第25話
「そこの3番ロッカーがあなたのロッカーだから。荷物を置いたらレジまで来て」
店長から渡されたエプロンをもち、ロッカーへ案内される。言われるままに用意が済むと小走りでレジへと向かった。
「なかなか似合ってるじゃない。それじゃ、早速レジ業務を覚えてもらうわね」
そういわれ商品の扱いや、支払い方法を教わっていく。それほど難しくはなさそうだ。これならなんとかやっていけそうだ。少しすると彼女も出勤してきた。彼女もレジへ来ると
「今日一日は彼女と一緒に仕事をして下さい。色々教えてあげてね、よろしく」
そう言い残すと店長はフロア業務に戻ってしまった。
「受かってよかったね」
「あ、うん」
「良かったねって、私が誘ったんだっけ」
そう彼女が笑うが俺は緊張していて、上手く話をつなぐことができない。店長とは普通に話せていたのに。周りの目を気にしてしまうからだろうか。
「こ、これってこのやり方であってる?」
「うん。あっでもこうすると楽だよ」
また会話が止まってしまった。無理もないのだ。おれが彼女について知っていることは、高校、名前と可愛さしかないのだ。趣味だとか、普段は何をして過ごしているのか。そういった事を聞けばよいのだ。いや、でも良く知らん奴からそんなこと聞かれたら気持ち悪いか?というか、仕事中だ。いくらバイトとはいえ、集中しなくては。そんなことを考えていると
「お客さんあんまり来ないね」
「そ、そうだね」
「普段は家で何してんの?」
マジか。まさか向こうから聞いてくるとは。やっぱりおれに気があるんじゃないのか?
「いや何って、もちろんオ」
危ない危ない。ついありのままを答えてしまうところだった。
「勉強かな」
少し根暗だと思われたか?しかし彼女はそんなこと気にもかけないという感じで
「ふーん。頭良さそうだもんね」
その言葉は少しうれしいが、少し胸が痛む。
「やっぱ本とかよく読むの?」
「あ、あーうん」
何やってるんだおれは。せっかく彼女が色々話しかけてくれているのに。全く受け答えできてないじゃないか。もっとこう、気の利いた返事ができないものだろうか。
「レジ替わりますね」
そういって、別の従業員が彼女に声をかける。おれも軽く会釈をして、レジから出ようとすると、視線を感じた。ふと目をやると店長がこちらを見ている。どこかまずかっただろうか。少し不安になる。店長がこちらに近づいて来るので、不安が大きくなる。すると彼女は肩に手をやり
「初めてにしては上出来だったわよ」
そういってほめてくれた。良かった。初日から首にされたらカッコ悪いもんな。
「次は在庫整理の仕方を教えてあげて」
「はい」
店長の指示に彼女が返事をする。どうやら彼女とまだまだ一緒に仕事ができそうだ。
「お疲れ様でした」
そういって、ロッカーへと向かう。緊張の初出勤が終わった。
残念ながら彼女は後1時間勤務なので一緒に帰宅は出来ないが、それよりも問題なく終わらせることが出来た安堵の方が大きい。
終わったと改めて実感すると急に疲れが出てきた。今日は超能力は使わずに歩いて家に帰ろう。とてもじゃないが、超能力を使う力など残っていなかった。家に帰ると、ベットに倒れこみ、そのまま眠ってしまった。
「やばっ、風呂!」
目が覚めると、慌てて階段を駆け下り風呂場へと向かう。どれくらいねむっていたんだろうか。ところで今何時なんだろうか。ポケットに入っている携帯で時間を確認する。
すると一件通知が入ってことに気がついた。彼女からだった。
「お疲れ。どうだった?初出勤」
「まぁ、まぁかな」
これじゃ少し冷たい感じかな。もうちょっと愛想がよい感じで返せないだろうか。
「疲れたよ~でも分かりやすく教えてくれたから助かったよお」
良い感じじゃないんですか。これくらいなら良い距離感を保てているんじゃないか。
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