第46話 新型鞭を試して見る>倒れる

 さっそく鞭を試して見ようかな。

 ポータルで一人で十階もキツそうだ、四階とか五階に行ってゴブリンと戦おうかな。


 ロビー階を下りてレストラン街を抜けて、三階に下りる。

 平日の昼間だから、あまり配信冒険者さんたちは居ないね。

 小学生とかの子供達も、もうちょっと後だろうか。


 ふよふよと、不機嫌そうなカメラピクシーのビキニちゃんがやってきた。


『お、ヒデオがソロだ』

「あ、新型鞭の練習なんですよ」

『おおテイマー武器が鞭だからか、良いな』

『鞭も不人気武器だけど、チアキとかマリちゃんとか使ってるからちょっと人気盛り返し中かもな』

『器用度で振るんで、『盗賊シーフ』とかと相性が良いからな』


 そうなのか、なかなかリスナーの意見は面白いな。


 お、目の前に角兎が出て来た。

 よし!


 俺は長い鞭を構えた。

 長いが俺には『鞭』の才能があるはずだ。

 スキル【ゴリラ】でも、使えるかもしれない。


 俺は脚を踏みだし、鞭を振った。


 ピシュリン!


「あいたあ!」


 鞭が俺の脚を襲ってふくらはぎを叩いた。

 とても痛い。

 そして、脚に絡まって、俺は草原に倒れた。


「ぴきゅーっ!」


 目を光らせた角兎が額の一角をこちらに向けて突っ込んできた。

 あぶなーいっ!


 ゴリ太郎が角兎をひょいとつまんでひねり潰した。


「ありがとう、ゴリ太郎」

『うごうご』


 しっかりしろよ、という感じにゴリ太郎は吠えた。


『あーーー』

『あーーー』

『ヒデオ、器用度無いだろう』

「うぐぐ、面目ない」


 なんだか根拠の無い自信で出来ると思ったが、そんな事は無かった。

 次の角兎が出て来たので、【拘束】スキルを使って見る。


 パシリ。


 鞭が生き物のように動いて角兎を捕まえた。

 こっちはスキルだから自動的に出来るね。

 ナイフでさっくりと首を切って倒した。


 草原の岩を標的に鞭を振ってみた。

 うーん、難しい。

 なかなか当たらないし、当たっても弱かったりするね。

 あと、鞭は速度の打打撃武器なので、スピード感のある戦いを心がけなければならないのだが、俺は結構鈍いので体のリズムとズレが起こって動きのバランスを崩してしまうな。


『ヒデオ、運動神経がねえ』

『レベルアップで器用度上げろ』


 レベルアップで特定パラメーターだけ上げる方法とかあるのかね。


『レベルアップ前にやっていた事がパラメーターの上がりに関係するらしい。器用度上げたければ、知恵の輪とかやれ』

『知恵の輪は知性じゃないのか?』


 なかなか配信冒険者修行は大変なんだなあ。

 まあ、ケインさんも頑張っているんだから、俺も頑張ろうではないか。


 しかし剣術ならお師匠さんも居るだろうが、鞭だとなあ。

 怪しい風俗嬢に習うか……。

 いやそんな。


 ブンブン振ってみたが、やっぱり長くて難しいな。

 狙った所に当てるのが、まず大変だ。


『これは、テイマーになって【鞭術】スキルを生やすまで、実用化できないな』

『元々、鞭は当たっても打撃だから、そんなに良い武器じゃないんだよな、ハンマーでもないから威力無いしさ』

『相手の命を取らないで、動きを止める武器だからなあ、殺人兵器でも無いのよ』


 そうかあ、あまり考えて無かったなあ。

 まあ、威力で言えばゴリラ達が殴る方が百倍強いんだけどね。


 結構高い武器だったから、頑張って覚えよう。

 鞭術かあ。

 Dチューブで動画でも検索してみようか。


 どれどれ……。


 うーん、あんまり鞭動画ないねえ。

 小さい女の子がムカデ鞭で戦っている動画のまとめとかあったけど、とんでもなく動きが良いね。

 さすがに俺はおじさんなので、あんなキレキレの動きは出来ないなあ。

 チアキちゃんかあ、幼いのに凄いなあ。

 『盗賊シーフ』だから器用度が高いんだろうね。


 それでも二三時間振り回していたら、ちょっとは慣れて、角兎に何とか当てる事はできるようになったね。

 兎は動きが速いから大変だけどね。


 なんだか三階の丘でモグラっぽい生き物が地面の穴から頭を出しているのに気が付いた。


『お、ネームドモンスターの『モグ四郎』だ』

『三階ネームドは珍しいな、なんか良い物出る?』

『出ない、珍しいだけだよ』


 レアモンスターなのか。

 ただ、レアドロップは無いらしい。


 俺は鞭を振って、『モグ四郎』に当てた。


「ぴゅい!」


 驚いて地面の中に潜ろうとしたので、【拘束】スキルを発動して、『モグ四郎』を捕まえた。


『おお、捕まえおった』

『ヒデオ、テイムだ』

『そうじゃそうじゃ』


 いや、まだ『魔獣使いモンスターテイマー』になってないからテイムとか出来ないんじゃないかな?

 というか、職業ジョブチェンジ条件が、テイムした魔物が居ること。みたいなので職業ジョブ無しでもテイムは出来るんじゃあ無いかな。


 俺は【拘束】した、『モグ四郎』の頭に手を置いた。


――テイムってどうしたら良いんだろうか。


 『モグ四郎』の頭をなでなでなでと撫でてみた。

 意外に体温が高くて気持ちが良いな。


 なんだか、いきなり『モグ四郎』との間に虹の橋みたいな何かが繋がった気がした。


「モグ四郎?」


 オーイエスという感じに『モグ四郎』はうなずいた。


『『『『おー、テイムしおった』』』』


 え、テイム成功なのか?

 俺は鞭を外してやった。

 『モグ四郎』は逃げないで俺の手に頭をこすりつけた。

 おおー、懐いているなあ。

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