第36話

「なんかあったん?」

「えっ?」

「いや、さっき店長と何か話してたから」

「あ、あぁ、いや、別に。大したことじゃないよ」

「ふーん。まぁなんでもいいけど」


 そういって彼女は部屋を出ていく。心なしかどこかそっけない。嫌われてしまったのだろうか。

 慌てて追うように俺もフロアへ出る。ちらちらと彼女を見てしまう。やはり嫌われているとしか考えられない。それでも時たま目が合う。最もこちらがずっと見ているわけだから当たり前なのだが。しかしそれはそれでこちらから目をそらしてしまう。  ダメだ。全く仕事に集中できない。

 今日も又話しかけるチャンスをつかむことはできず、仕事の時間が終わってしまった。これでは一緒に行くのが来年の夏祭りになってしまいそうだ。

 沈む気持ちを抱えながらトイレへと向かう。そして唱えると部屋へとついた。いったいいつになったら彼女を誘うことができるのだろうか。その確認のためにスマホを取り出し、予定表を見る。すると目が覚めるような文字が目に入ってきた。

「期末テスト」

 終わった。何も勉強していない。いや、流石にそれは大げさだが。必要最低限の勉強しかしていない。自慢ではないが俺は成績が良くないのだ。その俺が最低限しかしていないということは他の人から見ればみそっかす程度なわけで。確かに冷静に考えれば、夏休みまで日がないのだから当然期末テストの日も迫っているわけで。彼女に夢中で何も考えていなかった。

 俺は何やってるんだ。頭をかかえ机にうなだれる。あきらめてもう寝てしまおうかと突っ伏していたところある考えが浮かんだ。まてよ。確かに俺が成績が悪いのは答えを知らないからだ。ところがどうだ。今の俺には超能力がある。これを使って皆の考えていることさえ分かれば怖いものなどないじゃないか。よし、寝よう。

 不安が無くなったことに安心したのかぐっすりと眠れた。朝ゆっくりとおき、慌てることなく学校へと向かった。

 教室へつくと彼が話しかけてくる。


「テスト終わったら暇?」

「今日?」

「ううん、テスト最終日の後」

「あー、うん。ひー、ひま。多分暇だわ」


 正直彼女を誘うかどうかに一日も無駄には出来ない。彼女と接触する時間に少しでも当てたいのだが、断りにくい。


「妹がまた会いたがってるんだよね」

「わかった!じゃあ、最終日な」


 チャイムがなるのと同時に彼が背中をみせる。いつもと変わらず、堂々としている。そこから「俺は信じてるぞ」そういわれているような気がする。俺は、逃げるように自分の机に向かい教科書を開く。

 

 最後のチャイムが響きわたり、クラスからは一斉に明るい声で溢れかえる。まるで今までせき止められていたものを一気にはきだそうとしているようだ。無理もない。直近の不安は解消され、後は夏休みに向かうだけなのだから。

 俺もそどこか晴れ晴れとした気持ちだった。テストの出来?勿論散々だった。俺は力を使わなかった。使おうと思えば使えたし、バレない自信もあった。けれども使わなかった。というのもなかなか難しいものだ、自分がどんな問題が苦手で、得意かだとか不自然なく間違えたり正解する技量は俺にはなかった。


「行こうぜ!」


 まぁ、一言で言うと彼のおかげなのかもしれない。

 俺達は、会話を弾ませながら、病院へと向かう。部屋につくと彼女が楽しそうなどこか不安げな表情の彼女が座っていた。彼女も交えて談笑していると、彼女が咳き込み始めた。手のひらを俺らに向ける。

 はじめは笑いすぎだよと言っていた彼だが、なかなか止まらない咳に表情が暗くなる。心配した彼が立ち上がる。すぐにナースコールを押し、看護師が駆けつける。俺

は不安げな彼にそっと


「きょ、今日は帰るわ」


 彼は不安げなまま細かくうなずき、彼女を見つめている。俺は帰った後、携帯から彼にメッセージを送る。当然だが返信はこない。そいつは二日も学校に来なかった。次の日も学校に姿を見せなかった俺は、放課後、決意をする。

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