第19話

家に帰ると早速自分の部屋へと駆け込む。机の上に鉛筆を置き、深く息を吸い込む。体育祭では確かこうだった気がする。


「生麦生米生卵」


 鉛筆が小刻みに震えながら浮かびだす。よしよしよし。先端がこちらをむいてくる。キャッチしようと手を伸ばすと、ズボッ。鉛筆が目に刺さる。


「ギャー」


 目を抑えて足をバタつかせる。涙まで出てきた。気を取り直して再び机の前で構える。


「生麦生米生卵」


 今度はおでこに突き刺さる。


「うわぁあぁぁ」


 なんとか涙をこらえて、鉛筆を睨む。てんでダメだ。俺は椅子から立ち上がり、ベッドへ倒れこむ。天井を見上げ、これじゃぁ、彼女を喜ばせることは出来ないなぁ。ぼんやりとしていると天井がだんだんとアイツの顔に変わってくる。


「お前よ、そんなこと考えている暇があったらさっさと練習しろよ」


 俺は一瞬目を見開いたが、すぐに横たわる。


(やったって彼女をがっかりさせるだけだろ)

「確かにがっかりするだろうだろうな。でもそれは、外に出られなかった事じゃなくて、あきらめたお前にだろうな」


 俺は反応せずに横たわったままでいる。しばらく部屋に沈黙が続いていたが、突然部屋のドアの開く音が聞こえた。


「あんた、さっきの声・・・あら、体調悪いの?」


 横たわる俺を見て母が言う。


「いや、ちょっと疲れてるだけ」

「そう、もうすぐご飯できるからね」


 珍しく母はそれ以上何も聞かずに部屋から出ていった。再び部屋が静かになったので、俺は、辺りを見回して、誰もいないことを確認してから、机に向かった。

 結局深夜まで早口言葉を唱え続けたが、どうも上手くいかなかった。あれから鉛筆や漫画本、紙と色々試してみた。何度か上手くいったこともあったが、重さなどは関係ないらしい。

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