第27話

「鞄忘れたでしょ」


母からだ。


「とりにきて。下駄は子にいるから」


 下駄は子?下駄箱のことか?そんなことはどうでも良い。母が学校に来てる。慌てて下駄箱に行くと既に母がおれを待っていた。先生と勘違いされているのか何人かの生徒に挨拶されている。するとおれを見つけたのか手を降ってくる。勘弁してくれよ。


「全く、しっかりしなさい」


 割と大きな声で言うので、なだめるように適当に流そうとする。すると母の後ろから後光がさす。彼女が登校してきたのだ。まずい。こんな恥ずかしい姿は見せられな

いぞ。母を押し出すように外へ出し、さっさと分かれるように教室に帰ろうとすると


「あんた上履きは?」


 でかい声で母が言うので注目が集まってしまった。もちろん彼女にもしっかり見られてしまった。はずかしいったらありゃしない。顔が赤くなるのが鏡をみずにも分かるくらい、暑くなってきた。逃げるように教室に帰っていった。

 教室に戻ってきたがまだ心臓がバクバクしている。


「大丈夫か?なんか顔が赤くないか?」

「いや、そんなことないよ」


照れ笑いを浮かべながら、動悸を落ち着かせようとする。まだ顔が暑い。


「それならいいんだけど。というか今日の放課後暇?」

「あ、ごめん。バイトなんだ」

「なに?バイト始めたの?」


 そこからどんなバイトか、時給はどれくらいかなんて、色々話しているうちに始業のチャイムがなる。会話のおかげで少し落ち着いたのか、さほど顔から暑さを感じることは無くなっていた。

 放課後、そいつに別れを告げて、少しわざとらしく、思いついたようにトイレへと向かった。朝と同じようにまずは、駅のトイレをイメージする。細部や周りの音まで、深呼吸をして、目をつぶる。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 見事駅のトイレまでテレポートした。便座に座りながら、足をパタパタさせる。これはもう完全に力を身に着けたといっても過言ではないだろう。

そうかこのまま、バイト先まで行ってしまうか。想像するのは、事務所だ。ロッカーやかけられているエプロン、名札。そして唱える。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 恐る恐る目を空けると見覚えのある事務所へと移動していた。ガッツポーズし喜びの声を挙げると、ドアが開き、店長が姿を見せた。驚いた表情で


「いつ来たの?」


 というので、いや、学校が早く終わちゃってと見当違いの答えをしてしまう。店長も動転しているのか、何度も小さくうなずきながら、外へ出ていった。

朝もそうだったが、人がいる可能性を考えないと、色々聞かれて面倒だぞ。まぁ、後で考えれば良いか。そういって、時間に余裕があるので携帯をいじり始めた。

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