第29話

「いこうか」


 そういって彼女が部屋から出てくる。超能力について考え込んでしまっていたおれは、はっとし、慌てて荷物を纏める。

 彼女と駅へ向かう道中、どうにも会話が弾まない。そもそも何の話をしようと思っていたんだっけか。超能力が気になりすぎて忘れてしまっている。


「今日さ、朝下駄箱にいた?」

「えっ、あぁ、いたよ」

「なんかお母さん?みたいな人も一緒にいなかった?」


 それだ。それについて聞こうと思ってたんだ。まずい、この状況を何とか打開できないだろうか。


「いや、忘れ物届けてくれてさ。鞄だったから親がすぐ気が付いたみたいで。おれは学校着くまで気が付かなかったのにね。ハハハ」


 とりあえず、面白おかしい感じで話す。


「鞄忘れたの?ウケる」


 良かった。ウケてる。


「でも、良いお母さんだね」

 

 そういって、今日一番の笑顔を見せる彼女に顔が暑くなる。目線を外すように前をむくと改札口が目の前に近づいてきている。


「送ってくれてありがとうね」


彼女が身体を向けて言う。


「通り道だから」


照れ隠しから少しぶっきらぼうになってしまう。


「じゃぁ、明日学校で」

「うん、学校で」


 学校で?バイト先ではなく、学校か。よし、明日は、一言でも話しかけるようにしよう。

 そう思いながら、彼女がホームへと向かう後姿をぼーっと見ている。そんな時ふと考える。彼女はおれの事どう思っているんだろう。

 テレパシーか。人の気持ちを知るのは少し怖い。だけど、気になる。今までのことを考えれば、悪いことは思われてはいないはず。いや、やっぱり怖い。もしそうじゃなかったらどうしようか。えぇい。悩むのはやめだ。俺は意を決して彼女の背中を見る。


「竹屋に高い竹立てかけた」


 すぐに目をつぶってしまったせいだろうか。周りにいる人達の声が混じりあって、彼女の声らしきものが聞こえてこない。

 電車は駅に着き、大勢の人々が降車する。焦った俺は、もう一度彼女に向かって、早口言葉を唱えようとするが、彼女の姿も既に見えなくなっていた。

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