第32話

 病院につき、アイツらがいる病室に向かおうとする。そこでふと、突然目の前に表れたら喜んでもらえるだろうか。そう考えた俺は、トイレに向かい、言葉を唱える。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 するとたちまち病室につく。辺りに風が吹き、市きりのカーテンが舞う。後ろを振り向くとそこには2人の姿が、ない。テレビを見ているおじいちゃんだった。慌てて病室に出てそいつから教わっていた番号の部屋へと向かった。


「こんにちは」

「あっ」


そういって彼女の表情がぱっと明るくなるのが分かった。


「ごめんな、わざわざ」


そういってそいつは謝ったが、あの顔を見せられれば悪い気はしない。


「気にするなよ」

「今日は何しようか」

「そうだね、折り紙とかするのはどう?」

「いいね、いいね」

 

 彼女は喜びながら俺から折り紙を受け取る。この折り紙はペンダントが買えなかった罪悪感から途中で文具屋で買ったものだ。かなり落差がすごいと思う。それは俺も百も承知だ。

彼女は、タブレットで色々なおり方を調べ、イヌやウサギを折っていく。


「上手い、上手い」


そいつは、彼女をほめながら折っているが、ひどい出来だ。


「アハハは、お兄ちゃん何それ、見てよこれ」

「えーっと、分かった、イヌ」

「ちげぇよ、猫だよ」


夕日が差し込む病室に三人の笑い声が響く。


「そういうお前は、何作って、、イヌだ」

「違う、ねこ」


もう一度笑い声が響き渡る。すると看護師さんがカーテンから顔を覗かせる。


「楽しそうね。でもそろそろ時間よ」


そう促されると彼女が


「やだ、もっと一緒にいた―い」

「わがまま言うなよ、じゃぁ、よろしくお願いします」


こうしてみるとこいつもやっぱりお兄ちゃんだという感じがする。


「また、今度来るから」


俺も彼女をたしなめるように言う。すると納得できない表情ではあるが


「うん分かった。絶対だよ」


 うつむいた顔をあげ、こちらを見る。その顔が思いのほか真剣な表情をしていてこちらに緊張を与える。


「あぁ、絶対だよ」


そういって、そいつと部屋を出た。


「いやー、本当にいつもありがとな。日に日にアイツの顔が明るくなっていくのが分かるよ」

「俺も折り紙がアンナに苦手なんだって初めて知ったよ」

「あははは、お前いいやつだな」


 ふいにほめられ、顔が暑くなる。待て待て、こいつは同性だぞ。生憎だが俺は、そういった趣向はない。気持ちを落ち着かせようとするが顔の熱が下がらない。慌てて何か別の話題を振ろうとする。


「そ、そういえばクラスで可愛いと思う子っている?」

「えっ、急にどうしたんだよ」

「いや、実は最近気になっている子がいてさ」

「マジか!お前もそういうのあるんだ」

「えっ?」


 顔の熱が下がり、冷静な目をしているように見えたのか、そいつは、少し慌てた様子で、


「違う、違う。あんまりそういうのに興味なさそうだったからさ」


と訂正する。


「あぁ、そういうことね」


 とこちらも妙に取り繕っているようなリアクションをしてしまう。


「それで、誰なの?俺も知っている子?」

「あーわかんない」

「何だよそれ(笑)でも気になる子なら、祭りに誘ってみれば?」


 と提案される。


「祭り?」

「うん、期末が終わった後にあるよな、駅の近くで」

「知らなかったわ」

「マジで?毎年そこでカップルが生まれてるらしいよ」


 祭りか。もう少し仲を深めれば誘っても違和感ないよな。とにかくあの娘に嫌われるのだけは避けたい。何とか、祭りまでのバイトで来やすく誘えるような距離感に縮めたい。しかし、彼女は人気だから、相手が埋まってしまう可能性もあるぞ。それを考慮するとそんなに時間はない。


「何日あるの?」

「確か3日位だったかな」


 それなら友達と2日間行っても一日余るな。よし、次の次のバイトで誘おう。次ではまだ早い気がする。


「教えてくれてありがとう。誘ってみるわ」

「あぁ、がんばれよ」

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