第37話 リーディング支社に戻ると良い知らせがとどいた

 ケインさんは霧積くんと並んで、教わった大上段からの切り下ろしを練習していた。

 ぎこちなかったけれども、五回もやるとだんだんと安定してきたね。


「なかなか難しいですね」

「まあ、修練じゃ。剣の振り方を覚えて状況によって組み立てんとな」

「そうですか」


 ケインさんは真面目な顔をして素振りを続けた。

 結構運動神経は良さそうだから、剣を覚えるのも早そうだね。


「ヒデオさんとやら、あんたは剣はいいのかい?」

「いや、まだ、何をするかも決まっておりませんで」

「主に何を使って敵を倒してるんじゃ?」

「見えないゴリラで」

「は?」

「ヒデオは本当に、見えないゴリラ二匹を使役して魔物と戦っているんですよ」

「そ、それはべらぼうな戦い方じゃなあ」


 まあ、べらぼうよね。


「今も、そのゴリラは居るのかい、ヒデオさん」

「居ますよ、霧積さん」


 俺はゴリ太郎に命令して、手近な岩を持ち上げさせた。


「おお、これはこれは」

「うお、不思議な感じですね」


 初見だと、岩が勝手に浮いているようにしか見えないからね。


「なるほど、じゃあ、剣はそれほど重要ではないのだなあ」

「近接戦闘すると、状況を把握しにくいですからね、槍か飛び道具が良いかもと思ってますよ」

「そうじゃな、いや、面白い能力じゃ」

「いえいえ」


 『魔物使いモンスターテーマー』って、メイン武器なんなんだろうね。

 鞭とかかな?

 今度、神殿で悪魔神父さんに聞いてみないと。


 小一時間、ケインさんと霧積君の素振りを見守った。

 厳岩師匠はあまり指導をしないで、素振りのちょっとした欠点を軽く指摘して、改善は生徒に任せる感じだね。


 時々、小学生や中学生がやってきて、挨拶をして去って行く。


「あれはな、土日にやっている初心者講習の生徒達だな」

「子供に指導なさっているのですか」

「子供は無軌道じゃからなあ、装備とか剣の振り方、盾の使い方を一通り指導しておるんじゃよ」


 なかなか偉い先生だなあ。

 頭が下がるね。


「なあに、誰かがやらねばならんことじゃからな、隠居したジジイがやるには丁度いいんじゃわい」


 そう言って厳岩師匠はカカと笑った。


 子供にとっては迷宮は心躍る冒険の場所だからね。

 それは来たがるよなあ。

 でも、おじさんになると、子供の無鉄砲さが怖いのも解るなあ。

 親御さんにとっては迷宮なんかとんでもない場所なんだよなあ。


「厳岩師匠ありがとうございました、コレからもお願いします」

「特に練習日は決めておらんが、週に二回ぐらいはおいで」

「はいっ、なるべく沢山来ます、それで授業料ですが、お幾らですか?」

「「……」」


 厳岩師匠と霧積君が黙った。


「そういや、師匠、俺も授業料払うよ」

「いや、まあ、その」

「配信料も入るしさ、やっぱ無料だと悪い」

「只でやってたんですか?」

「いやあ、子供からは取れんしなあ、それから高校生からも気の毒でな」

「僕はアイドルなので稼いでますから、月五万でいかがですか、安いですか?」

「お、おう、気持ちで良いぞ,霧積もな、無理するな」

「必要経費で落とせますから、そこら辺も、ちょっと詰めましょう」

「お、おう」


 あはは、月謝を貰うという考えが無かったのか。

 厳岩師匠は世慣れてない感じで良い人だなあ。


 俺とケインさんは、厳岩師匠に別れを告げて、地上を目指した。


「なかなか良い師匠みたいですね」

「欲の無い人だったね、ちょっといろいろお手伝いしたくなったよ」

「子供はボランティアでも良いけど、高校生から上は月謝を取らないと駄目ですな」

「まったくだね」


 俺とケインさんは階段を上がってロビーに出た。


「ヒデオ、今日は付き合ってくれてありがとう、良い時間だから、ランチをおごるよ」

「わあ、ありがとうございます、ケインさん」


 二人で駅前のイタリアンでランチを食べた。

 グラタンランチは美味しかったなあ。


 リーディング支社へと戻ると、アイドルさんたちが増えていた。

 半ドンの学校が多いのかな。


「ヒデオヒデオ、大ニュースだよっ」

「ああ、ヒカリちゃん、どうしたの?」

「川崎マリエンって場所で、『Dリンクス』のみのりんと、世界の歌姫マリア・カマチョさんのユニットのデビューライブがあるんだけど、『サザンフルーツ』も前座で出る事になったようっ」

「おお、それはすごいっ、」

「それは良かったね、うんうん」

「ありがとうケインさんっ」

「一緒に出るのは『サザンフルーツ』だけ?」

「チョリ先輩も出るよ」

「ケインさんとかは?」

「今回は、マリア・カマチョとみのりんのユニットのデビューライブだから、男性アイドルはね」

「あ、ジャンル的な感じで」

「そうそう、だからユカリとかもジャンル違い」

「私はオカルト色物アイドルじゃないですよっ、ケインさんっ」

「おっと、こりゃ失礼」


 ユカリちゃんがひっそりと後ろに居た。


「まあ、『サザンフルーツ』はこの前新曲を出して、売り出し中だから順当って所ね」

「ありがとう、ユカリちゃん」

「私も夏までに新曲を出して追い上げるわ」

「そうだね、ヒデオ組でみんな成り上がろう」

「ゴリラたちの元でっ」

「「「おうっ」」」


 変なノリだけど、嫌いじゃないなあ。

 三人は手を合わせて笑い合った。

 みんながんばって売れたら良いね。

 うんうん。

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