


「おはようございます、ヒデオさん」

「おっはよー、ヒデオ」

「今日もおねがいしますね、ヒデオさん」


 『サザンフルーツ』の三人が挨拶をしてきた。


「おはよう、今日もよろしくね」


 山下さんの引率で近くの駐車場からマイクロバスに乗り込んで、川崎マリエンへと向かう。


「今日は平日なのに、学校はお休み?」

「そうそう、お休みお休み」

「芸能科だから融通が効くんですよ」


 そうなのか、便利な高校があるんだね。


「昨日はどこで呑んでたの、ヒデオ?」

「ちょっと伝手があって、高級中華料理屋さんで呑んだよ」

「わあ、良いわね」


 まあ、黒社会の組織が奢ってくれたんだけどね。

 そんな事をわざわざ言うことは無いか。


 マイクロバスに揺られてマリエンの駐車場へと入った。

 車を降りてみると、結構柵とか出来ていて、コンサート会場っぽくなっているね。

 ちょっとの時間でできあがってしまうものなんだねえ。


「じゃあ、私たちはリハしてるから」

「ヒデオも警備頑張ってね」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、がんばってね」

「「「ハイッ!」」」


 『サザンフルーツ』の三人はタタタと小走りで楽屋がわりのキャンピングカーに入っていった。


 俺は護衛さんたちと一緒に敷地内警備だね。

 というか、リハーサルなんで、会場警備のリハーサルみたいな感じか。

 建物や柵が出来たので、警備計画が解りやすくなった。

 山下さんが、書類を見ながらシフトを決めて行く。

 俺は『サザンフルーツ』の出番から終了までステージで警備のようだ。


「見えないゴリラは便利だからね、ステージの端においても気にならないし」

「そうですね」

「銃弾とかどうなんだ、ヒデオ」

「どうかというと?」

「ゴリラ達は打たれたら死ぬのか?」

「どうなんだろう……」


 鉄砲でゴリラが撃たれた事無いからなあ。

 どうよ、ゴリ太郎、ゴリ次郎、そこんとこは。


『うほうほ?』

『うほー?』


 解らないようだ。

 戦争中に銃弾を受けた事は無いのかな。


 戦争の事を思ったら、ゴリ次郎がポンと手を打った。

 ああ、ゴリ太郎もゴリ次郎も撃たれた事があるようだ。

 どうも、穴は開くけど、ほっとくと治るし、ある程度は大丈夫そう、との事だった。

 意外と頑丈なんだなあ。


「拳銃弾ぐらいなら何とかなりそうです、ライフル弾だと貫通するかもしれません」

「そうなのか」

「あ、ライフルも貫通すると速度が落ちて、威力がなくなるそうですよ」


 戦争中、お爺ちゃんを庇った光景がゴリ太郎から伝わってきた。


「そうか、それは助かるな」


 どうやら俺はライブ中ずっとステージの警備のようだね。

 何か有ったら、ゴリラでカバーができるから良いかもしれないね。

 うんうん。




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